幸せのカクテル


 セレスティア路地裏のムーディーな雰囲気のバーに、エンジュはふらふらと誘われるように入った。
ここならひとりで落ち着ける。
 疲れやら何やら癒すことが出来るはずだ。別段ストレスなど溜めていないつもりだし、使命だってやり甲斐がある。
 だが、時折、フッと力を抜いてしまいたいときがあるのだ。
 特に、光の守護聖と絡んだ時には。
 他の守護聖と関わるときよりも、より強い意識をしてしまう。
 逢えばからかわれるので、つい喧嘩を吹っかけてしまうといった日々が、常に続いている。
「ホントっ、お前ってからかうと飽きねぇよな。こうやってファイティングスピリットを俺にかましてくれるのも、好みだぜぇ」
 ウィンクをしながら小憎らしい笑みを浮かべられると、エンジュは逆らいたくなる。
 その笑顔が魅力的過ぎるから、ついつい、抵抗してしまいたくなるのだ。
 ホントは素直になりたいのに。
 可愛い女の子だと思われたいのに。
 いつもガッツィなエンジュなので、そんなことはダメだということは似合わないのは解ってはいるのだが。
 だけど、大好きなひとに、女の子らしく扱って貰いたいこともまた事実なのだが。
 そんなこんなで、ついつい別の意味でストレスが溜まってしまうエンジュである。
 おさげの見るからに「女の子」な自分を見る、奇妙な眼差しを感じながら、エンジュはスツールに腰掛けた。
 ほの暗いバーの雰囲気は、レオナードとの出会いを思い出させる。
 だからなのか、不思議と落ち着くのを感じた。スッキリとした雰囲気だ。
 レオナードと出会った頃、こんなに心を動かされる相手になるとは、思いもよらなかった。
 折り折りに、レオナードの人柄に触れる機会があり、そこでぶっきらぼうな優しさを知った。そして、大胆に見える心の奥に、 繊細な子供が眠っていることも…。
 だから目が放せなくなってしまった。
 エンジュにとって、レオナードは「やんちゃな不良大人」に見えると同時に、護ってやりたくなるような母性本能にも刺激された。
 レオナードのことを考えていると、自然と笑みが浮かぶのが不思議だ。これこそは恋なのだ。
「よ、イラッシャイ、お星様」
 よく響く低い声に、エンジュははっとして顔を上げる。
 カウンターごしで水を出してくれているのは、光の守護聖様だった。
 イキナリ現れた想いびとに、エンジュは焦ってしまう。
「あ、あの、主座の守護聖様がこんなところでバーテンしてるなんて…んぐっ!」
 つい興奮してしまったのか、声が大きくなったところで、レオナードに口を思いきり塞がれた。
「おいっ! 守護聖なのはナイショなんだよ」
「ご、ごめんなさい」
 不用意に言ってしまった一言に、エンジュはしゅんとしながらうなだれる。
「まぁ、いい。それよりお前こそこんなところで、何をしているんだ? ここは未成年のお星様がクルージング場所じゃないだろ?」
 少し怒ったように眉をひそめるレオナードに、エンジュは一体誰のせいなのか、と、心のなかでひとりごちる。
「…まぁ、詮索はしねぇさ。俺様も元気になるためにここに来ているんだからな。同じだ」
 レオナードはそこまで言うと、太い男らしい指をエンジュの頬に向けた。
「…疲れてんのか? 大丈夫かよ?」
 レオナードの指先から、元気の素が分泌されているような気がする。
 胸が満たされて、疲れがそれだけで消える。
 とてもドキドキしているけれども…。
「じゃあ、いつも頑張るお星様には、俺様特製のカクテルをプレゼントするか」
 カクテル。大人な液体のように思える素敵なプレゼントに、エンジュの瞳に喜びが広がった。
「ただし、ノンアルコールな?」
 ウィンクをされて、エンジュは頬を赤らめて頷いた。
「甘い秋にピッタリのものを作ろう。サツマイモの甘いジュースに、さっぱりしたサイダー、レモン果汁を搾って、シェイク」
 流石は元バーテンダーなだけあり、シェイカーの扱いも華麗だ。
 琥珀に照らされたレオナードは、惚れ直してしまうぐらいに素敵だ。
「シェイクが終わったら、甘いサツマイモも薄切りグラッセを添えて完成!」
 グラスな注がれる液体に、エンジュのときめきは最高になる。
「どうぞ! お星様!」
 差し出されたカクテルを、エンジュはそっと口づける。甘いテイストに魅了されずにはいられない。
「美味しい!」
「そりゃどうも!」
 当然だろうとばかりに、レオナードは笑う。エンジュもつられて笑ってしまった。
「それ飲み終わったら、アウローラ号まで送りに行く」
「ありがとう」
「どういたしまして」
 甘い、甘い液体。
 骨まで溶けてしまいそうだ。
 エンジュはこのままとろとろになればいいのにと思うぐらいに、幸せな気分を味わえた。
 他愛がないおしゃべりをレオナードと交わすのが、こんなに幸せだなんて。再発見だった。
 ストレスもネガティブな感情も、全部とろとろに溶け出していく。
 スッキリしたところで、カクテルを飲み終えた。
「じゃあ送っていくか」
「お願いします!」
 笑顔で応えると、レオナードの大きく厚い手が包み込んでくれる。
 頬にほんのりと紅色の明かりを燈して、エンジュはレオナードの横を歩いた。
「明日からの使命も頑張れそうです」
「それは良かったなァ」
 ふたりの影が、暗い夜道に伸びてロマンティックだ。ほのぼのと幸せな気分になる。
 楽しい道程は直ぐに過ぎてしまい、アウローラ号に到着してしまった。
「またな?」
「はいっ!」
 近づいて来たおやすみのキスを受けながら、エンジュは力が沸いてくるような気がする。
 甘い味のキスに、明日からも頑張れると思った。
コメント

レオエンです。
アラモード話です〜





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