♪もおーいーくつねーるとーわわわわーお正月う〜。わわわわ〜。 慌ただしい師走の空に、アンジェリークの妙ちきりんな歌がこだまする。 カフェ『天使の庭園』は、みんなで餅搗き大会。 エンジュがアルバイトに来てからというもの、陽気な常連同士のイベントが数多く開催されている。 それがまた楽しいせいか、自然とひとが集まってくる。 「オイ、アリオスっ! あの豆狸のジュークボックス、来年こそはどうにかしてくれっ! ああ陽気に歌われちまうと、調子が狂ってしょうがねェ」 レオナードは溜め息をつき、頭を抱える。しかしアリオスはと言えば、陽気に歌を聞いては楽しんでいるようだ。 「可愛いだろ? あいつ」 「雑音」 レオナードは臼の中に蒸したもち米を入れて、餅搗き準備を整える。 すると恰好だけは一人前のアンジェリークとエンジュが、杵を持って陽気に現れた。 「ハイホー、ハイホー、餅つきが好き〜!」 また訳の解らない歌を歌いながら、アンジェリークは勇ましくやってきた。 今日のふたりの恰好はなかなか決まっている。 ちゃんと法被を着て、頭には豆絞り手ぬぐいをしている。形から入るアンジェリークには、ぴったりだと言える。 「さてと、餅をついて貰わねえとな。んな格好してんだから、腕前は大したもんだろうな」 アリオスに言われると、ふたりは白い頬を真っ赤に染め上げた。 甘くなった乙女心に、フランシスが更に追い打ちをかけてくる。 「レディの皆様はとてもお似合いでいらっしゃいますよ。そうですね、可愛らしくて威勢が良いですよ」 ニッコリと優美に微笑まれてしまうと、アンジェリークもエンジュも妙に照れてしまう。だが、悪くはなかった。 「ったく相変わらず気障な野郎だぜェ!」 レオナードはけっと唾を吐き、不快感をあらわにしている。それがどこか可笑しくて、アリオスは笑う。 「余裕こいているよなァ、アリオスさんは!」 「あいつは俺以外に見てねえからな。当然だ」 「ケッ、ご馳走さんっ!」 レオナードは面白くなさそうに鼻を鳴らしながら、アンジェリークたちのいる杵の周りに歩いていく。 冬の凍えた白い空気の中で、そこだけが温かな雰囲気を醸し出している。アリオスもレオナードも、寒いのに心の奥底から温まるような気分になった。 「さァて、誰からもちをつくんだ?」 「わたしっ!」 予想通りにアンジェリークが真っ直ぐと挙手し、アリオスが臼の前に立つ。 「じゃあヘルプは俺だな?」 「宜しくお願いしますっ!」 アンジェリークが元気よく言うと、アリオスは穏やかな今日の日差しのような微笑みを浮かべた。 「アンジェリーク・コレット行きます!」 威勢の良い声だったが、杵を持ち上げるなりアンジェリークはふらふらになる。 「ふにゃ!」 「おいっ! アンジェリーク!!」 アリオスは慌ててアンジェリークの腕を掴み、その細い腕を支えた。 「ったく、もう…」 アリオスは呆れ返っているようにも見えたが、同時に焦りも感じられる。 背中から被うように腕をがっつりと支えられて、アンジェリークはばら色のときめきを感じた。 「有難う…」 「ったく、非力だったら素直に言え」 「き、杵がこんなに重いとは、思わなかったんだもん…」 アンジェリークがしどろもどろしながら言うと、アリオスはまた溜め息をつく。 「見かけ倒しだなおまえ」 「ち、力無いけど。杵を使ってぺったんぺったんしたかったんだもん!」 アリオスが息を感じる場所にいるだけで、アンジェリークは妙な緊張を感じる。躰が震えて、どうしようもなかった。 「じゃあ俺が手伝ってやるから、一緒にぺったんぺったんしようぜ」 「うん」 お餅をぺったんするのは嬉しいが、アリオスに密着するのは心臓が飛び出てしまうぐらいに大騒ぎする。 「レオナード、もちをこねる補助をしてくれ」 「はいよ。しょうがねェよなァ、アリオスさんは」 悪態をつきながらも、レオナードはニヤニヤ笑って楽しそうだ。 「おらアンジェ、行くぜ?」 「はい」 「よいしょっ!」 レオナードの掛け声を合図に、派手に餅搗きが始まる。 アリオスがしっかりと手を握ってくれているから、安心してアンジェリークは杵を振り上げる。タイミングも教えてくれるから、レオナードの手をつかなくて済んだ。 「良い感じになってきたぜ」 ふたりが杵でつくたびに、餅はびよーんと伸びる。 「お前たちみてェじゃねェの? 粘り腰で良く伸びるからなァ。ホントお前らの恋愛みてェ」 「もうっ恥ずかしい…」 アンジェリークが俯くと、アリオスは笑って耳たぶに口づけてきた。甘過ぎる行為に、アンジェリークは全身を真っ赤にさせる。 「…もう」 「餅が粘る前に、タヌキが茹だって粘っちまったなァ」 愉快と笑うレオナードに、アンジェリークは益々恥ずかしくなってしまった。 「おら、俺達の番は終わり」 「じゃあ私やるーっ!」 エンジュは手をしっかりと上げると、杵をひょいと持ち上げる。