公瑾&花
心から愛するひとに誠実な愛を表わすには、一体、どうすれば良いのだろうか。 百万本の花を花束にでもすれば、その愛の深さを表現することが出来るのだろうか。 それとも花なんかでは、愛なんて表現することは出来ないのだろうか。 百万回の“愛している”を言えば、心から大切に思っていることが伝わるのだろうか。 百万回の“有り難う”を言えば、感謝していることが伝わるというのだろうか。 だが消えてしまうものに、自分の気持ちを託しても、本当は同じことなのかもしれない。 そんなことをぐるぐると堂々巡りのように考えてしまうのだ。 だが。 窓の外に広がる、百万本の花が全部自分だけにプレゼントをされたならば、こんなにもロマンティックで愛を感じられることはないかもしれない。 ずっと憧れていることだ。 ロマンティックには、やはり愛情が欠かせない。 ロマンティックなシーンはいつでも愛するひとと体験がしたい。 愛するひとが見せてくれるロマンティックは、それこそ百万本の薔薇の花束以上に価値のあるものだと思うから。 都督という重責を担っているからか、公瑾は相変わらず忙しい。 花は公瑾の仕事を少しでも少なくするために、そばで色々とサポートするために奮闘している。 まだまだ出来ることは少ないが、出来ることは総てやりたいと思っている。 仕事の上に、花にこの国のことや漢字の基礎知識まで教えてくれている。 公瑾は本当に忙しいのだ。 今日も公瑾は静かに仕事を続けている。 花は自分が出来る仕事を終えた後、公瑾にお茶を淹れた。 お茶は公瑾が褒めてくれる数少ないもののひとつだ。 「公瑾さん、どうぞ」 「ああ。有り難うございます」 公瑾は仕事を一旦止めると、静かに花を見た。 「…花…。最近、仕事ばかりで申し訳ありません。なかなか時間が取れない上、あなたにも厳しい仕事を強いてしますから」 「私は公瑾さんほど忙しくはありませんから。出来ることも限られていますから。公瑾さんは余り無理をされないようにして下さいね」 「はい。あなたに言われると弱いですよ」 公瑾は苦笑いを浮かべながら、花を見つめた。 「花、明日ですが休みが取れました」 「本当ですか?」 花は一気に微笑んでしまう。 公瑾の休みなんてかなり久し振りだからだ。 「あなたも一緒に休みましょう」 「はい。嬉しいです」 明日は公瑾と揃って休暇を取ることが出来る。 これだけでも、花は本当に幸せだと思う。 「久方振りに一緒に出掛けましょう。あなたにはまだまだ案内していない場所がありますから」 「有り難うございます、公瑾さん。嬉しいです」 嬉しくて、今直ぐ公瑾に抱き付きたくなる。 花が今にも踊り出しそうな動きをすると、公瑾は苦笑いをした。 「全くあなたは…。何時まで経っても子供気分が抜けないんですね…。あなたはまかりながらも都督夫人なのですか、もう少し落ち着いて頂かなければ困ります」 公瑾に呆れたように言われると、花はついしゅんとしてしまう。 「…しかし。それがあなたらしいと言えば、そうなのですけれどね」 公瑾は何処か華やいだ優しい笑顔を花に向けてくれる。 それがまた素晴らしく艶があり素敵だ。 ついうっとりと見つめてしまう。 「花、あなたを是非連れて行きたい場所があります。そこに案内しましょう」 「嬉しいです! 公瑾さんと出かけるだけでも嬉しいのに、とっておきの場所に連れていってくれるなんて! 物凄く楽しみです」 「余り期待しないで下さいよ」 花があからさまに期待をしているからか、公瑾は大したことがないとばかりに苦笑いを浮かべるだけだった。 「公瑾さんと一緒にお出かけ出来るなんて、もの凄く嬉しいです。楽しみです」 「あなたのご期待に添えるように努力しましょう」 公瑾は静かに笑いながら言うが、花はどのようなことでも、つい期待をしてしまう。 