お店も閉まり、草木も眠る丑三つ時、レオナードとアリオスは、ふたりして汗を流して、何やらイケナイコト? 「おい、アリオス! もう少し腰を使えや!」 レオナードは汗を滲ませながら、アリオスに叱咤を飛ばす。どこかからかいが含まれている。 「うるせー! 俺が腰を使う時は、セックスだけって決まってるの」 「ほォ。それを知ったらあの大食いは泣くぜェ!」 「泣くか。逆に俺の腰の動きで泣かせてやるよ」 余裕たっぷりに呟くアリオスに、レオナードは歯を見せてニシシと笑った。どこか犬に見えなくもない笑いは、愛嬌を生んでいる。 「自慢の腰を使って、大食い娘を泣かせてるのかァ?」 「アイツの鈍感さは国宝級だからな。おまえこそ、おさげとはどうなんだ?」 今までからかうばかりだったレオナードは、水を向けられて少したじろいでいる。その姿が滑稽で、アリオスは笑った。 「おまえこそ、ろくにキスすらしてねえだろ?」 アリオスがからかうと、レオナードはすっかり不機嫌だ。その目は座っているといってもいい。 「んなこと、俺様のプライベートだろ? アリオスには関係ねェよ」 そのひとことが総てを物語っていることに気付かずに、レオナードは言葉を重く澱ませた。 「俺様の自慢のマシンガンをエンジュに披露しちまったら、アイツは壊れちまうからなァ。訓練前に様子見だ。もっと立ち仕事をして、アイツの細い腰を鍛えてからだ」 レオナードはごまかしながら、いけしゃあしゃあと言ってのける。全くとんでもないハッタリ野郎だと、アリオスは思った。 「俺様の華麗なる腰の動きを見せてやろうか?」 「フン、点数付けてやるぜ」 アリオスは一旦手を止めると、煙草を口にくわえた。 目を神経質にスッと細めて、レオナードの様子を面白そうに見つめる。 ふたりは今、天使たちの為だけに、とっておきのココアを作る為のレッスンをしていた。 別に、人には言えないことをしているわけではない。 アリオスはカウンターにあった灰皿に煙草の灰を落としながら、レオナードのふざけたチョコレートの作り方を、とっくりと見る。 「アリオスちゃあん、あんたは腰の動きが足りねえのよ。こうして、くに、くにってやってみそ?」 下品に腰を振るレオナードに、アリオスは口角を上げる。全く、下品ではあるが憎めない楽しい男だ。 「それはどっかの女の真似かよ?」 「ああ。三ヶ月前まで遊びで付き合ってた女の真似」 「それ以降は?」 アリオスの鋭いツッコミに、レオナードはふときまじめな顔になり、黙りこくってしまった。 「あのおさげに恋をしてから、女とは、動物的欲望を満たしていない、だろ?」 アリオスはニヤリとレオナードに笑みを浮かべ、眼差しでその真意を探る。 「そ、そういうおまえはどうなんだよっ!」 レオナードがうろたえたのは図星であることは、直ぐにアリオスにも理解が出来た。水を向けられても、ちゃんと答えられる。 「俺はアンジェリークの為にこの躰を浄化してんの。あいつを抱く時は、なるべく綺麗な躰でいてえからなあ」 「おまえは乙女かよっ!」 「おまえだってそうだろうが。おさげの為に躰を浄化させているんだろ?」 「まあな…」 ここにいる男たちは意外と純情。愛する天使たちの為ならば、一肌どころか、ふた肌も脱ぎそうな勢いだった。 「おっ! 良い感じにチョコレートが練り上がってきたぜェ! 俺様天才かも!」 一生懸命練り上げたチョコレートが艶を増して、レオナードは声を上げる。アリオスも負けてはいられないと感じ、休憩を適当な形で切り上げた。 「俺もやる。大体、自分で『天才』なんていうヤツに、天才がいた試しはねえけどな」 チクりと辛い攻撃に、当然のごとくレオナードの機嫌は悪くなる。アリオスはそんな男はほっておき、自分のチョコレートに集中した。 「おら、俺のを見てみろよ? 明らかに『天才レオナード様』より艶があって美味そうだ。腰の動きだけではいけねえな。たっぷりの愛をこめねえとな」 愛。 