「高速サービスエリア探検の旅に行きたいっ!」 大きな声で宣言したのは、アンジェリークとエンジュ。買ってきた雑誌の中に、ハイウェイの楽しみ方といった項目があったからだ。 ふたりは熱心に雑誌のページを広げて、レオナードとアリオスに見せつけた。 「ハイウェイを回る日帰りの旅か…」 「うん! サービスエリアって楽しいもの!」 エンジュは、レオナードに、子供のような期待に満ちた眼差しを送り、間接的に強請っている。 「いつものメンバーで、ぶらぶら行くのもいいかもしれねえな」 アリオスは基本的にアンジェリークには本当に弱いので、すっかり乗り気になっている。それには誰もが苦笑いしていた。 「やっぱり、山の幸も海の幸も同じぐらいに食べられるところが良いと思うのよね。肉も魚もいっぱい食べたいし、フランクフルトだとか アイスクリームとかも食べたいし…」 食べ物に関してのアンジェリークの想像力はかなりのものだ。アリオスたちも呆れてしまうぐらいだ。 「ホント、豆狸は、食べ物に関しては命がけだよなァ。やっぱり食欲の春かァ?」 レオナードはさも感心するような呆れ返るような顔でしみじみと言っているが、アリオスはツッコミを忘れてはいない。 「コイツの食欲は年中だって」 これには、アンジェリーク以外のものたちは大いに同意をして、笑った。 「もう! 私はそんなに食いしん坊じゃないもん」 「俺様がおやつに何か作ってやっても、興味はねェかよ。豆ダヌキは」 レオナードの提案に、アンジェリークのこめかみは現金にもぴくりと動く。 「 あ、レオナードさん、おやつ代わりにカツサンドをお願い!」 膨れっ面をしていたというのに、アンジェリークは直ぐにころりとうっとりとした表情に変える。食べ物に関しての変わり身の早さに、みんなで大いに笑った。 「じゃあ、来週の土曜日あたりに、みんなで行くのはどうだ?」 アリオスはアンジェリークの為に早く実現してやりたいのか、早い日時を提案してくれる。これがアンジェリークには嬉しくて、すっかり喜びの表情となっていた。 「アリオス、有り難う!」 アンジェリークはすっかりその気になってしまい、もう心はドライブ旅行に向かってしまっている。 「ったく、勝手に決めやがって」 レオナードは不平を言ってはいたが、またいつもの彼なりのひねくれた同意の合図だった。 エンジュもまたそんなレオナードの姿が微笑ましくて、柔らかな天使のような笑みを浮かべた。 まだ、レオナードとは堂々と恋人だとは名乗れない関係ではあるが、少しずつお互いの恋を近付けるのが、今は楽しいのだ。 「じゃあ、決まり。来週の土曜日だ。車はそれぞれ持ちってことだ。レオナード」 「ああ」 これで決定。 アンジェリークとエンジュは歓声を上げて喜んだ。 ドライブ食い倒れツアーの日は、美しく晴れ上がった。 アンジェリークもエンジュもそれに相応しいような乙女なスタイルで決めている。お互いに似合っているカントリー調のワンピースをひとしきり褒めあってから、車に乗り込んだ。アンジェリークはアリオス号。エンジュはレオナード号だ。 アリオスの車はシンプルでクールなシルバーメタリックのスポーツカータイプ、レオナードはといえばド派手な50年代のクラシックカーの上、これまたらしすぎる改造タイプだ。 これでは周りのドライバーは苦労するだろう。 「酔うなよ、エンジュ」 「私は健康体なので、全く酔いませんよー。残念でしたっ!」 「俺様はんなおまえのオトコマエな所が気に入っているんだぜ?」 「オトコマエは余分です。いつも言っているじゃないですかー!」 エンジュは笑いながらも。しっかりとレオナードを窘めることは忘れない。それに、レオナードはかなり大袈裟に言ったのだと思っていた…。何時もはそんなに乱暴な運転をすることはなかったからである。だが、高速に乗ると、事情が変わった。 レーサー気分のレオナードが頭を擡げてきた。運転はきちんとしているが、肝心のつめのところで荒っぽいのだ。 「…何だかジェットコースターにのっているみたい…。さっきの言葉はあながち嘘ではなかったのね…」 エンジュは小さな声でひとりごちながら、少年のように楽しそうにしているレオナードを横目で見た。 「やっぱり、こんなところが可愛いのかなあ…」 子供のように無邪気になる男を見るのも、またときめくものだ。エンジュは楽しげに口角を上げる。 「よっし、アリオスたちにちょっかいを出しにかかるぜェ!」 レオナードがいたずらをする直前の子供のように興奮しながら言うものだから、エンジュも何だか楽しくなってくる。 「まくるぜ!」 