チョコレートは恋と同じでとびきり甘い。 アンジェリークは、アリオスの横にちんまりと腰掛けて、チョコレートをふうふう冷ましながら、楽しむ。 「アリオス、美味しいねえ!」 「そいつは良かった」 ぱふっとした可愛い着ぐるみの手でマグカップを押さえる仕種は、本当に可愛い。 襲いたくなくなるぐらいに。 今、アリオスの隣にいるのは、類なく可愛い、紛れもない子羊だ。 「ホントにこのチョコレートは美味しいよ!」 瞳くりくり輝かせて、アンジェリーク満足な美味しい顔。アリオスも勿論その顔を見るのは、とても満足だ。 「そんなに美味いか?チョコレート」 「うん!レオナードさんが言う表現を借りるんなら『とっとき』よ!」 「じゃあ味見だな。アンジェ、こっち向いて見ろよ」 「ぽよ?」 アンジェリークは小首を傾げて、アリオスに近づいてくる。それが可愛くて、このままお持ち帰りしたい衝動に駆られた。 「ちょいと味見だ…」 顔を近付けようとすると、様々なところから咳ばらい。 「おい、アリオス狼さァん、襲うんじゃあねェぞ!」 レオナードが明らかにやゆするようにからかい、アリオスはムッとして、目を細めた。 「うるせえ、レオナード! 後で覚えていやがれっ!」 アリオスはくわっと敵意を剥き出しになった顔を、レオナードにあからさまに向ける。 「あらら! 恐っ! アリオスさあん、あんまり恐い顔をすると、お肌にシワが刻まれるわよ! 私達はお肌の曲がり角なんだからァ」 くにくにとしながらわざとからかうレオナードに、アリオスは鋭い凶器のような視線を投げ掛ける。 「黙ってろっ!」 「ありゃっ! 薮蛇っ!」 全くレオナードは、人をからかうしか能がないのか。アリオスはリベンジするべく、心に誓った。 横を見ると、アンジェリークが不思議そうに瞳をまあるくして、アリオスを見ている。 「アリオスさん、どうしたの?」 「何でもねえよ」 不機嫌に答えながらも、アンジェリークの可愛いらしさに、アリオスの眦も下がる。 「どうぞ! チョコレートを味見してね!」 アンジェリークがぱふりとした手で、カップを差し出してくれるのが嬉しい。 「いい。おまえが全部飲むの。一滴残らずな。このチョコレートには、俺の愛がめいいっぱい詰まっているからな」 「うん! 折角、アリオスが練ってくれたチョコレートだものねっ!」 「ああ。その通りだぜ?」 アリオスの艶の交じった声に、アンジェリークはくすくすと笑っている。それがまた愛らしさを醸し出していた。 「飲んだら、いつものに着替えろよ。これじゃあ、いっぱい食べられねえだろ?」 「うん! そうする! その前に、三人でお祝いの着ぐるみダンスをするんだ!」 「ったく、ガキっぽいなおまえら」 アリオスは喉を鳴らして笑いながらも、どこか満足げな顔をしている。アンジェリークが本当に心から愛おしく思えた。 「ガキって! 折角の点灯式のお祝いなんだからね!」 「はい、はい。お姫様」 アリオスはどこか呆れたような、だがたっぷりと愛情を込めて、アンジェリークに声をかけた。小さなちいさなアリオスだけの天使だ。 可愛い過ぎて、この場で奪い去りたい獣のような感情を、何とか押さえ込んだ。 「しっかし、フランシスは傑作だなァ! まさかウサギが苦手だなんて。なのにお前にちょっかい出すなんてよ、あいつは自虐キャラかよ? お前は目がウサギのこの世で一番、『因幡の白兎』の役が似合うのになァ」 レオナードは全く愉快にご機嫌だった。ライバルが致命的なものを持っていたとは。 こんなに可愛いエンジュのウサギ姿を独占出来ることが、何よりも嬉しかった。 「マジ似合ってるぜ? アリオスじゃなくても、襲いたくなるぐれえの可愛さだからなァ」 「アリオスさんに睨まれますよ、また」 「いいって! あいつも子羊ちゃんとよろしくやってんだからなァ」 レオナードはどさくさに紛れて、エンジュの肩を抱く。 色気を頬、唇、そして瞳に浮かべてあかくなるものだから、レオナードは更に抱き寄せた。 「ウサギを罠にかけたか? レオナード」 仕返しとばかりに、アリオスがニヤリと意地悪に笑う。それが気にいらなくて、レオナードは眉間にシワを寄せた。 