その言葉が、アリオスには余りにも似合わな過ぎたのか、レオナードは目を驚いたように見開いた。 「似合わねー! 愛」 「ほっとけ!」 共にかなり年下の女子高生に恋をしているせいか、大いに親近感はある。 大の男ふたりは、お互いに激しいツッコミを入れ合いながら、チョコレートの練り方をマスターしていった。 そこまでサービスすると、もうひとつサービスしたくなる。 「なァ、アリオス。とっときの生クリームケーキと、チョコレートケーキを作らねえか? ふたりの天使と悪魔に敬意を表してさ」 チョコレート練りの練習が終わり、ブランデーを口に含みながら、レオナードはリラックスした調子で言った。 「そいつはいいかもしれねえな。きっと喜ぶんじゃねえの? アイツらも?」 「じゃあよ、俺様が基本的なことをするから、お前はデコレーションとかを担当してくれ。その代わり、基本の装飾は頼んだぜェ!」 お互いに適材適所といったところだろう。 アリオスは元々手先は器用なので、これぐらいのことは何とかなる。中々のナイスアイディアだと思った。 「オッケ。それ乗ったぜ。他にもカツサンドとかを充実させてやってくれ。アイツはそれを目当てにやってくるからな」 「解っているって!」 レオナードとアリオスは、お互いの恋路の為に一致団結。ドラえもんの握手をして、お互いにエールを送り合う。 そこには友情と、もちろん恋への打算も含まれている。 アリオスの目標は、クリスマスイヴからクリスマスにかけては、アンジェリークと過ごし、出来たらロマンティックな聖夜に、その心と躰を総て欲しい。 レオナードもまたしかり。まだまだキスだとかは、元来の照れ屋が邪魔をしてそう回数は出来ていないが、これからはリベンジを計 るつもりである。 素敵な点灯式、あるいは聖夜になるかは、男たちの演出にかかっているといっても良かった。 点灯式は、ゆったりと夜を過ごせる土曜日。 朝から準備にかかるせいで、店はクローズだ。 レオナードはケーキのスポンジを何枚も焼いて、素敵な料理の演出を。 対するアリオスは、超一流の建築家としての腕を活かして、天使の庭園のオープンテラスを素敵にプロデュースする。 クリスマス期間だけでは、全く勿体ないぐらいの演出だ。 これも総ては天使たちの為に。 あのチョコレートよりも甘くてとろけそうな微笑みぎ見られれば、何も言うことはない。 ただそれだけの為に、大人の男がふたりして、少年に戻って奮闘した。 そうして、ようやく準備が整った頃に、天使たちはやって来た。 「こんにちは! 更衣室を借りますね、レオナードさん!」 アンジェリーク、エンジュ、レイチェルはそれぞれ大きな荷物を抱えてやって来た。 「更衣室?」 いそいそと更衣室に向かう少女たちを見送りながら、アリオスはレオナードにきいた。 「ああ。天使ちゃんたちにツリー点灯を頼んでいるんだよ。普通でいいって言ったが、どんな恰好をしてくるんだか」 「そうだな。ま、楽しみだ」 アリオスは勿論アンジェリークの可愛い姿を浮かべ、レオナードは勿論エンジュである。レイチェルの恋人はきっと時間きっかりに来るだろう。 「アリオス、頬が緩んでるぜ?」 「おまえに言われたくはねえ」 アリオスはムッとしながら、レオナードをいつものように睨み付けた。 暫く落ち着けずにふたりの男はぶらぶら歩く。 「ふたりとも、クマみてえだなあ!」 ユーイは笑いながら、ふたりを馬鹿にしたように見ている。 「クマじゃねえ!」 流石にチームクマのチームワークは完璧らしく、声がちゃんと揃っていた。 華やいだ声が聞こえてくる。 少女たちの姿を見ると、アリオスもレオナードもくぎづけになった。 三人とも動物天使の恰好をしている。 アンジェリークは羊、エンジュはウサギ、レイチェルは猫だ。背中には可愛く天使の羽根がふわふわと付いている。顔の部分がちゃんと出るようになっているので、それぞれの顔が解る。 「動物かァ。可愛いな」 レオナードはしみじみ危ない視線をエンジュに向けていた。 