「今日は十五夜だよっ! だから、たらふくお月見だんごを作ろう!」 「ったく、またお前かよ。豆タヌキはイベントがお好きとみえるなァ」 アンジェリークの手に持たれたスーパーの袋を覗きこむと、そこには大量の月見ダンゴの材料が入っている。 ニコニコ笑う大食い娘に、レオナードは溜息をつきたくなった。そのアンジェリークよりも、更に多くの荷物を持っているのがアリオスだ。きっとせがまれて、断りきられなかったのだろう。 建築業界の切れ者と言われているアリオスの、こんなに甘い姿を見せられたら、きっと誰だって驚くに違いない。 「お前、勿論、ちゃあんとした材料を買ってきたんだろうなァ?」 「ダイジョブだよ。私は解らないけれど、アリオスにちゃあんと聞いたから!」 「はい、はい」 アリオスがセレクトした材料なら、先ずは問題はないだろう。レオナードは、アンジェリークとアリオスから材料をしぶしぶ受け取り、中身を確認した。 「何だよ、こいつは!」 まるっきり酒盛りの材料と受け取りかねないものが多数含まれている。 これなら、良い刺身、良いローストビーブ、良いサラダ、良いカツサンド、良いおこわが炊ける…。 レオナードが睨むように見ると、アンジェリークは平然と笑った。 「お願いします、レオナードさんっ!」 「お願いな、レオナードさん」 アンジェリークはまだしも、いけ好かないヤローのアリオスに言われると、些かムッとしてしまう。 「…お前はいいんだよ、お前はァ!」 怒っても、けろりとふたりはしている。 最近、食べ物系イベントでは、常にアンジェリークに振り回されているような気がする。その片棒を担いでいるのが…。 「あら、いらっしゃい! アンジェ!」 「エンジュ!」 アンジェリークと仲良しこよしな、”天使の庭園”アルバイトエンジュだ。 「あのね、あのね、お月見しようと思って、いっばい材料を買ってきたんだよ」 アンジェリークは得意そうにエンジュにビニール袋の中を見せて、笑っている。 エンジュも覗きこんで、食材のチェックを細かくしている。 これはマズすぎる。 くるりとレオナードに顔を向けたエンジュは、にんまりと笑ってこちらを見る。 「ねっ、オーナー、今日は”お月見パーティー”をしましょうよ! 臨時休業にして!」 エンジュにニッコリと微笑みを向けられると、流石のレオナードも弱い。苦虫を噛み潰したような表情になった。 まるで月に住むウサギのような、神秘的で愛らしい表情を浮かべられると、完全に降参だ。 「…幸い、お客様もいないみたいだし…。ね、レオナードさん!」 エンジュがレオナードに拝むようにお願いポーズをすると、アンジェリークも同じようにする。 「ね、お願いレオナードさんっ!」 豆タヌキはおもちゃみたいに愛らしいが、エンジュは色っぽい天使のように思える。 アンジェリークはその後に、にんまりとお得意の笑みを浮かべてきた。 「だってウサギちゃんエンジュのお祭りなのよ! レオナードさんっ、やるわよね!」 「だから私は、バニーガールじゃないって!」 苦笑しながらエンジュは言うが、そんなツッコミはないだろうと、レオナードとアリオスが思ったのは、言うまでもない。 こんなに懇願されれば、いくらレオナードでも降参だ。しかもウサギよりも可愛い天使様のお願いときている。 「しょうがねぇな! 確かにウサギとタヌキに月は似合う。どっちも腹叩いて、餅をつくんだぜ?」 「やった! オーナー! 早速、定休日の張り紙してきますね!」 エンジュは興奮ぎみに言うと、直ぐに脱兎のごとく行動に移る。 うれしいのだが、複雑な顔をしているのが、アンジェリークだ。 拗ねてしまって頬を膨らましてしまっている。 「…私、タヌキじゃないし、満月に向かって、ポンポコポンって、お腹を鳴らしているわけじゃないもんっ!」 「腹ならいっつも叩いて鳴らしているじゃねぇかよ。”お腹いっぱーい”って、ポンポコポンって!」 