HAPPY HOLIDAY


今日はいっぱいやりたいことがあるんだから! 贈り物の園でお買い物でしょう、自然の園の輝きの丘でのんびりして、遊びの園ではパルク・ディマンシュで遊ぶの〜!」
 念願のセレスティアの正門前で、アンジェリークはきゃっきゃと騒いだ。これはもう女王ではなく、17歳の年頃の少女だ。
 自分でオープンしたものの、ずっと行くことが叶わなかった場所に 、今日は恋人のアリオスと来ることが出来て、最高にご機嫌なのだ。
「ったく、はしゃぎすぎてこけたり、物にぶつかったりするなよ?」
 肝心の恋人と言えば、いつものように口が悪くて苦笑気味。それでもその瞳は嬉しそうに微笑んでいるのを、アンジェリークはよく知っていた。
「アリオス、早く行きましょう?」
「はい、はい。ったく女王陛下は、我が儘だからな」
 しっかりと手を握り合って、ふたりはセレスティアの門を仲良く潜っていく。
「まずはどこだ?」
「カンセール!  食材をいっぱい買うんだから」
「はいはい。試食しすぎて腹壊すなよ」
「そんなことはしないわよ!」
「いいや、おまえだったら判らねえからな」
 くつくつと喉を鳴らして笑うアリオスに、アンジェリークは頬を幾分か膨らまして怒った。
「んな顔ばっかしてると、ジャムを付けて喰っちまうからな」
 ぷにぷにと頬を
「明日もお休みだから、宮殿でゆっくりしようね。いっぱい手料理するからね」
 アリオスは畏まった料理が嫌いだ。どうしても宮殿にいるときはそのような料理を食べざるをえないが、アンジェリークの計らいで随分か素朴な料理にして貰っている。だが、週に一回はアンジェリークは温かな手料理を振る舞ってくれ、それをアリオスは何より物楽しみにしていた。
「俺もカンセールで買うもんが出来たぜ」
 良くない微笑みをアリオスが浮かべてくるので、アンジェリークは眉をへの字に曲げる。
「何を買うのよ?」
「胃薬」
「もう! もうご飯作って上げないんだから!!」
 アンジェリークはすっかり拗ねて、余計に頬を膨らませる。それを見てアリオスが更に愉快そうに笑うものだから、余計に癪に触った。
 カンセールに入ると、アリオスは笑いながらかごを持ってくれるが、アンジェリークと握り合った手は決して離さない。
「ここは便利なのよね。遊んだ帰りに荷物を引き取れるように冷蔵式のロッカーで預かってくれるもの」
「後で取りに行くの忘れねえようにしねえとな」
「うん!」
 二人はどこから見ても、この近くに住んでいる新婚にしか見えず、まさか、宇宙を統べる女王と、その女王を支える魔天使様には、とてもでないが見えない。
「あ、アリオス! あんなところにチキンの試食コーナーがあるわよ! 行きましょうよ!」
「ったく、食い意地が相変わらずはってるよな」
「いいじゃない♪ だって喰い痔が貼ってるって言うのは、元気な証拠でしょう? 口が肥えたら美味しい物を作って上げられるしねえ」
 楽しそうに言いながら試食コーナーにまっしぐらなアンジェリークについて、アリオスも行く。
「わ〜い、いただきま〜す」
 本当に嬉しそうに大口を開けて食べるアンジェリークを、アリオスは微笑ましそうに見守っていてくれた。
 不意に、アリオスの表情が少し引き締り、アンジェリークははっとする。
「どうしたの?」
「ああ。後ろ見てみろよ?」
「後ろ?」
 アリオスの言葉にアンジェリークは怪訝そうに眉根を寄せた。
「おさげのお星様と、モンゴル相撲スタイルの守護聖様が仲良くにやついてこっちを見てるぜ?」
「え!? エンジュとレオナードが!?」
 アリオスの判りすぎる表現に、アンジェリークも流石にぴんと来る。ゆっくりと判らないように振り返ってみると、やはり…いた。聖獣宇宙の光の守護聖と”エトワール”エンジュの姿がある。しかもふたりは、なにやらうれしそうである。
 耳を峙ててみるとその会話も聞こえた。
「陛下とアリオスさんって、ホントに素敵な恋人同士ですね、レオナード様」
「だから俺たち守護聖は間に入れねえんだよなチャーリーが色々教えてくれたけどよふたりは、なんでも”運命の恋人同士”だとか言ってたぜ」
「…だったら私たちも? レオナード様?」
 ふたりの会話を聞くなり、アンジェリークは真っ赤になってしまう。
「…恥ずかしいわ…」
「いいじゃねえかよ。見せ付けてやったら。モンゴル相撲取りとお星様のカップルのお手本になるんじゃねえの?」
 アリオスはニヤリと甘く微笑んでいるが、アンジェリークには恥ずかしくてしょうがない。思わず俯いてしまった。
「ほら、買いたいもんがあるんだろ? とっとと買い物済ませちまおうぜ。でいっぱい見せ付けてやらねえとな。この宇宙のベストカップルは俺たちだってな」
「もう…」
 はにかみながらも、アンジェリークは結局はアリオスに従ってしまうのだ。
「デートの仕方を教えてやらねえとな? あのふたりにも」
 ふたりは何事もなかったようにデートを再開することにした。
「明日ねえ、良い物があったらラム肉を柔らかく煮たものをしようかなって、赤ワインのドミグラスソースで煮るのよ。いっぱいソースを作ったら、ハンバーグとか、朝食のパンに付けて食べても美味しいものね」
「楽しみにしてるぜ?」
 アリオスは自分の好きな物を料理してくれる、アンジェリーク心根が嬉しくて、目を細める。
「アリオス、肉売り場に行きましょう、後、サラダにする野菜とかもいるから。おやつもね! 帰りは 荷物を持ってくれるんでしょう?」
「しかたねえな」
「だからアリオス大好きなの!」
 アンジェリークは、すっかりご機嫌になってアリオスに甘え、後ろから光の守護聖とエトワールエンジュが追いかけてきているのを、すっかり忘れていた。
 しこたま食料品を買い込んだ後、深夜に取りに来ると店主に伝え、カンセールを出る。
 アンジェリークの手にはしっかりといつもの食料袋が握られ、中にはおやつがたっぷり入っている。
「おまえはアルカディアにいた頃から変わらねえもんな。おやつが大好きで、暇があったらおやつのこと考えてるんだからな」
 アリオスは使命を受ける時はいつも厳しい表情だが、このように休日のデートの時には、明るい自然な表情になるのが、アンジェリークには嬉しかった。
「失礼ね、暇なときはアリオスのことを考えて、アリオスのことを考えて…その合間におやつの事よ」
「クッ、やっぱりおやつのことを考えていたのかよ。ったくおまえは食い意地が張っているな」
「…だって、おやつ美味しいじゃない」
 頭からぷすぷすと湯気が出そうなくらいに恥ずかしそうにしている。
「さてと、次はどこだ?」
「自然の園の輝きの丘よ!」
「オッケ」
 ふたりは次にプレイスに、足取り良く向かった。

