Snow Souvenir


 温かなふわふわとした感覚を、突然、小さな鈴の音が掻き消した。

 大変…!!!

 直ぐに目を覚まして、鈴の音を止める。目覚まし時計を手に取って、安堵の深呼吸。
「…良かった…」
 横にはまだ安心して眠っている愛する男性がいる。その寝顔にアンジェリークは幸せそうな微笑みを浮かべる。
 アリオスがちゃんと寝息を立てて、ぐっすりと眠っている顔を見るのが、何よりも嬉しい。
「もう少し…寝ていてね」
 微笑みながらアリオスの頬に甘いキスを送った。
 アリオスと一緒に温まった寝台から出るのは、とても辛いが、勇気をかき集めてアンジェリークは出ようとした。
「きゃっ!」
 突然、逞しい腕に引っ張られて、布団の中に連れ込まれる。
「…湯たんぽはもう少し一緒にいろ…」
「アリオス、だって、今日から”使命”でに赴くんでしょう? 寝坊しちゃうわよ」
 アンジェリークが頬をぺしりと軽く叩いても、アリオスは離さない。
「…アリオスの朝ご飯作らなきゃ…。美味しいのを作るから」
「美味い朝ご飯の前に…」
 半分寝ぼけたアリオスは、アンジェリークを更に抱きしめて自分と向かい合わせる。
「…んんっ…!!」
 いきなりアリオスが唇を塞いでくると、濃厚で甘いキスが始まる。
 大好きなアリオスのキス。アンジェリークはついついそれに応えてしまう。
 甘くて濃厚なキスが済むと、アリオスから唇を開放される。
「…寝る…」
 再び布団の中に潜り込んだアリオスに苦笑しながら、アンジェリークは再び頬にキスをした。

 仕事に厳しい”魔天使”様のこんな一面を知っているのは、私だけかな?
 女王の特権と言うよりは、恋人の特権ね。

「…アリオス、もう少し寝ていてね。起こしにくるから…」
「…ん…」
 温かで誘惑の多い寝台から何とか出て、アンジェリークは手早く身支度をすると、私室にある寝室の向かいにあるダイニングキッチンに向かった。
 朝食はなるべく自分で作るようにしている。アリオスが使命で留守にしているときはしないが、恋人が聖地にいる時だけは、ちゃんと朝食は作っていた。
 コーヒーは豆から挽いて立てて、パンはこんがりキツネ色に焼きながら、サラダ、スープ、スクランブルエッグとソーセージも忘れてはいない。
「さてと、出来た!」
 良い匂いを漂わせながら朝食が出揃った所で、簡単に身支度を整えたアリオスがダイニングキッチンに入ってくる。
「おはよう、アンジェ」
「おはようーアリオス」
 いつものように甘いおはようのキスをしてから、朝食のテーブルに着いた。
 アリオスが大層な朝食を嫌がるので、なるべくアンジェリークが作っているのだ。
「美味そうだな」
「今日のソーセージはカンセールで売っていた手づくりものなのよ。きっと美味しいわよ」
「そうだな」
 ふたりは仲良くいただきますをしてから食べ始める。アンジェリークにとってもアリオスにとっても、朝のとっておきの時間なのだ。
 ゆっくりと朝食を終わらせた後、片付けや身支度をしてしまえば、あっと言う間に仕事の時間だ。
 先ずはアンジェリークが、アリオスを見送る。
「アリオス、気をつけてね。使命が終わったら、直ぐに帰ってきてね」
「ああ」
 いつも使命に行く前はいつもそうだ。ぴったりとアリオスにくっついて切なそうにするアンジェリークが、可愛くてしょうがなかった。
「おまえも無理するなよ。守護聖が集まって来ているとはいえ、おまえの負担はかなり大きいんだからな」
「…うん。アリオスも一生懸命頑張ってくれているの知っているから、ちゃんと一緒に頑張れるよ」
「ああ。俺達はいつも心は一緒だからな」
「うん…!」
 しっかりと頷いてくれるアンジェリークに名残のキスをした後、アリオスはふたりの愛の巣から出ていく。
「アリオス、気をつけて、いってらっしゃい!!」
「ああ、行ってくる」
 甘い微笑みを浮かべながら、アリオスは手を上げて応えてくれる。
 愛する男性が見えなくなるまで、アンジェリークは手を振り続けた。


