「”恋のキューピッド”だなんてすごく楽しいですねェ。食べ物を食べる時と同じぐらいに!」 アンジェリークはいつものようにニコニコ楽しそうにした。 子犬が尻尾を振るようにご機嫌だ。 アリオスにじっと真顔で見られて、アンジェリークは呆けた顔で見返した。 「おまえ、ちゃんと”キューピッド”の意味が解っているのかよ!?」 「マヨネーズ!」 「それはキューピーだろうが」 アリオスは頭を抱えて苦笑いをしている。アンジェリークはきょとんとしていた。 「アリオスさん、ふたりで頑張ってレオナードさんとエンジュをラブラブにしましょうね!」 にっこりと満面の笑顔のアンジェリークに、アリオスは苦笑した。 「全く、おまえの”にこちゃん”攻撃には敵わねえよ」 「”大魔王”じゃありません、私!」 「…おまえ、どこからその思考が出てくるんだ!?」 アリオスにすっかり呆れられてしまったが、アンジェリークはくるくると万華鏡のように愛らしく笑うだけだ。 話していると、エンジュがメインディッシュである、牛肉の塩釜焼きを持ってきてくれる。 「柔らかいからしっかりと食えよ!」 「わーい!」 レオナードに給仕をしてもらい、アンジェリークは手放しで喜ぶ。豊潤で柔らかなところだけを使った肉は、本当に美味しそうだ。 「俺様がアンジェリークの為に、市場から仔牛を連れて捌いた特別のやつだ」 そんなことは有り得ないとアリオスとエンジュは思っていたが、当のアンジェリークが喜び勇んで聞いている。 「♪ドナドナドナドナ〜」 歌が残酷だというツッコミなど気にせずに、アンジェリークは豪快に肉を食べる。 ホントに美味しい顔というのはこんな顔なのだ。 「レオナードさん! エンジュ!」 名前を呼んでふたりの注意を引くなり、すごく楽しそうにアンジェリークは笑う。 「レオナード、おまえ、料理に酒を入れただろう?」 アリオスの言葉にエンジュも同様に頷いた。アンジェリークの壊れようを見れば明らかだ。 「ちょっとだけ、フランべに使っただけだ」 レオナードはいわれない疑いに、少しばかりむっとしているようだった。 「酒に弱いタイプたのか…」 アリオスはご機嫌アンジェリークを見つめながら、溜め息をそっと吐く。 「あんまり酒を隠し味にしたものをおまえには食わせねえほうがいいかもしれねえな」 苦笑いするアリオスを尻目に、アンジェリークはぱくぱくと食べ続けていた。 デザートを食べてすっかり満足した頃には、ハイテンションアンジェリークも落ち着きをみせる。 「おみやにカツサンドを包んでくれ」 「おう。腹減り娘の夜食だな。お安い御用だ」 レオナードはオーダーが入ると、直ぐに名物であるカツサンドを作りにかかる。大人気メニューなだけあり、とても手早く調理をしている。 持ち帰りには折角の野菜が入らないのは残念だが、それでも充分カツサンドだけでも美味しい。 「ほいよ。カツサンド」 「有り難う!」 アンジェリークはカツサンドを受けとるなり、今にでもスキップをしそうな勢いだった。その姿は相当愛らしいことを、本人は気付かない。 「じゃあまた邪魔する」 「有り難うございました」 「エンジュばいばい。頑張ってね!」 「アンジェもね! バイバイ!」 アリオスに連れられてレストランを出て、駐車場に向かう。 「まだ時間はあるだろう?」 アリオスがちらりと腕の時計を見ると、まだ7時だ。まだまだ夜はこれからな時間帯だ。 「少しだけなら」 アンジェリークはほんの僅か頬を染めながら頷く。もう少しアリオスと一緒にいたかった。 ふたりが向かったのは、港が綺麗に見える公園。秋の潮風も心地が良い大人のデートスポット。そこには、大観覧車があるのも見逃せない。 「ぶらぶら行くか」 「はいっ!」 アリオスが先に歩くのを、アンジェリークはえっちらおっちら着いていく。アリオスの方が脚もながく長身のせいか、アンジェリークはなかなか追いつけない。 ようやく横に並ぶと、アリオスが歩く速度を合わせてくれた。 「アリオスさん背が高いね。いくつ?」 「187だ。が、レオナードのがかなりデカイぜ」 「うん、クマさんみたいに大きいもの」 アンジェリークは自分たちの横にちょうど良い高さの排水路の策があるのに気付いた。煉瓦で出来ているのでちょうど良い。 「乗っちゃえ!」 ぴょんと策の上に上がり、アンジェリークはアリオスの横を歩く。 「こうすれば、アリオスさんと目線の高さは一緒になるでしょう? アリオスさんがこんな視点で物事を見ていたことが、とても明確に解るもの」 「そうか」 アリオスは目を細めながら穏やかな笑みを浮かべる。