プロローグ
ショウウィンドウから覗くそれは、清冽で美しい煌めきがあった。 それは、多くの女性を惹きつけて止まない、銀色のたまごを象ったアクセサリーシリーズ”恋のたまご”。 卵のサイドには愛らしい羽根がありとてもかわいいデザイン。たまごは中央で開けられるようになっていて、開けるとそこにメッセージが刻まれ、小さな誕生石を入れられる。このアクセサリーシリーズはオーダーメイドで、たまごには持ち主の名前が付けられる。 デザインもしかけもロマンティックで女心をくすぐるが、こんなに惹きつけてやまないのには、もう一つ大きな理由があった。 ”恋のたまご”を恋人から送られれば、一生その相手と幸せになれる 何処にでもある信憑性のあるのかどうか判らない、陳腐なチープなうわさ話。だが、それが”恋のたまご”の価値を高めているのは確かだ。 価格設定も少し高価なせいか、噂好きで流行に敏感な女子高生の間では、憧れの的だった。 小さな宝石店のショーウィンドウには、決まって同じ時間に、ふたりの女子高生が覗きに来る。必ず窓にぴったりと張り付いて、いつも”恋のたまご”を見つめるのだ。 凡庸な通学路の唯一の楽しみ。今日は、金髪おさげの少女の兄に書類を届け無ければ行けないが、ついつい寄り道をする。 憧れだけが先行して、まだふたりには”たまご”を贈って貰えるような関係の恋人はいない。 「素敵よね〜、私はあのペンダント形のやつがいいな〜。可愛い♪」 金髪のおさげを揺らして、からっと晴れた秋の空のように、屈託無く笑う。その瞳には、まだ知らない本当の恋への憧れが滲んでいる。 「私はね、あのピアスがいいなあ。耳元で綺麗な音が鳴るんだって!!」 「ロマンティストなアンジェにはぴったりかもねえ」 アンジェと呼ばれた栗色の髪が印象的な愛らしい少女は、くるくると表情を変える大きな瞳に、幾分かのはにかみを浮かべている。 「いいなあ、ああいうの…」 金髪おさげの少女がうっとりと呟くと、栗毛の少女もうっとりと頷く。 「憧れなの…」 栗色の少女が情緒豊かに言った時だった。不意に、恋のたまごがふたりに向かって不思議な光を投げかける。 「あ! あれ、見たよね、アンジェ!」 「うん! エンジュ!」 今まで見たことのないような虹色の光にふたりは度肝を抜かれ、暫く、銀色のたまごから目を離せない。 ふたりを現実に戻すかのように、おさげの少女が所有する携帯がメロディーを奏でる。着メロは”夏の嵐”。兄からのメールだ。 少女は慌てて携帯でメールをチェックし、舌打ちをする。 「いけない! アリオスお兄ちゃんが早く来いって!お兄ちゃんはあれでかなり気むずかしいからなあ」 「じゃあ行こう!」 「うん」 ふたりは制服のスカートを揺らめかせながら走っていく。 運命の恋のたまごが目の前に落ちていることを知らずに---- |
| コメント 仮復帰ということで。 2004年9月に出した同人の再録です。 |