 アリオスを見送った後は、厳しい執務が待っている。まだまだ生まれたばかりの宇宙は、上手く安定を保つことが出来ずに、女王の負担は相当な物だ。
 だが精一杯頑張ることが出来る。
 アリオスが頑張ってくれているから。レイチェルや守護聖たちが頑張ってくれているから。
 愛する男性が転生を果たしたこの宇宙を、アリオスと宇宙ごと愛して護りたいから。
 アンジェリークは強い意思を持ち、凛とした眼差しで執務を始めた。

 アリオス…。
 無事に帰ってきてね…。


「…問答無用だ…。女王に仇なすもの、死あるのみ…」
 アリオスは低い声で呟きながら、ひと太刀で相手を倒した。
 女王や宇宙に楯突く者や害のある物には容赦がない。

 アンジェ、決しておまえを血で汚しやなんかしない…。
 おまえはいつも前を見て日の光りを浴びていろ…。
 負の部分は総て俺が引き受けてやる…。

 アリオスは宇宙が健全に育ち、幸福に充ち溢れる為なら、どんなことでも請け負ってやる覚悟だった。

 レイチェルから依頼された”使命”が終了し、アリオスは惑星の様子を見る。残りの仕事は、惑星のサクリアが順調に行き届き、エンジュによる育成がきちんとなされているか、調査をする為だ。

 俺が健全に育成出来ているかデータを集めているなんて、エンジュは知るよしもねえだろう。

「育成はとりあえずは順調のようだな…」
 アリオスはアンジェリークの信頼に応えてくれるエンジュが嬉しい。不意に空を見る。
「寒いと思ったら雪かよ…。そう言えば、あいつ雪が好きだったよな…」
 アリオスは優しい想い出に思わず微笑すると、大きく手を広げた。
 アリオスの指先から不思議な光りがほとばしり、掌に沢山の雪が舞い降りる。
 それを何度か繰り返しながら、アリオスは沢山の雪を集めていく。

 雪みてえに綺麗なあいつにこの土産はぴったりだろうな…。


 一日の執務を終え、アンジェリークは私室でようやくゆったりとした時間を過ごしていた。
 お風呂も夕食も終わり、ゆったりとした時間を過ごしても良いはずなのに、やはりどこか心許ない。アリオスがいないからだ。

 アリオス…。無事に早く帰ってきてね…。

 体力のことを考慮して、もう眠らなければならない時間になるまで、ぎりぎりまで起き続けた。

 今日はもう帰ってこないかな…。

 そう思った所で、ドアが開く音がした。
「ただいま、アンジェ」
「おかえりなさいっ!」
 ぎりぎりまで待った甲斐があるというもの。
 嬉しさが込み上げ、姿を見るなり、アンジェリークはアリオスに抱き着いた。
 その後は、お約束通りの甘いキスが降ってくる。大好きなアリオスのキスをたんまりと味わった後、躰が離れるのが惜しいぐらいだった。
「ほら、土産だ」
「有り難う!!」
 手渡された袋を覗いてみるなり、アンジェリークの表情は一気に晴れ上がった。
「…雪だわ!!」
「雪が降ってたからな。おまえこういうのは好きだろ?」
「大好き…!」
 袋の中には可愛い雪だるま。アンジェリークは幸せそうにそれを見つめる。
「…有り難う…。素敵なお土産だわ」
 アンジェリークの心からの言葉に対して、アリオスは微笑むことで応える。
「窓際に置いておくね。アリオス、お夕飯食べた? 食べてなかったら簡単な物を作るよ」
「頼んだ」
 アリオスの為なら何でも出来る。アンジェリークは簡単だが心の篭った料理を、アリオスに作ってやった。

 夕食も終わり、シャワーも浴びていよいよ寝る時間。
 窓際に飾ってある雪はまだ元気なようだ。
「本当に凄く綺麗だわ…。どうも有り難う…」
 ベッドの脇で、アンジェリークは飽きるまで見ている。
「雪はいつか溶けちゃうけれど…、この想い出は心の中で一生溶けないわ…」
「アンジェ…」
アリオスはアンジェリークを背後からしっかりと抱きすくめながら、美しい雪を見つめる。
「雪はおまえみてえだな…。素直で綺麗で…」
 ふたりは飽くまで雪だるまを見た後、布団の中に潜り込んだ。
 お互いの温もりで心地よく躰を温め合いながら、ゆっくりと眠りの淵に落ちていく。
 優しい温かさに漂いたいと思いながら…。
コメント

こんな寒い日は、誰かと脚を絡ませて眠りたいものですなあ。
アンジェがちょっぴん羨ましい



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