「そんなにシワに磨きをかけると、ドモホルンリンクルだけじゃ、対処出来なくなるぜ」 「五月蝿いわい! アリオスっ!」 レオナードが熱く爆発していても、アリオスはクールなまま。それどころか、冷静な眼差しをレオナードに向けている。 「ウサギちゃんとよろしくやれや。俺様の子羊ちゃんにはちょっかい出すなよ?」 「出さんわい!」 出したらどうなるかは、安易に想像が出来る。血の雨が降るだろう。 三匹の可愛い小動物たちは、お祝いのダンスの準備をしに、一旦どこかに行ってしまう。 それが何故だか寂しくて、アリオスたちは時間を持て余した。 先程まであんなに楽しかったのに、今は灰色の時間になってしまった。 それが場にいる男たちにとっては、とても哀しいことだった。 「それじゃあみなさんっ! 可愛い動物たちがダンスをします! お楽しみ下さい」 ユーイが楽しそうに紹介すると、着ぐるみの愛くるしい女の子たちがやってくる。 羊、ウサギ、猫。 それぞれアンジェリーク、エンジュ、レイチェルだ。 愛くるしい三匹がチャールストンを踊ったり、手を繋いでラインダンスを踊ったり、お尻をフリフリしたりして、とても愉快なパフォーマンスだった。 『天使の庭園』を舞台にした点灯式には、全くぴったりな催しだ。 愛や恋が溢れている。 ぽてぽてとアリオスの元に歩いてくるアンジェリークを、直ぐに迎えに行く。こけられたら、堪らないからだ。 「アリオス、有り難う」 手を繋ぎあって、ふたりはゆるゆると歩く。なんて幸せなんだろうか。 「こっちへ行こうぜ」 「うん、ケーキは?」 「すぐ済むから」 天使の庭園自慢のガーデンな木陰まで歩いていき、アリオスはアンジェリークを抱きしめた。 着ぐるみなので、抱き心地はぱふぱふとしていて気持ちが良い。 だが、やはり素のアンジェリークを抱きしめたいと思ってしまう。 「アンジェ」 「ちょっと変な感じ」 「俺もなんだか、動物を襲っている感じがするな」 ふたりは顔を見合わせるなり、ぷっと吹き出して笑った。 「着ぐるみのおまえにキスが出来るなんて、めったにねえからな」 「アリオスってキスマニア? 色々なキスが大好きみたい」 「それはおまえ限定」 アリオスが唇を緩やかに近付けてきたので、アンジェリークは目をロマンティックに閉じた。 着ぐるみの羊でも、やっぱりキスする瞬間はときめくもの。 唇がしっとりと重なって、アンジェリークは幸せだった。 幸せだったけれども、ふと疑問が生じる。 アリオスといつから付き合っていたっけ? そんなことを脳裏に掠めながらも、楽天家のアンジェリークは、幸せで素晴らしくときめいたら、いつから付き合ったか、気にならないか。 そんなことをアンジェリークは思った。 ふたりでこっそりと会場をに戻ると、レオナードがアリオスの横にさりげなく寄ってくる。 「アリオス、やっぱり狼は羊を襲うんだなァ」 「アホこけ。クマが兎を襲うなんて、聞いたことはねえぞ!? からかう暇があったら、鮭でも取っていろ」 「へいへい。ケーキを用意しているぜェ! 美味いやつだからなァ。アリオスと俺とが一生懸命デコレーションしたやつだから、しっかりと喰ってくれよ!」 「はあい!」 アンジェリークがアリオスと抜け出してキスをしている間に、エンジュとレイチェルは着替えてしまっていた。 アンジェリークひとりだけが、着ぐるみ姿だ。 「みんなズルイ!」 アンジェリークが怒ると、アリオスがぱふぱふの手をにぎりしめてくれる。 「それで喰っちまえよ。おまえはその恰好で充分可愛いんだからな。似合っているぜ」 アリオスがストレートに似合っていると言うと、アンジェリークはじっと見つめてくる。 「それ、本心?」 「本心だ。今日はひねる暇がねえぐれえに楽しい夜だからな」 「だったらいい」 アンジェリークは素直に笑って、アリオスと一緒にケーキの輪に加わる。 「チョコレートケーキは悪魔のケーキ、生クリームな白いケーキは、天使のケーキだぜェ!」 「どっちも!!」 アンジェリークは羊のままでお皿を持って飛んでいく。 楽しい点灯式は際限がない幸せの箱のようだった。 フランシスを除いて。 |
| コメント アリコレ、レオエンを絡めながらのお話です。 点灯式がらみのお話しはまだ続きます。 |