一樹&月子
心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。 だが。 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。 ずっと憧れていることだ。 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。 一樹と結婚してからまだ三か月。 新婚らしい甘い日常を送っている。 相変わらず甘くからかわれたりしているけれども、それは幸せで彩られたからかいだ。 老成したひとと結婚をすると、こんなにも頼り甲斐があり、守られているのだと実感出来る。 お互いに忙しいせいか重なる休日はかなり貴重だ。 そんな日は、つい抱き合って遅くまで眠ってしまう。 一樹の腕の中で眠ると、本当に安心して眠れるのだ。 だからつい寝過ごしてしまいそうになる。 守られている。 そう実感することが出来るから。 不意に目覚ましが鳴り響く。 月子は条件反射的に目覚ましを手に取ると、直ぐに時間を見た。 その途端に、今日が休みであることに気付いてしまい、がっかりしてしまう。 目覚まし時計を切って眠るのを忘れてしまったらしい。 やはり一樹と愛し合うことに夢中になってしまっていたからだろう。 時間を確認して、月子はまた一樹の腕の中で丸くなる。 もう少し眠っていられる。 折角の貴重な休みなのだから、愛するひとの腕の中でまどろんでいたいと思う。 「…月子…、起きたのか?」 一樹は眠そうな声で言いながらも、月子を抱き締める。 「目覚ましを消すのを忘れてしまったの、ドジだなあって」 「確かにドジだ」 一樹は月子をからかうように笑うと、ギュッと抱き締めてきた。 「もうっ! 一樹さん」 いつもこうやってからかわれると、つい子供のように怒ってしまう。 それを知っているから、一樹は余計にからかうのだろう。 「しょうがないだろう。お前が可愛いドジなんだから」 「もう」 ギュッと抱き締められて、甘い声で呟かれると、月子はもう何も言えなくなってしまう。 抵抗すら出来ない。 「今日は出かける約束だったな。だから、こうしていられるのは、もう少しか」 「そうだね」 「もう少し時間があるから…月子…」 「え…?」 いきなり一樹に組み敷かれたかと思うと、そのまま躰をまさぐられる。 「…あんっ…」 甘い感情が込み上げてきて、躰は直ぐに反応してしまう。 月子はそのまま、一樹が紡ぐ甘い世界に墜落していった。 結局、しっかりと愛されたせいで、月子が起き上がって支度をするまでに時間が掛かってしまった。 月子はなるべく素早く支度をしようかと思ったが、甘い余韻でなかなかその通りにはいかなかった。 ようやく支度が終わり、月子がリビングに入ると、服装にはむとんちゃくな一樹がソファに座って待っている。 スタイルが良いから、基本はどのような服装でも似合うのだが、折角、お洒落をしたのだから、一樹にもそれなりの格好をして欲しかった。 「お、支度は出来たか?」 一樹は立ち上がると、月子に近付いてくる。 一樹の顔を見ていると、服装のことで文句は言えなくなってしまう。 容姿が整っているからか、それなりに見えてしまうのだ。 「じゃあ行くか。ふたりで一緒にプラネタリウムに行くぞ」 「プラネタリウム!」 「新型のプラネタリウムなんだよ。凄く沢山の星が見られるんだよ」 「ホントに!?」 プラネタリウムに星。 星にロマンを抱いて、それにまつわる仕事についた月子には、最高のデートスポットだった。 一樹は月子の手をしっかりと握り締めてくれると、守るように家を出た。ふたりで車に乗ってプラネタリウムまで向かう。 まるで小さな子供のようにわくわくしてしまう。それぐらいにプラネタリウムは威力のある場所だった。 新しいプラネタリウムというのは、街に新しく出来た科学館最上階にある。 ドーム型の天井が月子をわくわくさせる。 こんなにもロマンティックな場所は他にはない。 一樹は予めプラネタリウムのチケットを取ってくれているようで、嬉しい。 プラネタリウムに入ると、月子は先ずは天井を見上げた。 一樹はそれを見守るように見つめながら、月子の手を握り締めてくれた。 「…夜空に光る星々ですが、数多あるように見えますが、実際には、空気の汚れや、ネオンなどの影響でそれほど見えてはいません…」 プラネタリウムの分かりやすい解説を聞きながら、星へのロマンがわきあがってゆく。 「では、実際に、どれぐらいの星があるのでしょうか? 実際に見てみましょう」 天球には数多の星々が輝いていて、圧倒される。 星月学園にいた時は、田舎であったこともあり、それなりの数の星が見られたが、それでもこのプラネタリウムが投影する星には敵わない。 それほど見事な数だ。 月子はロマンティックな気分に浸りながら、星を見ては指で結ぶ。 ここで見えているのは輝きが強い星ばかりだから、その周りには何百万もの星が隠れている。 隠れている星のことを思うだけで、気持ちが穏やかに満たされた。 一樹とふたりでしっかりと手を繋ぎながら、プラネタリウムを眺める。 星座の話が始まると、月子は益々真剣に聞いていた。 やがて、プラネタリウムはクライマックスを迎える。 すると天球には、数多の星と共に、星で作ったロマンティックな文字が浮かび上がる。 月子、百万の星よりも、おまえは美しい。いつも有り難う まさか。 こんなメッセージが出て来るなんて、泣きそうになるぐらいに嬉しかった。 嬉し過ぎて涙が出て来てしまう。泣くことが照れ臭くて、笑って誤魔化そうとしたが、上手くいかなかった。 一樹は、月子を見守るような愛が溢れたまなざしを向けて来ると、手をギュッと強く握り締めてくれた。 安心する。至上の愛情が感じられるから。 メッセージと共に、プラネタリウムの上演が終了して、あたりが徐々に明るくなって来る。 そうすると泣顔が晒されてしまった。 「泣くなよ」 「嬉しくて」 「このプラネタリウムは翼の発明。仕事が忙しくて奥さんを困らせてばかりだから何とかしてくれと言ったら、プラネタリウムのラストにメッセージを星で描くことを提案してくれた。書記には世話になったからだって」 翼の優しさに、月子はまた涙が零れ落ちてしまう。 一樹はフッと笑みを浮かべながら、月子の涙を拭ってくれる。 「数多の星よりも、俺にとってはお前は輝いているからな。いつもその光に導かれているって思っている。いつもお前がいるから頑張れる。だが、その割りには放ったらかしにしてしまっているからな。だからせめて感謝を形にしようと思ってな」 「有り難う…」 「ご褒美が欲しい」 一樹の言葉に月子はきょとんとしてしまう。 「…キス」 一樹は低くて甘い声で囁くと、唇を重ねてくる。 甘いキスは星の美しさよりも素晴らしいと思った。 |