大人の男性特有の艶やかさに、アンジェリークは想わず見つめてしまった。 「きゃっ!」 余りにもアリオスを見つめ過ぎていたせいで、アンジェリークは自分が段差の上に立っていることを、すっかり忘れてしまっていた。 バランスを崩してしまい、落ちそうになる。 「あ、あ、ああ!?」 「おっと!」 アリオスにナイスタイミングに躰ごと腕で支えてくれる。アリオスの逞しい腕に、アンジェリークは胸がせりあがり鼓動を速めるのと同時にときめきも感じた。 全身が今まで知らなかった熱に冒される。熱くてたまらなくて、けれど不快ではなくて。アンジェリークにはときめく熱だった。 「大丈夫か!?」 「大丈夫です。どうも有り難う」 まだアリオスの腕を意識してしまう。躰に密着された腕はとても心地良くて、離してほしくない力の強さと温もりに、アンジェリークは興奮するほどの幸福を感じた。 触れられた部分から幸福が沢山溢れ出す。 アンジェリークは世界で一番素敵な女の子のように思えた。 「ほら」 「有り難う」 アンジェリークの華奢な躰をアリオスがきちんと立たせて、体制を整えてくれる。 緊張しているのにとても煌めきを感じる。甘い呼吸を何度も感じ、アンジェリークはくらくらする。 「荷物持ってやるよ」 「有り難う」 アリオスに荷物を渡すと、軽々と持ってくれる。 「これは何だよ」 鞄の他にある大きな包みを指摘されて、アンジェリークは少しだけ恥ずかしくなる。 「…お弁当箱」 「弁当箱!? お母さんにこんなに沢山作って貰っているのか?」 「お弁当は自分で作ります。私しか好きなものは解らないですから」 「すげえな。朝から大変だろう、こんなに」 アリオスは感心するように何度も包みを見る。アンジェリークはこれだけは自信があるので、少し得意になっていた。 「料理は好きなのであまり気にはならないです。美味しいものには命かけてますもん。お弁当箱に重箱を使っているぐらいですから!」 「たいしたもんだ」 アリオスが本当に心から褒めてくれているのが嬉しい。 「私の自慢です」 アンジェリークは素直に言うことが出来る。これもアリオスがくれた魔法ではないかと思った。 「ほらよ。また落ちねえようにな。保険」 「有り難う…」 アリオスが手を差し延べてくれる。アンジェリークははにかみながらもアリオスの手を素直に取ることが出来た。 握り締め合うと本当に温かくて、鼻唄すらも出てくる。 アンジェリークはスキップしそうになり、アリオスに怒られた。 「ったく! また落ちるぞ!」 「ごめんなさい」 アンジェリークがしゅんとうなだれると、アリオスが手の甲を優しく撫でてくれる。 熱い絆を感じた。 アリオスと手を繋いで小さな策を最後まで行く。子供の頃以来の行為に、アンジェリークは楽しさと煌めきを感じる。 「こうやって歩いていると、アリオスさんと一緒の目線になれて嬉しい」 「そうかよ。同じ目線か…。だったら、俺に使っていた敬語は止めろよ。ちゃんと呼び捨てしろ。”アリオス”って」 いきなり呼び捨てをしろと言われても、アンジェリークは緊張して旨く言えない。相手は年上で、アンジェリークよりも随分と経験を積んだ、尊敬すべき男性なのだから。 「どうしても?」 アンジェリークは頬を染めながら、アリオスに上目使いに聞く。なかなかそう言われても、踏み込むことが出来ないのがアンジェリークだ。 「どうしても。おまえは俺と目線が同じ何だろう?」 アリオスに言われてアンジェリークは唸った。確かに目線が同じは嬉しいが、アリオスを呼びつけにするのは抵抗があった。 「じゃあ、下ります…」 「下りたら、俺がおまえのレベルまで、目線を下げてやる」 アンジェリークは口をどからせて、眉を潜めて考え込んだ。 どっちにしてもアリオスを呼び捨てにしなければならなさそうだ。 「…じゃあ、待ってくださいね!」 「ああ」 アリオスがからかいを含んだ眼差しでアンジェリークを見つめているのがわかる。余計に恥ずかしくて、視線を気にしないようにして、アンジェリークは深呼吸をした。 「…アリオス…」 勇気を出して小さな声で言ってみる。アリオスはもちろん厳しい。 「却下。もっと大きくだ」 「アリオス…っ!」 今度はかなり思い切りよく言ってみた。するとアリオスはクールだけれど、温かな愛情たっぷりの笑顔で応えてくれる。 「合格!」 アリオスの手が頬に伸びてきた。次の瞬間、キスをくれた。 同じ目線の…。 |
| コメント アリコレ、レオエンを絡めながらの新しいお話です。 ひたすら、甘く、可愛くを目指します。 よろしくです。 料理が可愛くない…(笑) アリコレメインです、今回は。 |