倒れそうになったアンジェリークとは、大きな違いだ。 「じゃあ、俺達で仕上げちまおうぜ、エンジュ」 「はいっ」 エンジュが軽々と杵を持ち上げて餅をつくと、レオナードがつかさずひっくり返す。 流石のコンビネーションだ。 「オトコマエなだけあるなァ。もうつきあがるぜェ」 「だったらレオナードさんの手も一緒に付いてあげましょうか? 手が早いスケベエが治るかもよ!」 エンジュは舌をべっと出して、レオナードの手をわざとつこうとした。 「カンベン! エンジュちゃん!」 レオナードが慌てて謝るものだから、そこにいるメンバー達は大笑いをした。 「後ひと突きで出来上がるから、頑張るんだぜェ」 「うっす!」 エンジュは勢いよくぺったんぺったん餅をつき、レオナードも絶妙なタイミングで餅に水を付ける。 暫くしてふっくら美味しいお餅が見事に出来上がった。 「わ〜い! 美味しそうだなあ!」 レオナードが白い粉を敷いたまな板の上に、勢いよくつきたてのお餅を載せる。 「熱いから気をつけるんだぜ」 「はあい」 食べ物を前にしているせいか、アンジェリークの瞳はキラキラと輝きを増している。 横には、きなこ、醤油、砂糖醤油、のり、大根おろしに、じゃこ、砂糖、あんこ。ありとあらゆるものが用意されている。用意をしたのは、勿論アンジェリーク。 自分の好みを追求したのに過ぎない。 「美味しそう〜」 アンジェリークは全く食べることしか考えておらず、自分用にとぺったんぺったん大きなものを作っている。 エンジュはといえば、創作意欲が湧くのか、じっと白い餅を見ていた。 「どうかされましたか? レディ」 あまりにエンジュがじっと餅を見つめるものだから、フランシスが何があったのかと、声を掛けてきた。 「白いつきたてのお餅って創作意欲が湧きますよねえ」 「そうですね。私には、レディの白い肌理の細やかな肌を想い出しますよ?」 にっこりと優美にもフランシスに微笑まれると、エンジュは真っ赤になってしまう。胸の奥が切なくてドギマギとした。 「あ、白だったら、雪ウサギとか…」 慌ててこのドキドキをごまかすようにエンジュが言うと、途端にフランシスの顔色が変わる。 「え? 今レディなんて…」 「え、雪ウサギみたいって…ほら!」 エンジュは器用にこさえたタンタン白ウサギをフランシスの前に突き出す。 「…ウ…サ…ギ…っ!」 点灯式に続き、またもやフランシスはエンジュによって気絶させられてしまった。 「ちょ、っちょっと、フランシスさんっ!!」 エンジュが慌ててフランシスを抱き起こそうとすると、レオナードが可笑しそうにやってくる。 「なんだァ、また気絶しちまったのかよ」 本当に楽しそうにレオナードが笑うものだから、エンジュは余計慌てた。 「あ、レオナードさん、また倒れちゃった!」 「おまえ、またウサギ関係のものを見せたのかよ?」 「これ…」 エンジュはおずおずとレオナードにウサギを見せ、それを見るなりまたオーナーは笑った。 「ったくしょうがねえな。店のソファに寝かしておくわ。おらよっと」 レオナードは軽々とフランシスを抱き上げると、そのまますたすたと店の中に入っていく。 力を抜くように深呼吸をしたのも束の間。 今度は、あちらで大騒ぎ。 「うううっ…!!!」 「んなに慌てて、いっぱい食うからだぜ!」 お約束通り、横ではアンジェリークが餅を食べ過ぎて、喉に引っかかってしまい、アリオスが一生懸命介している。 どれぐらい食べたのかと、エンジュは横目でちらりと見ると、ゆうに20コは食べている。 それは詰まるはと、エンジュは内心思った。 「ぷは〜っ! 死ぬかとおもっちゃった! アリオス有り難う!」 アンジェリークはご機嫌に言うと、冷たいお茶で喉を潤す。 「で、あと10コは食べられそうだ〜!」 「今度はゆっくり食えよ」 アリオスが呆れて見ているのかと思えば、愛情を持って楽しんで見つめている。 「うん、ゆっくり食べる」 アンジェリークはアリオスに甘えるようにして素直に従い、その姿がとても可愛かった。 フランシスを寝かせたレオナードが、餅つき場所に帰ってきた。 「はい、あげます」 エンジュはレオナードにウサギの餅を差し出し、醤油と大根おろしをかけてやる。 「おっ! 有り難うな」 レオナードの嬉しそうな笑顔に、エンジュもまた幸せを感じた----- 餅つきをするだけでも大騒ぎ。 『天使の庭園』の年末は過ぎゆく。 みんな、みんな幸せな気分で迎える年の瀬は、もっと素晴らしい年を迎える布石のようなもの。 来年がもっといい年でありますように------ お餅に願いを込めて、みんなで祈り逢った---- |
| コメント アリコレ、レオエンを絡めながらのお話。 天使の庭園のお正月。 凧揚げ大会なんかええかなあ。 皆様も良い年の瀬をお過ごし下さいませ。 良いお年を〜 |