「はい、楽しみにしていますね」 「ええ。ではお互いにしっかりと仕事を頑張りましょうか」 「そうですね」 花は頷くと、公瑾とふたりで仕事を始める。 幸せ過ぎてつい笑顔が零れた。 公瑾と久しぶりに出かけることが出来るということで、花は前日は楽しみ過ぎてよく眠れなかった。 正確に言えば、公瑾と激しく夫婦らしく愛し合った後、一旦、眠ることは出来たのだが、直ぐに目覚めてしまい、それからは楽しみ過ぎて浅い眠りしか出来なかった。 まるで遠足前の子供みたいだが、花にとっては公瑾と一緒に過ごせるというのは、本当にスペシャルなことだったのだ。 公瑾とふたりで少し遅めの朝食を取った後、花は綺麗にするために時間をかけて支度をした。 大好きなひとと出かけるには、やはり綺麗にして行きたい。 大好きなひとに綺麗と思われたいと言う気持ちが溢れてくる。 花は公瑾から贈られた美しい紺碧の服に身を包んで、髪を結い上げる。 仕事をしている時は、格好にむとんちゃくになりがちだから、せめてふたりで出かける時だけは、綺麗でいたかった。 支度が終わり、公瑾の前に姿を出す。 まなざしは相変わらずクールなままではあるが、僅かに感じられる嘘ではない温かな光が、気に入ってくれていることを表していた。 「では、行きましょうか」 「はい」 ごく自然にふたりでしっかりと手を握りあって、城下町へと出かける。 花は久し振りのデートでドキドキしっぱなしだった。 「花、この地域の美味しいご飯を食べましょうか。宮廷料理人がやっている店がありますから、そちらに行きましょう」 公瑾が連れていってくれた店は、所謂、セレブリティが利用するようなところだった。 そこで、上海蟹や小籠包、大根餅など、花も馴染み深い料理を食べた。 あっさりとしていてジューシーで、花はすっかり気に入った。 「美味しいです! 本当に」 「気に入って頂いて何よりです」 地元の料理を美味しそうに食べる花を笑顔で見つめてくれる。 花にしか見せない公瑾の本当の笑顔。 いつものような仮面を被ったような笑顔ではないのだ。 公瑾の心からの笑みが、花には嬉しかった。 「美味しかったです。やっぱりデザートの胡麻団子は最高ですね」 胡麻団子の甘さは蕩けるほどで、花は満足していた。 「花、その髪に似合う、髪飾りを買いに行きましょうか」 「良いんですか!?」 「たまにですからね」 公瑾は落ち着いて言うと、目抜き通りの中で一番繁盛している店に入った。 「こちらですよ」 公瑾に連れられて入った店は、きらびやかで息を飲むほどに豪華だった。 まるで百万もの天然石に囲まれたような気持ちになってしまう。 「あなたには周夫人に相応しい耳飾りが必要ですからね。これなんていかがでしょうか?」 公瑾が勧めてくれたのは、紺碧の天然石が着いた品の良い豪華さが目を引く宝石だった。 まるで公瑾みたいだ。 花は一目で気に入ってしまった。 「これが良いです。公瑾さんみたいで。いつでもそばにいられるようで嬉しいです」 「花…」 公瑾は頷くと、直ぐに店主に包むように言うと、それを買い求めて直ぐに店を出た。 そのまま無言のまま、都督府に向かう。 どうして無口になったのかが解らないままで、自室に入ると、公瑾は花の耳朶に触れてきた。 「耳飾りを着けさせて下さい。流石に店では出来ませんから…」 「はい」 公瑾は恥ずかしそうに言うと、花に耳飾りを着けてくれた。 そして賞賛のまなざしを送ってくれる。 「お綺麗です」 「公瑾さん…」 ふたりはお互いに微笑むと、唇を重ねる。 百万もの天然石よりも愛するひとが選んでくれた天然石のほうが価値がある。 花はそう思わずにはいられなかった。 |