「  もう結構良い時間になってきたな…」
「…うん…」
 恨めしそうに空を見上げると、既に数多の☆が揺れて煌めいている。
「もう少し、いるか?」
「…うん、いたい…」
「しょうがねえな。躰が冷えたら部屋で温めてやるからな」
「うん」
 ふたりはお互いに肩を寄せ合って、静かな小径に入っていく。
「そろそろギャラリーにはご退散頂かねえといけねえな」
「ギャラリー…あっ!」
 ようやくアンジェリークは、レオナードとエンジュが後ろからついてきていたのを思い出した。
 アリオスは不意にアンジェリークを腕に抱き寄せると、顔を近付けてくる。
「…アリオスっ、見られているんだから、その…!」
 アンジェリークは小さな声で恥ずかしそうに抵抗するが、アリオスが許してくれるはずがない。
「…ここで熱いシーンを見せたら、ご退散してくれるだろ?」
「…やだって…」
 しかし、アンジェリークがアリオスに逆らえることなんか出来るはずもない。
 アリオスはアンジェリークの顔を両手で被ったまま、余裕の表情で、覗き見が趣味のカップルを見つめる。そこには不適な笑みすら浮かんでいた。
「おい、こっち見て笑いやがったぜ!?」
「アリオスさん、さっきから私たちがず〜っといっしょだってことを判ってたのかしら!?」
「おい!?」
 レオナードが喉を鳴らすと、続いてエンジュも同じように固唾を呑んだ。
 アリオスの唇が深くアンジェリークのそれに重なる。
 しっとりと包み込むようなアリオスのキスにアンジェリークは総ての感覚を無くしていく。見られているという意識は遠のき、アリオスがくれる甘くしっとりとした深いキスしか感じなくなった。
 アリオスのキスはとても巧みで、舌を使って口腔内を愛撫する。
 アンジェリークはすっかり夢中になってアリオスにしがみつき、愛のキスを何度も交わしている。
 その様子を、レオナードとエンジュは目をしばたいて見ている。
「エンジュ…」
「何ですか、レオナード様」
 答えるなりいきなり、レオナードは唇を深く奪ってきた。アリオスとアンジェリークに刺激されて、それはもう激しく唇を奪っていく。
 エンジュのファーストキスは夜空の下、それなりにロマンティックだった。
「アンジェ…、あいつらすっかり夢中だぜ? ここは俺たちが退散だな?」
「そうね?」
 アリオスとアンジェリークは、この場所はふたりの恋人たちに譲ることにして、そっとその場から離れていった  

 奥にある森の湖に行くと、ふたりはそしゃがんでそっと抱き合う。
「神鳥の聖地にも同じ”森の湖”があって、願えば、大好きな人に会えるって言い伝えがあるの…。だからここにこれを作ったの…。あなたに会いたいって…願いたかったから…。ちゃんと願いが叶って嬉しかった…」
「アンジェ…」
 アリオスは改めてアンジェリークに甘いキスを送り、しっかりと華奢な躰を抱きすくめる。
「愛してる…、俺は宇宙ではなく、おまえ個人に忠誠を誓う…。女王ではなく、アンジェリーク・コレットに…」
 アンジェリークはその言葉が嬉しくて微笑むと、アリオスにしっかりと抱き付く。
「愛してるわ…」
「愛してる…」
 ロマンティックな星の降る夜に、ふたりの唇は重なり、愛を確かめあった。

 その後、ふたりは仲良く、カンセールで荷物を取って聖地に戻る。
 聖地に戻り、宇宙船を確かめると、二つの影がうつっており、ふたりは満足そうに微笑み合った。

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2003〜4年のペーパー再録です。




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