*百万回のI LOVE YOU*

孟徳&花


 心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。

 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。

 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。

 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。

 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。

 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。

 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。

 だが。

 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。

 ずっと憧れていることだ。

 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。

 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。

 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。

 

 丞相という広大な国を動かすための重責を担っているせいか、孟徳はかなり忙しい。

 花との時間すらも取れないことが多いのに、なるべく取れるようにと、頑張ってくれている。

 それは感謝している。

 だが、こんなにも働いてばかりいては、躰が持たないのではなかろうかと、逆に心配してしまうほどだ。

 今夜もみっちりと仕事を終えて、孟徳が帰ってきた。

「ただいま、花」

「おかえりなさい、孟徳さん」

 見つめていると疲れ果てているのが解る。

「孟徳さん、大丈夫ですか?」

 孟徳の顔をじっと見つめると、かなり疲れているのが解る。

 花は心配で思わずその頬に触れた。

「孟徳さん、大丈夫ですか? かなりお疲れではないですか?」

 花が心配の余り頬を撫でると、孟徳はフッと困ったように笑う。

「花、大丈夫だよ。君の顔を見れば、それだけで疲れなんて吹き飛ぶから」

「また、そんなことを…」

 花は心配の余りについ、眉間に皺を寄せてしまう。

「本当に大丈夫だよ。それに君には良い知らせを持ってきた」

「良い知らせ?」

 孟徳がくれる良い知らせとは何なのだろうか。花はつい期待をして明るい表情を向ける。

「明日一日休めることになった」

「本当に!」

 明らかに花にとっては最高に良い知らせだ。

 ここのところ、ずっと孟徳と一緒に過ごせてはいなかったから、花にとっては文字通り朗報だった。

「明日はふたりで出掛けようか。ずっとここのところ、一緒に出掛けたことがなかったからね」

「嬉しいです!」

 花が明るい声と満面の笑顔で、孟徳に喜びを伝えると、愛するひとは安堵と愛情が滲んだ笑みを向けてくれた。

「俺だってとっても嬉しいよ。石頭とムサい奴がようやく俺の休暇を認めてくれたんだからね」

「嬉しいです。孟徳さんと出掛けることが出来るっていうだけで、私はとっても嬉しいんですよ」

「うん。それは俺もとても嬉しいよ」

 孟徳と出掛けられる。

 花はそれたけでもう幸せでいっぱいだった。

 

 前日は余りよく眠れなかった。

 眠れなかったと言っても、前半は夫婦らしく愛の営みを送っていたからではあるのだが。

 一旦、寝付けたものの、楽しみ過ぎて直ぐに目が覚めてしまい、それからはウトウトと浅い眠りしか出来なかった。

 浅くて、甘い眠り。

 それはある意味幸せな眠りでもあった。

 花と孟徳は、少し遅めの朝食を取った後、のんびりと出掛けることにした。

 まだまだ新婚なのに、なかなか一緒に過ごす時間が取れなかったから、文字通り密度の濃い甘さがたっぷりだった。

 花はたまに出掛けるのだから、特別なお洒落をしたくて頑張った。

 それは勿論、愛するひとのためなのだが。

 女官たちにも手伝って貰い、きらびやかになり過ぎず、かといって地味にもならず気品良く仕上げて貰った。

 流石は丞相府に勤める女官というところだろうか。

「まあ! 花様! とってもお綺麗ですよ」

「有り難う」

 女官たちに言われて自信を持つと、花は孟徳が待つ部屋に向かった。

「孟徳さん、準備が出来ました…」

 花がはにかんで言うと、孟徳は絶賛するように、花を熱く見つめてくれた。

「そんなに綺麗だと、誰にも見せたくはないね」

「孟徳さんたら…」

「だけど、出掛けようか。君も楽しみにしているし、勿論、俺もね」

「はい」

 孟徳は花の手を取って、さり気なくエスコートをしてくれた。

 

 城下町に出て、先ずは水餃子の有名店に向かう。

 花が好物であるということも勿論だが、孟徳が支配する地域の名物料理でもあるからだ。

「美味しそうですね!」

「ああ。味は太鼓判を押すよ。うちの料理人も大した腕を持ってはいるが、こちらも捨てがたいからね」

「はい」

 孟徳がオススメするように、ぷりっとした食感とジューシーな味に、花は夢中になった。

「本当に美味しいですね。餃子は焼くのも良いですが、こうして煮るのも美味しいですね」

「うん、そうだろう? 俺は水餃子が気に入っているんだけれど、花が同じように気に入ってくれているのが、とても嬉しいよ」

 孟徳とふたりで、ジューシー過ぎる水餃子を外で味わうというのは、とても美味しくて楽しい出来事になった。

 

 店から出た後、孟徳とふたりでぶらぶらと歩く。これだけでも充分に幸せだ。

「花、これからはとっておきの場所に案内したいから、着いてきて貰って良いかな?」

「勿論です!」

 孟徳の言う、とっておきの場所というのは、どのような所なのだろうか。

 きっと素晴らしい所に違いないと、花は思う。

 ふたりは手を繋いで、城下町の郊外まで歩いていった。

 丞相府の周りは賑やかだけれども、少し外れると静かだ。

「静かですね。だけど気持ちが良いです」

「うん。そうだね。ここは心を沈めるにはちょうど良いよ」

「よく来るんですか?」

「たまにね。一人になりたい時は、よく来ていたよ。だけど君と出会ってからは、すっかり来なくなってしまったけれどね」

「どうして?」

「君という癒してくれるひとが見つかったから。俺を裏切らないひとが見つかったから。ここに来ていたのは、自然なら俺を裏切らないからってずっと思っていた」

「孟徳さん…」

 胸が痛くなる。

 孟徳が孤独だったことが感じられて、切なくなる。

「花、ほらこの奥だ」

 孟徳が進んだ場所は、幽玄としか表現出来ないような美しさがあり、花は動けなくなった。

 美しい白い花が咲く、小川の縁。

 このような風景は絵でしかみたことがなかった。

「…綺麗です…」

 見つめているだけで胸がいっぱいになる、

 こんな風景は他にないのではないかと思う。

「…君だけに贈りたかったとっておきの風景。受け取ってくれるかな?」

 孟徳の言葉に、花はただ涙ぐむ。

 贈られた風景はどこよりも素晴らしい。

「本当に綺麗です…。有り難うございます…」

 花は思わず孟徳を抱き締めずにはいられない。

 孟徳もまた、花を抱き締め返してくれる。

「…君と抱き合うのは、何百万回抱擁するのと同じ価値があるよ」

「…私も孟徳さんと抱き合うのはそれ以上に価値があると思います…」

 ふたりは心を重ね合わせると、唇も重ね合わせる。

 何度交わす抱擁よりも、愛し合うふたりの一度の抱擁が勝ると、花は思わずにはいられなかった。





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