*百万回のI LOVE YOU*

レオナード&エンジュ


 心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。

 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。

 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。

 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。

 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。

 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。

 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。

 だが。

 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。

 ずっと憧れていることだ。

 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。

 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。

 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。

 

 レオナードの守護聖としての任期が終わり、程なく、エンジュと結婚を決めた。

 普段のふたりはまるで夫婦漫才のようで、ロマンティックには程遠いのだけれど、やはりロマンスが溢れた新婚生活を送ってみたいと、何となく考えてしまう。

 レオナードとエンジュよりも早く聖地を去った女王とその影ならば、ロマンティックが似合ったのだろうが、残念なことに自分達には全く合わないと思う。

 しかもふたりは、夫婦で美味しいカフェを開業しようと思っているのだから。

 カフェというよりも大衆食堂に近いのかもしれないと、エンジュは思っている。

 食堂の準備で色々と忙しくて、何だか新婚特有のロマンティックさだとかを感じている暇なんてなかった。

 準備の合間に出される、レオナード特製のサンドウィッチやパスタ、ピラフなどに夢中になってしまって、ロマンティックよりも食い気の状況になってしまっている。

 せめて密月に相応しい、ロマンティックな時間を過ごしたいと思わずにはいられなかった。

 

 エンジュは一仕事を終えて、レオナードのそばに向かう。

 たまにはふたりでロマンティックを感じられる時間を過ごしたいとねだる為に。

「ね、レオナード」

「あ?」

 レオナードは相変わらずの返事だ。

「仕事が終わったらさ、久しぶりに散歩しない?」

「散歩だァ? そうだなァ、弁当でも持ってのんびりしに行くか?」

「ホントに!? ね、カツサンドを作ってよ!」

 レオナードが作る特製カツサンドは本当に美味しくて、エンジュのお気に入りの一つだ。

 このカツサンドさえあれば、カフェというか大衆食堂は大繁盛になるだろう。

 カツサンドと一緒に出す予定の野菜たっぷりのミネストローネも美味しかったりするのだ。

「ミネストローネも付けてくれるよね?」

「しょうがねぇな。とっときのバナナケーキも付けてやるよ」

「やった!」

 レオナードが作ってくれる特製のお弁当。

 愛情が詰まっているそれは、本当に美味しいと思う。

 料理はレオナードに任せているから、エンジュは大好きな洗濯や掃除、そして接客に精を出している。

 夫婦で切り盛りをする大衆食堂。

 エンジュとレオナードのくすぐったい幸せな夢は、間も無く叶うのだ。

「直ぐに弁当を作るからなァ! エンジュ、後のピクニック準備はしておいてくれ」

「うん、解った」

 エンジュは妙ちきりんなリズムで鼻歌を歌いながら、ピクニックの準備をする。

 きっと子供が出来たら、愉快な家族になるに違いない。

 きっと笑いが絶えないだろう。

 エンジュがピクニックの準備を終えると、レオナードもまた準備が終わったようで、美味しそうなランチボックスを持って来てくれた。

「出来たから行くかァ」

「うん!」

 レオナードが荷物を総て軽々と持ってくれて、散歩に出かける。

 近くても、こうして本格的にピクニック準備をして出掛けられるのが、エンジュには嬉しかった。

 ふたりで手をしっかりと握り締めて、のんびりと散歩がてらのピクニックへと向かった。

「こうして歩いているだけでも楽しいよ。それに散歩の後は、とっときのランチタイムなんだもんね」

「ああ、そうだぜェ。とっときだから楽しみにしておけよ」

「うん」

 自然が残っていて、それなりにひとがいて、田舎でもなく都会でもない美しい町。

 そこをレオナードとエンジュは落ち着ける場所として選んだのだ。

 この町で、守護聖でもエトワールとしてではなく過ごす。

 それはふたりにとってはとても大切なことでもあった。

「さてと、あの先に昼メシを食うにはちょうど良い場所があるんだ。そこに行こうぜ」

「うん。レオナードは流石によく知っているよね。助かるよ」

「この町で暮らして行くんだ。当然だろう?」

「うん。頼もしいよ。レオナード」

 エンジュが笑みを浮かべると、レオナードもまた豪快さと照れ臭さの中間のような笑みを浮かべた。

「わあ! 確かにお弁当を食べるには良い場所だね!」

 木陰にベンチがあり、その先には美しい芝生が広がっている。

「ここにあるベンチは、みんな、結婚して五十年の夫婦が記念に置いていってるんだ」

「へえ…。何だかロマンティックであやかりたいね」

「ああ」

「このベンチが良さそう。クラシックで。えっと…、“アリオスとアンジェリーク、このベンチに腰掛けて、この宇宙の未来を見守り続ける”…」

 ベンチに刻まれた名前とコメントに、エンジュは息を飲む。

 エンジュたちよりも早く下界に向かったふたりと同じ名前だ。

「偶然かもしれねェが、何だか良いだろ?」

「うん、そうだね」

 エンジュはほんのりとしんみりしながら、ベンチに腰掛けた。

「さァ、弁当を食おうぜェ!」

「そうだね」

 ふたりはベンチに腰掛けて、とっておきのカツサンド、ミネストローネを頬張る。

 外で食べるからか、いつもよりもうんと美味しく感じていた。

「レオナード、本当に美味しい!」

 エンジュは美味しくて、つい笑顔になる。

「ああ。お前になら百万個だろうが、何個だろうが、いっぱいカツサンドを作ってやるよ」

「うん、有り難う。百万個だろうが、何個だろうが沢山食べるよ。レオナードが作ったカツサンドが私には一番だから」

「おう」

 レオナードは嬉しそうに、エンジュに眩しいぐらいの笑みを浮かべてくれた。

「なあ、俺たちもこうしてずっとベンチに座っては、いつまでもカツサンドを食べていようぜ。で、このベンチと同じように、自分達のベンチを作ろうぜ。で、俺たちもここから、宇宙の行く末を見守れば良い」

 レオナードは何処かノスタルジーが滲んだ声で呟くと、美しいと絶賛したくなるぐらいの青空をじっくりと見つめている。

「共に白髪が生えるまで…、だね」

「ああ」

 ふたりはどちらからともなくしっかりと手を繋ぎ合う。

「百万個だろうが何個だろうがしっかりとカツサンドを食べて、ふたりで時間を重ねて行こうぜ」

「うん。おじいちゃん、おばあちゃんになっても、ずっととっときのカツサンドを食べていたいね」

「ああ。そうだなァ」

 レオナードは爽やかに眩しそうに笑みを浮かべると、エンジュをそっと引き寄せる。

「愛してるぜェ。何回も言ってやるよ」

「うん、私だって百万回だろうが何回だろうが言うよ。愛してるって」

 ふたりは顔を見合わせると唇を重ねる。

 百万回しても飽きないと思いながら。

 





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