*百万回のI LOVE YOU*

大地&かなで


 心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。

 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。

 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。

 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。

 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。

 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。

 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。

 だが。

 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。

 ずっと憧れていることだ。

 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。

 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。

 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。

 

 大地と付き合い始めて、もうすぐ七年。

 かなではプロのヴァイオリニストとして活動を始めて、大地はようやく勤務医としてスタートを切った。

 ふたりとも夢に近付いている。

 ようやくお互いの理想に近付いてきたところだ。

 だからこそ今が一番大切なのがお互いに解っているだけに、なかなか仕事を疎かに出来ないところがある。

 それが今は厳しいところだ。

 ようやくお互いの時間があって、ふたりは夕方からデートの約束をした。

 久しぶりのデートだから、かなではスキップをしてしまいたくなるぐらいにウキウキしてしまっている。

 お洒落もかなり気遣って、かなではデートに備えた。

 大地とふたりでほんの少しでも逢えると嬉しい。

 同じ横浜にいるけれども、なかなか逢えなくて、もどかしく感じていたから。

 待ち合わせ場所に向かい、かなでは華やいだ気分で待つ。

 待っているだけで楽しくて、かなではついニコニコしてしまっていた。

「お待たせ、ひなちゃん!」

「大地先輩!」

 未だに“先輩”が抜けないのは、口癖なのかと思ってしまう。

 大地は落ち着いた笑顔をかなでにだけに真直ぐ向けてくれる。

「ひなちゃん、行こうか」

「はい!」

 かなでが元気良く返事をすると、大地は手を握り締めてくれた。

 大地と手を繋ぐと、心までほかほかと暖かくなる。

 かなではほっこりとした気持ちになった。

「夕飯を食べた後に、一緒に来て欲しい場所があるんだけれども良いかな?」

「はい、勿論」

「良かった」

「大地せ…っ!」

 先輩と言ったところで、大地は人差し指でかなでの唇を塞いだ。

「ひなちゃん、そろそろ“先輩”は卒業しないとね」

「あ…」

 確かに高校を卒業してからはかなり経っているし、恋人同士になってからは随分と経過しているから、先輩と呼ぶのはおかしいかもしれない。

「…何て呼べば良いかが分かりません…」

 かなでは口癖のように言っていた“大地先輩”からなかなか抜け出せない。それにそれ以外の名前は、恥ずかしくてしょうがない。

「…どういう風に呼べば良いのかが分かりません…」

「普通に大地って呼べば良い。呼び捨てて貰って構わないよ俺は。むしろそのほうが良いのかもしれないけど」

「…呼び捨ては恥ずかしくて…」

 かなでは耳たぶまで紅に染めながら、つい俯いてしまう。

「俺たち付き合ってもう七年だよ」

「そ、そうなんですけど…」

「ひなちゃんは相変わらず可愛いね」

 大地に言われると、ドキドキしてしまう。

 今も付き合った頃の初々しさは失ってはいないが、何だか子供っぽいように思えた。

「子供みたいですよね…」

「そんなことはないよ。ひなちゃんが子供じゃないことぐらいは俺が一番分かっているから」

「はい…」

 大地の声がとても官能的で、かなでは余計に恥ずかしくなってしまう。

 俯くと大地はふと手を強く握り締めてきた。

「そんなところも俺は好きなんだけれどな」

「…有り難う…」

 大地に甘い言葉を囁かれるだけで、かなではいまだに心臓が飛び出してしまうのではないかと思うぐらいに緊張してしまうのだ。

「さてと、食事に行こうか。いつものオーガニックフレンチで良いよね」

「はい」

 大地と向かったレストランはかなでのお気に入りで、ヘルシーでとても美味しいと思っている。

 ここで横浜の夜景を見ながら食べる食事は、本当に美味しかった。

 今日もふたりで音楽の話や他愛のない話をしながら、幸せな気持ちになった。

「本当にいつ食べてもここのフレンチは美味しいですね。お気に入りです」

「俺も。ひなちゃんとふたりで来るのがいつも楽しみなんだ」

「私もです」

 雰囲気も気に入っているから余計にこのレストランが好きだ。

 ふたりは大好きなレストランで、大好きな物を食べて、大好きな話をするのが何よりも幸せだった。

 

 食事の後、大地はかなでの手をしっかりと握り締めて、目的地に向かう。

「大地先輩、何処に行くんですか?」

「また“先輩”と言った」

 大地は甘いお仕置をするかのように呟くと、薄く笑った。

「秘密だよ、まだ。着いて来たら分かるから」

「はい」

 大地が連れていってくれるのは、どのような場所なのか、かなではわくわくしながら着いてゆく。

 すると雰囲気の良いマンションの前に止まった。

 高級賃貸マンションだ。

 大地の今の収入ならば、恐らく大丈夫だろう。

「大地先輩、引っ越ししたんですか?」

「これから暫くはこちらに住もうと思っているよ。防音だしセキュリティはしっかりとしているからね」

「だったら安心ですね」

「ああ。安心だよ。何処でもヴァイオリンやヴィオラを弾けるからね」

 大地はしっかりと頷くと、かなでの手を更にきつく握り締めた。

 引っ越し予定の部屋に入るなんて、何だか楽しみになってきた。

 エレベーターで最寄りの階まで向かう。

 エレベーターの静かさを感じながら、かなではそっと大地に寄り添った。

「ひなちゃん、こっちだよ」

「はい」

 最寄りの階で降りると、大地は一番端へと向かう。

「ひなちゃんが気に入ってくれると俺は嬉しいけれども」

 大地はそう言いながらセキュリティを解除し、ドアを開ける。

「はい」

 大地にエスコートをされて部屋の中に入ると、そこは理想的な住まいだった。

 シンプル過ぎて余り部屋の中には家具はないがそれが大地らしいと思った。

「大地先輩、ここに住むんですか」

 かなでは家に上がり込むと、マンション一室を見回す。

「そうだよ」

「ひとりだと広いですね」

 かなでは両手を大きく広げて、部屋の大きさを表現してみせた。

「わあ! 横浜が見渡せるんですね! 素敵な景色を見ながらゆったりと出来るなんて、とても贅沢ですよね!」

「確かにね。だけど俺はひとりで暮らすつもりはないよ」

「え…!?」

 不安にもときめきにもどちらにも転びそうな一言を言うと、大地はいきなりかなでを背後からしっかりと抱きすくめてきた。

「…ひなちゃん…ここで一緒に暮らさないか…」

 ドキリとしてこのまま心臓が止まるのではないかと思うぐらいの甘い言葉で囁かれる。

「これ以上、逢えない時間を増やすのは嫌なんだよ…」

「大地先輩…」

 かなでが幸せで泣きそうになりながら大地を見つめると、今度は腕の中でしっかりと抱き締められる。

「一緒に暮らそう」

 大好きなひとに言われて、かなではただ高らかに「はい」と宣言をした。

「有り難う。これでもうやきもきしなくても良いね」

「はい」

 ふたりは甘いキスを交しながら、幸せな瞬間迎える。

 百万回のキスよりも温まるキスだった。

 





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