*百万回のI LOVE YOU*

源頼久&元宮あかね


 心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。

 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。

 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。

 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。

 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。

 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。

 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。

 だが。

 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。

 ずっと憧れていることだ。

 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。

 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。

 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。

 

 頼久がこちらの世界にやってきてからもうすぐ三年。

 あかねももう大人の入口にさしかかっている。

 大学生になり、大人として扱われることが少しずつ増えてきた。

 だが、頼久はある意味子供扱いをしてくる。

 小馬鹿にした扱いではないけれど、もう少し大人として認めてくれても良いのにと思う。

 いつも何処か遠くから見られているような気になるのだ。

 一緒に出掛けたりはするけれども、それは友達の延長上のような雰囲気さえ漂っている。

 あかねにとっては、それが少し切ない。

 この世界に一緒に来てくれたけれども、結局は、まだ深い部分に踏み込んではくれないのだ。

 恋しているのに、なかなか先に進めない。

 もうこの世界にいるのだから焦らなくても良いなんて言えないぐらいに、あかねはのんびりとはしていられないような気がした。

 

 今日も頼久と出かける。

 出掛けると言ってもデートの雰囲気はどこにもないのだ。

 あかねは、頼久に逢う時は、なるべく可愛くお洒落をするように気をつけている。

 やはり恋する女の子だから、大好きなひとには良く思われたかった。

「お待たせしました、頼久さん」

 あかねが頬を赤くしながら頭を下げると、笑顔で頼久を見た。

「あかね、今日はあなたをお連れしたい場所があるんです。とても美しいところです。あなたとなら是非とも行きたいと思いまして」

「有り難うございます。楽しみです」

 頼久がとっておきの場所に連れていってくれる。

 あかねはそれだけで、つい笑顔になってしまう。

 ふたりで歩いてのんびりと駐車場へと向かう。

 この世界にすっかり順応してしまったのか、頼久は最近、車の運転もするようになった。

 あかねもよくドライブに連れて行って貰うのだ。

 ドライブを誘ってくれるのはあかねだけだというのは解っているから、つい笑顔になる。

 まだまだのんびりと自分達の関係を進めているけれども、本当はもう少し先に進めたいと思う。

 あかねももう、大人の階段を昇り始めているのだから。

 頼久は車を郊外へと走らせる。

 頼久は、相変わらず堅苦しいけれども、少しずつ甘い素顔も見せてくれるようになった。

「楽しみです、どのような場所なのか。きっととっておきの場所なんでしょうね」

「はい。あなたにだけ見せたいと思いました。途中で車を降りて歩くことになりますがよろしいですか?」

「うん。頼久さんと一緒に歩くんだったら大丈夫です」

 あかねがつい素直に言うと、頼久はフッと微笑んだ。

「有り難うございます。私はとても嬉しいですよ。あなたにだけとっておきの場所を案内しますよ」

「有り難う」

 頼久はいつもこうして特別扱いをしてくれるから、嬉しい。

 恋人として自覚をすることが出来たら、これ以上嬉しいことはないのに。

「もうすぐ車を停めますから」

「はい」

 頼久は、緩やかな山の麓の駐車場に車を停めた。

「あかね、ここからは少し山を登らなければなりません。少し大変かもしれませんが頑張って下さい」

「はい」

 頼久とふたりで車を降りた後、坂道を登り始めた。

「車では行けない所ですから、所謂、穴場だそうですよ」

「そうなんですか。だったら静かな良い所なんですね」

「勿論ですよ」

 あかねは頼久の後について、のんびりと歩いてゆく。

 坂道からやがて山道になり、傾斜がきつくなる。

 あかねが息を弾ませながら登っていると、不意に頼久が振り返った。

「大丈夫ですか? あかね」

 手がさり気なく差し延べられる。

 大きく安心感のある手のひら。

 握り締めれば、温かな安堵が心の奥底から湧いて来る。

 しっかりとお互いの指を絡み合わせると、ドキドキと安堵が交互にやってきた。

 手を繋いで登っているほうが、すいすいと山道を登ってゆける。

 手を繋ぐ前よりも道は険しいのにも拘らずである。

 これは頼久がそばにいて手をしっかりと握り締めてくれているからだろう。

「大丈夫ですか? あかね」

「大丈夫だよ。有り難う、頼久さん。頼久さんとこうして手を繋いでいると、不思議と楽に登れるんだよ」

「それは良かったです。あなたとこうして山道を上がるのは久しぶりですね。あちらにいる時は、よく険しい山を登りましたが」

「そうだね…。懐かしいよ」

「はい」

 ふたりの中では、まだ主従の雰囲気が消えたわけではない。

 あれからもう三年も経過しているのに、何処かまだ対等に感じられない所がある。

「もうすぐですよ、あかね」

「うん」

 頼久に声を掛けられて、あかねはつい笑顔になる。

 頼久はどのような素晴らしい景色を見せてくれるというのだろうか。

 それが楽しみだ。

 空気が清々しく気持ちが良いものになっている。

 あかねは晩秋の風と空気の気持ち良さに、思わず深呼吸をした。

「ここまで登ってくると、流石に空気は美味しいね」

「ええ」

 もうすぐだと言われてから、道がかなり険しくなった。獣道のようだ。

「こちらですよ。あなたにどうしても見せたかったのは」

「わあ!」

 奥まった場所にいくと、そこには美しい花園が広がっていた。

 あかねは言葉を忘れて見惚れてしまう。

 色とりどりの麗しくも逞しい野の草花が、誇らしげに咲き誇っていた。

 その中には薔薇のような花、可憐な菫のような花など、様々な花が咲き誇っている。

 数えられないぐらいに素晴らしき花の数々だ。

 百万本あるのではないか。大袈裟ではなくそう思わずにはいられなかった。

 あかねがしばし見惚れていると、自分の存在を思い出させるように頼久は手をしっかりと握り締めてきた。

「あなただけにお見せしたかった…」

「有り難う、頼久さん。感動したよ。有り難う」

 あかねが嬉しくて感動して泣きそうになっていると、頼久は真剣に見つめてきた。

「…あかね…。あなただけに見せたかった。あなただけを喜ばせたかったんですよ…。…あなたが好きだから…。あなたを愛して…いるから」

 緊張と照れ臭さを滲ませながら、頼久は呟く。

 不器用だけれど、百万回の“アイ・ラヴ・ユー”よりも心に響く愛の言葉。

 あかねは今直ぐ泣きそうになった。

「あかね…。お待たせしましたね。あなたにこの景色を花束に出来たから、言えたのかもしれません…」

 頼久は静かに呟くと、あかねを引き寄せてくちづける。

 百万回のキスよりも素晴らしいキスを。

 





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