アンジェリークは、これまた少し危ない視線でじっと見つめるアリオスを見つけて、手を振ってきた。 アリオスが近づくと、アンジェリークもぽてぽてと音を立てるかのようにやってくる。 「あれぞ狼のスケープゴートだなァ」 「うるさい!」 アリオスが近づくと、アンジェリークは途端に足元をふらつかせた。全くタイミングを狙っている。 「きゃあ!」 「おっと!」 アリオスが間一髪アンジェリークを抱き留めて、ことなきをえる。 「ったく、おまえはいつもかつも」 「ごめんなさーい!」 「ったく、しょうがねえ」 アリオスは着ぐるみのアンジェリークの手を繋ぐというよりは掴んで、ツリーの前まで連れていく。 その姿は絵になっているような、いないような、複雑な感じだった。 「レディ! 今日は点灯式で点灯なさるようですね!」 常連であるフランシスも、点灯式に呼ばれて、晴れやかにやって来た。 「こんにちは! フランシスさん!」 ウサギ姿のエンジュが顔を見せた瞬間。 フランシスの顔色は、神よりも白くなり、姿勢はふらつく。 「…ウサ…、ウサ…ギっ!」 まるで塊になったように、フランシスはどっさりと倒れこんだ。 「きゃあっ! レオナードさんっ! フランシスさんが!」 エンジュの悲鳴に辺りのメンバーが皆集まってくる。 「ウサギ苦手だったのかァ!」 レオナードは笑いをこらえながら、すっかり失神をしたフランシスを抱き起こす。 「コイツを奥の休憩室に運ぶわ。しっかし、ウサギに弱いなんてなァ!」 レオナードは本当に可笑しいらしく、運んでいる間もずっと笑っていた。 レイチェルの大切なエルンストを来た時点で、点灯式を執り行う。 アンジェリーク、エンジュ、レイチェルが、可愛い動物天使のスタイルで、ツリーの点灯ボタンに手をかける。 時間は7時。 きっかりにレオナードの合図が飛んだ。 「そら! 点灯だぜェ!」 「はいっ!」 三人が力を合わせて、ツリーや辺りの装飾が点灯する。 「どうしてクリスマスなのに、栗のモチーフが多いのよお!」 レイチェルが大声で叫ぶと、アンジェリークはすっかり真っ赤になってしまった。 ツリーが点灯したのを記念して、次々に料理が運ばれてくる。 「わあい!」 それを合図に、アリオスとレオナードは、エルンストを引っ張ってカウンターに消えた。 恋する女の子の為に、チョコレートを練ってやるのだ。 三人して肩を並べ、一生懸命練り上げる。 「エルンスト、腰の粘りが足りないぜェ。セックスする時みてえに、しっかりやりやがれ!」 「レオナード! あ、あなたった方は!」 エルンストは真っ赤になりながら、ひたすら手首を効かせて掻き混ぜた。 おいしく練り上げたチョコレートに、焼いたマシュマロを幾つか浮かべてやる。 躰も心も温まる、とっておきのチョコレートが完成! 三人は、それぞれの想い人にときめきと愛を込めて、チョコレートを渡す。 「レ、レイチェル、あなたの為に練って作ったホットチョコレートです」 「有り難う! うわあ、マシュマロ入り!」 レイチェルは感激の狼煙を上げると、エルンストに愛情を込めたキスをした。 「おらよ。俺様が練ったのとっときだ!」 レオナードもまたエンジュにチョコレートを自信を持って渡す。 「有り難うございます」 レイチェルのように頬に気軽にキスが出来る関係ではまだないから、エンジュは愛の詰まった笑みを送った。 そして、アリオス。 「飲めよ」 「有り難う!」 アンジェリークは礼を言うなり、直ぐにチョコレートに口をつける。その途端に、満点な幸せ顔になった。 「美味しい!」 「どれ?」 アリオスは待ってましたとばかりに、味見と称してアンジェリークにキスをする。 いつもに増して甘いキスだった。 ロマンティックな点灯式はまだ始まったばかり。 幸せとロマンティックは、時間が深まるにつれて下りてくる。 |
| コメント アリコレ、レオエンを絡めながらのお話です。 点灯式がらみのお話しはまだ続きます。 |