アリオスはアンジェリークをからかうようにくつくつも笑いながら、楽しげにしている。 「もうっ! アリオスの馬鹿!」 定番の台詞を言って怒るアンジェリークを見て、レオナードはこれほど愉快な女はいないと思った。 「さあてと、早速、仕込みを始めねぇといけねぇからな。お前らも手伝えよ!」 「はあい」 レオナードの大号令のもと、お月見パーティーの準備が始まった。 「こんにちは、本日は定休日ですか?」 常連フランシスがひょいと顔を出す。相変わらず、背中にノーブルな薔薇を背負っていた。 「あっ! フランシスさん! 今日はお月見の会をするんです。よかったら、ご参加されませんか?」 フランシスにとっては罪深すぎる屈託のない笑顔が、眩し過ぎる。 「はい、喜んで、レディ」 ニッコリと優雅に微笑むフランシスの背後で、レオナードが鬼瓦の形相をしているのが、何とも恐ろしい。 「今日はウサギが餅つくのを愛でる日だからなァ。せいぜい楽しんでくれ。フランシス先生」 レオナードはわざとウィンクをしながら、ニシシと笑う。 「レオナードさんっ!」 エンジュが嗜めても、レオナードは止めない。 「ウ、ウサギ…」 フランシスは名前を聞くだけで、泡を吹いて気絶してしまう。 「フランシスさんっ!」 エンジュが男前にもフランシスを抱き留めて、倒れなくてすむ。 しかし細身とは言え、大の男。支えるには重い。 「レ、レオナードさん、手伝って下さいっ!」 「おう! しっかし、しょうがねぇな」 面倒臭そうにカウンターから出てくるレオナードを、エンジュは睨み付けた。 「もうっ! レオナードさんがあんなこと言うから悪いんですっ! 自業自得ですよ!」 レオナードは流石は男のなかの男なだけあり、ひょいとフランシスを抱き上げる。 「うちの控室はコイツの医務室じゃねぇっての」 ブツブツ文句を言うレオナードに苦笑しながら、エンジュはその背中を見送った。 一段落ついたところで、調理再開。 アリオス、アンジェリーク組が、月見団子をこしらえ、レオナード、エンジュ組が、その他の料理を担当する。 ダンゴ組は、総ての下準備をアリオスがし、丸めるのはアンジェリークを中心に行っている。 三角巾と割烹着姿のアンジェリークではあるが、どこか泥んこ遊びになっている。 「いっぱい作ったからいっぱい食べなきゃね!」 「クッ、お前はそればっかかよ」 アリオスはまるで子供を見守る保護者のように、目を細めている。 「だっておダンゴ美味しいんだもん!」 「はい、はい」 アリオスが呆れるように言っているのも、愛情の印だと、誰もが思っている。 料理は、チームワークの良さで、テキパキ進んでいった。 全部の料理が揃う頃には、夕闇が下りて来て、月を愛でるのには良い雰囲気になってきた。 みんなで、天使の庭園で一番綺麗に月が見える中庭に陣取る。 神々しく光り輝く月を誰もがうっとりと見ている。勿論、ひとりを除いて。 「わたしは17歳だから、おダンゴは17こ食べても良いよね!」 アンジェリークは、やはり色気より食い気のようだ。そのらしすぎる反応に、誰もが苦笑する。 「ったく、やっぱりお前は食い気かよ。年の数って、節分じゃねぇっての」 アリオスは笑いながら、アンジェリークの栗色の髪をくしゃくしゃにして、精一杯可愛がる。 それを見守っていると、ふとエンジュの前にノンアルコールカクテルが出される。 「俺様からのプレゼント。月にちなんで、”ムーンエンジェル”ウサギみてぇな天使様に」 小意気なウィンクをレオナードは添えてくれ、エンジュに笑みが広がる。 「有り難う!」 それぞれのカップルが、いつの間にか寄り添って、月を見る。 夜が長くなる秋も、”天使の庭園”はそれなりにロマンティック。 |
| コメント アリコレ、レオエンを絡めながらのお話。 すごく久しぶりの更新です。 書いていていて楽しかったです。 やはり原点だ |