玄徳&花
心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。 だが。 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。 ずっと憧れていることだ。 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。 玄徳と一緒になってからも、花は相変わらず孔明の下で働いている。 忙しくはしているが、張り合いもある。 愛する玄徳の役に立てるのが、花にとっては嬉しくてしょうがない。 そのために、花はいつも一生懸命仕事をしているのだ。 愛する玄徳を支えたい。癒したい。 それが一番の仕事のように思えた。 今日も竹簡の整理をして、玄徳の下に向かう。これが終われば、本日の花の仕事は終了だ。 後は忙しい玄徳の手伝いをするのだ。 「玄徳さん、師匠から竹簡を預かってきました」 「有り難う。そこに置いておいてくれ」 「はい、解りました」 花は言われた通りに竹簡を置くと、直ぐにお茶の準備をする。 やはり州牧という仕事は大変だ。 玄徳は様々な陳情を読みながら、慎重に精査をしている。 州牧という仕事は、戦術に長けているだけでは務まらない。 政治的な決断が必要になるのだ。 花がお茶を淹れると、玄徳は薄く笑った。 「有り難う、花」 玄徳がほんの一瞬でもホッとしてくれるのが、嬉しかった。 玄徳の妻なのだから、安らぎをあげたい、支えてあげたい。 出来ることは少ないけれども、玄徳のために出来る限りは何でもしてあげたかった。 「花、お前の仕事は終わったのか?」 「はい。師匠が今日はここまでだと」 「そうか」 玄徳は一瞬だけ花を見た後、また仕事に戻る。 仕方がない。 玄徳が担っている仕事は、驚くぐらいに多いのだから。 孔明と花、そして雲長に翼徳でかなり頑張って仕事を担ってはいるが、それでもやはり玄徳を楽にはしてあげられない。 それが花たちには辛い。 玄徳が仕事をし過ぎて倒れてしまうのではないかと思うと、それが花には一番心配だった。 「花、いつもお前をほったらかしていてすまないな」 玄徳は申し訳なさそうに呟くと、花を見た。 「私のことは大丈夫ですよ。玄徳さんのお仕事が大変なことぐらいは解っていますから」 花がにっこりと微笑むと、玄徳はいきなり抱き締めてきた。 「げ、玄徳さんっ!?」 「有り難うな。お前がいつも理解して支えてくれるから助かっている」 玄徳は花に甘えるように更に抱き締めてきた。 息が出来なくなるぐらいに甘い感情でいっぱいになった。 「…玄徳さんの躰が心配です…。余り無理はされないで下さいね」 花は慈愛に満ちた気持ち似なり、玄徳を慈しむように背中を撫でる。 「ああ、解っている。有り難うな」 玄徳もまた穏やかな愛が籠った言葉で呟くと、花を抱き締める腕に力を込めた。 「なあ、花、明日、ふたりでゆっくりのんびりと出掛けないか?」 玄徳の嬉しい提案に、花は目を丸くして顔を見た。 嬉し過ぎて笑顔がこぼれる。 玄徳と出掛けるなんて、本当に久しぶりだ。 こうして最も近い場所で玄徳を感じるだけでも幸せなのに、一緒にのんびりと過ごせるなんて。 こんなにも嬉しいことはない。 「嬉しいです!」 玄徳に贈られた着物のどれを着ようか。なんて考えてしまう。 ウキウキして今直ぐ跳んでしまいたくなる。 「じゃあ明日はふたりでのんびりと過ごそう。たまにはこのような時間がないと、仕事の効率が悪くなるからな」 玄徳は目を細めると、柔らかく笑った。 約束通り、玄徳と花は出かける。 朝食を食べた後、花は玄徳から贈られた漢服に着替えた。 玄徳と出掛けるのだから、やはりきちんとお洒落をしたい。 花は綺麗になりたくて、一生懸命準備をした。勿論、花飾りも玄徳から贈られたものだ。それを髪に飾るだけで、花はときめいた。 花の支度を待ってくれていた玄徳は、花の姿を見るなり、華やいだまなざしで見つめくれた。 「花、やはりお前は、こうして綺麗にしているほうが良いな。綺麗だ」 「有り難うございます」 ふたりはしっかりと手を繋ぐと、のんびりと歩いてゆく。 「今日はお前をとっておきの場所に連れていきたい」 「楽しみです。玄徳さん」 「ああ。お前と出掛けるのだから特別な場所に行きたくてな」 玄徳の心遣いが嬉しくて、花は何もしていなくても笑顔になってしまう。 「先ずは美味いものでも食いに行こうか。寒いから辛くて美味いものにしようか。こちらでは名物だから、美味い店が多い」 「それは楽しみです」 玄徳が連れていってくれた店は、地元の料理を衛視句安く食事が出来る店だった。 所謂麻婆豆腐、坦々麺、回鍋肉など、花も知っている料理が並べられている。 躰が本当に温まる料理で、美味しかった。想像しているよりは、辛くなかったので、花はとても気に入った。 「美味しいですよ、本当に!」 「そうだろう」 花が土地のものを美味しいと言ったのが嬉しかったからか、玄徳は甘い笑みを花にだけにくれる。 美味しい食べ物よりも、そちらのほうが余程美味しいのではないかと思った。 店を出て、ふたりは手を繋いでぶらぶらと歩く。 「少し歩くが構わないか?」 「玄徳さんと一緒だったら、歩くだけでも楽しいですから」 花が素直な気持ちを伝えると、玄徳は嬉しそうに笑ってくれた。 暫く歩くと、美しい竹林に入ってゆく。言葉では言い表せないと思うぐらいに綺麗だった。 「本当に綺麗な竹林ですね」 「お楽しみはこれからだ」 「え?」 花が聞き返すと、玄徳はただ微笑むだけだった。 「ここだ」 玄徳が指差した方向を見て、花は思わず感嘆の声を上げた。 そこには、見事なまでに美しい花畑がある。一面花ばかりで、見ているだけで圧倒された。 柔らかな光が花畑に幻想的に差し込んで、うっとりと見つめる。 「…お前にだけにとっておきの風景を贈りたかった。いつもお前には寂しい想いをさせているからな…」 「有り難う、玄徳さんっ!」 花は喜びと感動で感きわまり、愛する玄徳を思い切り抱き締める。 「有り難うございます。最高のプレゼントです」 玄徳は落ち着いた笑みを浮かべると、花をギュッと抱き締めてくれる。 「お前に気に入って貰うことが一番嬉しい」 「玄徳さん…」 ふたりは見つめあって、唇を合わせる。 どんな甘い言葉を何百回、何百万回言われるよりも、お互いを思いやる気持ちが勝る。 花は玄徳にそれを教わったような気がした。 「有り難うな」 「こちらこそいつも有り難うございます」 お互いに愛するひとのために、ふたりは思いやることを知った。 |