「まくれ! まくれ!」 まるで競艇観戦の親父のように叫びながら、エンジュはレオナードをしっかりと応援していた。 さて、迷惑なのはこちら。アリオスは、ナビをする為に、レオナードの前を走っていた。 「アンジェ」 アリオスはふたりきりのコンパートメントをいいことに、エロティックにロマンティックにも、アンジェリークのふとももをそっと撫で付けようとしていた。アンジェリークは相変わらずポテトチップスを食べたがら、子供のように外を見ていたので、ロマンティックのかけらもなかったが。 「あっ!」 突如、アンジェリークが大きな声を上げたので、後ろめたいアリオスは、途端に身体をびくりと跳ね上げさせた。 完全に未遂。健全な青年が持つ欲求を上手く発揮できずに、アリオスは不機嫌にも舌打ちをした。 「どうしたんだよ!?」 「外を見てよ! レオナードさんが凄い勢いでこっちに近付いているよ!」 「あおりやがってあの野郎! しかも白い煙をいっぱい吐き散らしやがって! 環境に究極に悪い車だぜ! 自然は大切にしやがれっ!」 アリオスが急にスピードを上げたので、アンジェリークの躰は浮き上がって驚いたが、何だかローラーコースターに乗った気分になる。 アリオスはレオナードにかなりの敵対心を剥き出しにする。それは桃源郷のようなパラダイス一歩手前で、思い切り邪魔をされたのだから。 「アリオス、頑張ってねー!」 「ああ。あんな不良中年に負けるかよっ!」 アリオスも車の運転は好きなので、巧みにハンドルを切っていく。 ぶんぶん音を立てながら、二台の車はカーチェイスばりの移動をしている。 「レオナードさん、アリオスさんをまくって!」 「おうよ!」 後ろの爆走コンビであるエンジュとレオナードは、調子に乗って遊んでいる。 「おい、アンジェ、携帯でエンジュに電話をかけろ。一発怒鳴ってやる」 「はいっ!」 アンジェリークは直ぐにエンジュに電話をかけ、程なく出てくれた。 「エンジュ出たよ」 「じゃあ携帯をレオナードに近付けろと言え。俺にもおまえの携帯を近付けてくれ」 「ラジャ!」 アンジェリークはエンジュに携帯をレオナードに向ける旨を言うと、面白がって快諾してくれた。 「はい、アリオス、どじょ」 「ああ」 携帯電話をアリオスに向けるなり、その顔はかなり厳しくなる。その証拠に眉が綺麗に上がった。 「レオナード! 煽るんじゃねえ…!」 アリオスの低い声でどすが入れば、背筋が凍る気分になる。 だが、アンジェリークはそんなアリオスを素敵だと思ってしまう。 しかし、レオナードも黙ってはいない。 「おまえがチンタラチンタラ走るからだぜ?」 レオナードはあの太い男らしい声で、言ってくる。どすもやはりアリオス並にきいている。 「おまえが道を知らねえから、ちゃんと俺がナビをしているんだ。逆らうな」 アリオスはレオナードに堂々と宣言する。ナビゲーションする者が偉いのだと、言い聞かせるかのように。 「俺様は道を知らないんじゃねえ。サービスエリアみてえなけち臭いところは、あんまり寄らねェからだけだ」 これには、アンジェリークがぶんすかと怒り、会話にちょっかいを出してきた。 「サービスエリアを馬鹿にするものは、サービスエリアで泣くのっ!」 「流石はアンジェ!」 エンジュの援護射撃があり、結局、レオナードはスピードを落とすはめになった。 最初のサービスエリアは、牛乳が美味しくて有名なところだ。 「美味いなあ! 運動の後はたまらねェぜ!」 ここで一番上機嫌なのは、何故かレオナードだ。豪快に喉を鳴らしながら、ミルクを愉しんで飲んでいる。 「どこが運動何だよ」 アリオスはミネラルウォーターを片手に、不機嫌にしている。アリオスが飲んでいるものも、この地域で有名な銘水だ。 「アリオスさァーん。カルシウムを取るのに牛乳は最適よー」 レオナードが嫌みのように言うものだから、アリオスはより不機嫌になってしまう。それをまた、レオナードは楽しんでしまっている。 「この牛乳、とっても濃厚で美味しい!」 アンジェリークもエンジュも唇の周りを真っ白にさせながら、ご機嫌に言う。 「アリオスも飲んだら? 美味しいよ」 アンジェリークが無邪気に牛乳瓶を差し出すと、アリオスはじっと唇を見つめてくる。 「アリオス?」 アンジェリークが小首を傾げた瞬間、アリオスの唇が柔らかく触れた。 「…!!!」 「ごっそうさん。美味かったぜ」 アリオスの所業に、アンジェリークは身体を小さくしながら、真っ赤になった。 |
| コメント アリコレ、レオエンを絡めながらのお話。 レオナードの車は、COP3に反した行為だ(笑) |