SWEET JEALOUSY


 今日もまた、守護聖の任命式が終わった。
 今の所、光・闇・風・夢・水が揃っており、遅かれ早かれ全員が揃うのは時間の問題だろう。
 だが、宇宙の均衡を保つ幼い女王の躰は、確実に蝕まれている。守護聖の力もまだまだ足りないのが実情だ。
 休むことが許されない女王。故に日の曜日も休息と言えば宮殿で取ることになるのだ。
 女王の魔天使も当然その日に合わせて帰ってくる。
 たまには「今日はエンジュを連れてセレスティアに行ってくる」と言うこともある。
 当然、アンジェリークは止めない。本当は止めてほしいのに、言えない。
 女王としての自分と女としての自分の責めぎあいに、アンジェリークは胸を痛めていた。
 最近、アリオスはエンジュと良く出掛ける。過去の柵を知らない相手の方が彼にとって楽かもしれない。そう考えるだけで、胸が切り裂かれたように痛かった。
 嫉妬-------確かに生々しい感情がを深く抉っている。誰にも言えない感情に、アンジェリークは唇をかんだ。

 休息の日は、宮殿の中庭でゆったりと寛ぎ、体力の温存を心掛ける。
 アリオスと旅していた頃や、アルカディアにいた頃は、休日はほとんどアリオスと出掛けていた。アリオス以外の守護聖と出掛けるときは、決まってふたりきりではなかった。
 今日はたったひとりで白の中庭で日を浴びる。鳥たちや雲を見つめながら、ただリラックスする。時折、自分が取り残されているようで、酷く心もとない気分だった。
「私って、今、ダメな子だな…」
「ひとりか…?」
 聞き慣れた声にアンジェリークは振り返る。そこにはエンジュと出掛けたはずのアリオスがいた。
「アリオス…!!」
 アンジェリークは本当に驚く。楽しくデートをしているはずの、アリオスが、どうしてここにいるのか。驚いた女王を尻目に、アリオスはその横に腰掛ける。
「エンジュと一緒だったんじゃないの?」
「ああ。お子様たちへの案内は済んだ。他の守護聖どもも、ようやくセレスティアに馴れて来たようだから、俺のナビゲーションもおしまいだ。エンジュも好きな相手と気晴らしが出来るようになるぜ」
 アンジェリークは驚いていた。アリオスはそんなことを今までは一言も言わなかった。ただ、”エンジュと出掛ける”そう言っていただけだ。
「じゃあ…今まで出掛けていたのは…」
「最初の一回は、確かにエンジュと一緒だったが、守護聖が揃う度に、皆でセレスティア観光だ。もうエンジュも馴れたから、これからはアイツも誰かを誘うんじゃねえの?」
 アンジェリークは今までの嫉妬心が馬鹿らしくなる。。どす黒い感情が少しずつ終息していくのを感じた。
「アリオス…、てっきり、ずっとふたりきりで逢っていたかと…」
 これにはアリオスは少し悪戯めいた笑顔になる。
「おまえ、妬いてるだろ?」
 図星過ぎて、アンジェリークは耳まで真っ赤にする。その反応を楽しんでか、アリオスは喉を鳴らして太く笑っていた。
「…なによお! だって、そんなに笑うことはないじゃないっ!!!」
 すっかりアンジェリークは拗ねてしまい、アリオスに背中を向ける。久々に見るアンジェリークの自然で愛らしい表情。アリオスにとっては、かけがえのないワンシーンだと言うことを、アンジェリークは勿論気付かない。
「おまえが妬いてくれるのは良いもんだな」
 くつくつと喉を鳴らすアリオスに、アンジェリークはとうとう頬を膨らませる。
「そんなに笑うことはないでしょう!?」
「いや…。おまえが妬いてくれるのは凄く新鮮だからな…」
「え…?」
 深く艶やかな笑みを浮かべると、アリオスふわりとアンジェリークの背中を抱きしめて来た。あまりのシチュエーションにドキドキする。甘い緊張が全身を潮騒となって駆け巡った。
「…いつも嫉妬するのは俺だけだと思っていたからな…」
「アリオス…」
 抱きしめられ、同時に甘い告白に、アンジェリークは喘いでしまう。
 アリオスが嫉妬する。喜びが全身に駆け巡る。
「アリオス、私、凄く嬉しい…。…私ばかりが嫉妬していると思ってた…。アリオスはそんなの無縁だって…。エンジュは明るくて素直で可愛いから、私…」
 そこでアンジェリークは唇を噛み締める。切なさが口の中に滲んだ。
「エンジュは俺のことを、アニキぐれえとしか思ってねえんじゃねえの? 現にさ無意識だろうが、本命がいるみてえだし…。知ってるか? あいつレオナードと話すときは、必ず頬っぺたを赤らめるんだぜ?」
「そうだったんだ…」
「光の守護聖様もまんざらでもねえみてえだしな」
 アリオスの言葉を聞くとほほえましく思う。
「聖獣の宇宙は、恋愛も自由だもの」
「そうだよな。俺達が良い例だろ?」
 アリオスにぎゅっと抱きしめられるのが心地良い。本当にそうだったら良いのにと思う。
「今日はあの五月蝿いのはどうした?」
「レイチェル? レイチェルなら、エルンストさんをこっそり説得に行っているの…」
「そうか…。鋼の守護聖だもんな」
 しみじみとアリオスが言い、アンジェリークも頷いた。
「やっぱり、守護聖が何たるかを知っている人だけに、重く感じるのかと思うの…」
「そうだな。だが、レイチェルと時空を越えて一緒にいられる…」
「そうよね。最後は愛の力かもしれないわ」
 アリオスも頷いてくれる。昔の彼だったら、きっと鼻で笑っていたかもしれない。今は愛の力を信じてくれるのを感じ、アンジェリークは嬉しかった。
「俺が信じることが出来るのは、それだけだ」
 抱きしめてくれるアリオスの腕が力強くなり、アンジェリークは本当に幸せを感じた。
 まだ躰は本調子ではないが、アリオスがいるだけで気分は素晴らしく思える。
「私も、あなたがいるから頑張れるの。あなたが支えてくれているのを知っているから、苦しくても頑張れるんだ…」
「俺もな…、おまえという帰る場所を得たからか、どんなに遠くに使命に行っても、心地良い…。今回さ、エンジュをナビゲーションするデートをしたのも、おまえという帰る場所がちゃんとあったからかもしれねえな…」
「アリオス…」
 帰る場所と言ってくれるのが、心から嬉しい。アリオスの帰る場所であり、常に安らげる場所であり、愛のある情熱のある場所でありたい。
 そんな想いを込めて、アンジェリークはアリオスの手を握った。
「アンジェ、元気になったら、今度はふたりでセレスティアにデートに行こうな」
「うん!」
 守護聖が揃えばきっと元気になれる。アンジェリークはその日を楽しみにしながら頷く。
 アリオスとどこに行って、何を食べようか。そんなことを考えるだけで、楽しかった。
「楽しみにしているね」
「ああ」
 腕の中でしっかりとお互いの存在を感じる。
 決して遠くない幸せなデートに想いを馳せながらキスをし、互いの存在感を確認しあった。
コメント

「エトワール」なふたりです。
甘い嫉妬の顛末話です。





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