心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。 だが。 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。 ずっと憧れていることだ。 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。 愛されているのは充分過ぎるぐらいに解っている。 問題は、言葉がないから時折不安になってしまうこと。 あのひとが柄じゃないからと、余り愛の言葉を口にしてはくれないから。 本当は愛の言葉をたまにでも良いから聞いてみたい。 囁いて欲しい。 こちらがいくら思っていても、なかなか現実にはならない。 それが寂しいところだ。 あのひとも私も働いているから仕事のスケジュールによっては、顔を殆ど合わさないこともある。 所謂、すれ違い。 だけど、互いにハードな仕事を持っていると、それは仕方がないことだと、割り切ってはいる。 お互いに仕事が好きで、かといってそれが一番ではないことはお互いに解っている。 お互いが一番大事であるということも。 だから、たまに休日が重なると、出来る限り一緒に居ようとしている。 だけど、そんな時でもあのひとからは、甘い言葉は聴けないけれども。 躰を重ねることも、昔よりも少なくなった。 蜜月であって、そうではない。 それが私たち。 理解のあるカノジョのふりをするのも、そろそろ疲れたかもしれない。 ひとりベッドを抜け出して、朝食を作る。 ベッドの中で、イチャイチャして、温もりをシェアしていたのは、本当に付き合ったばかりの頃だけで、今は愛し合った後、余韻もなく眠ってしまう。 愛しているのに、愛の行為が義務のようになってしまっている。 それに朝もひとりでお茶を飲むのが平気になってしまった。 長く付き合ったカップルが、いつまでもベッドの中にいるのは、物語の中だけだ。 恋物語の結末は、誰もが幸せなものを望むからだ。 それが解った時、大人になったような切なくなったような、そんな気がした。 あのひとはコーヒーが好きだから、コーヒーを点てておいて、簡単なサンドウィッチを作っておく。 のんびりとしていると、あのひとが起きて来る。 そのタイミングで、コーヒーカップに、あのひとが好きなコーヒーを淹れてみた。 「有り難う」 あのひとにお礼を言われると、とても嬉しくて、つい笑顔になってしまう。 大好きなひとだから、やはり有り難うと言われるのは嬉しい。 コーヒーとサンドウィッチで、ほんの少しだけ遅い朝食を取る。 「今日は出掛けないか?」 ふたりで暮らし始めてからは、滅多にない提案だったから、私は目を丸くした。そして直ぐに笑顔になる。 「良いよ」 「だったら、連れて行きたいところがあるから、構わないか?」 「解った。楽しみにしているね」 連れて行きたい場所。 きっと色々と探してくれたのだろう。 そう思うと、心が温かくなる。 ついニンマリと笑いながら、私はあのひとを見た。 あのひとの車に乗って、何処かへと向かう。 あのひとが選んでくれたところだから、きっと素敵な所に違いないと思う。 特に何も話さないけれど、沈黙が辛いというわけではなくて、逆に沈黙が心地好かった。 私はあのひとの隣にいると、本当に心が安らいだ。 恐らくはもう、こんなに安らげる赤の他人は他にいないと思う。 「何処行くの?」 「ナイショ」 「ナイショ?」 「そう、ナイショ。後から驚くほうが楽しいだろ?」 まるで小さな子供のように呟く彼に、私は確かにと頷いた。 こういう何処か子供のようなところも、私は好きでたまらなかった。 私は再びシートに躰を任せる。 あのひとの趣味は車。 セダンとオープンカーを持っている。 夏場のオープンカーは最悪で、シートが柔らかくふにゃふにゃになって、背中にべちゃりとくっつく。 それがキモチワルイ。 もう冬に差し掛かるから、流石にオープンカーは寒くて、今日はセダンだ。 あのひとの収入はそこそこあるし、何を買うのは本人の自由であるけれども、夏場のオープンカーだけは頂けないと思った。 「もうすぐだ」 「うん」 私は期待に胸をいっぱいにして、車が停まるのを待った。 車が停まったのは、風光明媚な美しい場所だ。 駐車場に車を置いて、あのひとは先に歩き出した。 その後を私は続く。 以前なら手を繋ぎたくてしょうがなかったけれど、今は手を繋がなくても、あのひとがいなくならないのを解っているから大丈夫だ。 随分と成長したものだと、思わずにはいられなかった。 それだけあのひとを信頼しているからかもしれない。 「こっちだ」 「うん」 あのひとは手招きをしてくれると、不意に私の手を握った。 まるで小さな女の子のように恥ずかしくてときめいてしまう。 恥かしい。けれども甘い。 甘酸っぱい感情だ。 手をしっかりと握り締めて、ふたりで奥に向かう。 すると、その奥には鮮やかな紅が見えて来る。 そこにあったのは、昔聴いたことがある名曲と同じ、薔薇の海だった。 どこまで見ても美しき薔薇だった。 ついうっとりと見つめてしまう。 「凄い…! これこそ百万本の薔薇の花束だ」 「ずっと瞼に焼き付けていたい風景だ」 「そうね」 私はただ真直ぐ視線を薔薇の海に向かわせていた。 「これが俺からのブーケだ。お前へのプレゼントだ」 「有り難う、嬉しいよ。まさにとっておき」 「ああ」 あのひともまた、何処か真剣な顔をすると、私をじっと見つめた。 「…な、俺たち、そろそろけじめをつけないか…」 「けじめ?」 けじめには色々な意味があるが、私はどのようなけじめなのかを、全く見当出来なかった。 私が深く考える暇もなく、あのひとは、いきなりジュエリーボックスを差し出してきた。 中には品のある指環が輝いている。 「結婚するぞ」 結婚しようか? 結婚しよう などではなく、私が受け入れる前提で話をする。 私はくすりと笑う。 なんて私たちらしいプロポーズなのだろうか。 だから私も、らしい言葉で返す。 「うん、しよう」 私が答えると、あのひとは強く手を握ってくれた。 「結婚しても、しなくても、俺たちの間には何も変わらないかもしれないが、宙ぶらりんのままは、嫌だからな。この先、別れる気はないから、ここできちんとけじめをつけておこうと思ってな」 「そうだね」 「だから、この百万本の薔薇に誓う。お前を幸せにする。お前を愛している」 「私も愛してる。あなたを幸せにします」 ふたりで顔を見合わせると、感謝と愛を込めて、唇を重ねた。 |