アリオスとコレットの場合
1 耳朶にピアス用の穴を開けると、運命が変わると聞いたことがある。ピアス穴を開けると大人になれるような気もするのに、未だ開けられない。 ピアス穴を開けたら最初にするピアスは決めている。”恋のたまご”のピアス。恋人からのプレゼントに、きっと身も心もとろとろに幸せ色で溶け出してしまうだろう。そしてお祝いに大好きなカレーを恋人に作ってもらうのだ。どうしてカレーかと言えば、カレーは皇子様のモノだと、アンジェリークの中には妙な定番が出来上がっていたから。 あくまで希望。でもリアルとはほど遠い。 今日も友人と一緒に、いつものように”恋のたまご”を鑑賞してから帰る。今日は凡庸ないつもの帰り道とは違い、友人の兄に重要書類を届けるのだ。 友人の兄は、所謂”芸能人”。有名なアクションスターであり、アクション監督や脚本までこなすマルチなひと。 プロフィールを聴いて、美味しいカレーのCMに出てきそうだと思ったことは、アンジェリークは決して友人であるエンジュには言えなかった。カレーのCMに出るんだったら、そのカレーを食べさせて貰いたいと思っていたことも。 「あ、いた! お兄ちゃん!」 エンジュの兄はディレクターチェアに腰を掛け、だらりと脚を出していた。それを見るだけでも、スタイルがよいことは明白だった。 「お兄ちゃん! ごめん!」 エンジュが書類を兄に直接渡すのを、アンジェリークは少し離れたところから眺める。 整った綺麗な男性だと思った。だが、美しいだけではなく精悍そうな顎のラインや不思議な異色の眼差しも魅力的だった。精悍さと精微さが混ざり合った、完成された佇まいを持っている。 雰囲気は冷たく、表情はどこか厳しく不機嫌にも見える。整った顔が冷たさを助長していた。怒られそうなので近付かないでおこうと、アンジェリークは心の中で想い、遠巻きにいた。 アンジェリークは更にエンジュ兄の観察を続けていると、逆に訝った視線を向けられた。 「誰だ、あれ?」 声は、躰の奥から出てくる心地の良いテノール。美声と言ってもいい。 「アンジェ、アンジェリーク・コレット。私の友達で、いつも一緒に帰っているの」 「ふうん」 異色の瞳でじっと見つめられると、アンジェリークはびくりとした。今まで、こんなに整った男性にじっと見つめられたことがなかったから。妙に緊張してしまい、アンジェリークは少しばかり身構えた。 「…アンジェリーク、天使か」 独り言のように言うと、豁然とした眼差しをアンジェリークに向けたまま、彼は立ち上がった。そのままアンジェリークの前まで歩き、意地の悪い笑みを浮かべてくる。 「アリオスだ。エンジュの兄の」 握手のために差し伸べられた手は、大きいがとても綺麗だった。指先まですっと長くて、まるで彫刻で出来た指先のように思える。 「こ、こんにちは…」 緊張して少しつっかえながら、何とかアンジェリークは挨拶をした。心臓が喉までせり上がるぐらいに緊張してしまう。こんなに男性が近くまで来たのは、アンジェリークにとっては全く初めての経験だった。小学校からずっと女子校育ちで、共学の経験のないアンジェリークは真っ白と言っても良かった。 エンジュは高校からスモルニィに入ってきたので、アンジェリークのように反応することもないし、ましてやこの兄を見て育っている以上、男性への抵抗は少ない。だが、アンジェリークは違う。 ぎこちないアンジェリークの挨拶に、アリオスは喉を鳴らして笑った。 「天使と言うより、栗饅頭だな、おまえは」 「く、栗饅頭!」 いきなり失礼なことを言われて、アンジェリークは唇を尖らせる。こんなに失礼な男は初めてだ。緊張がどこかに行ってしまう。 「そんな顔をするなよ、栗饅頭ぐれえに美味そうだってことだろう?」 アリオスはあくまでも楽しそうに笑っている。先ほどあんなに綺麗で冷たい顔をしていたのに、笑うと少年のようだ。アリオスに纏わっていた冷たい雰囲気が一気に霧散した。 普段の不機嫌そうな冷たさと、少年のような笑顔との落差が、アンジェリークの心を捕らえていく。 「俺は栗饅頭が大好物なんだぜ」 「わ、私はカレーが好きです!」 アリオスが深い意味を込めて言ったにも関わらず、アンジェリークは額面通りに取り、自分の好物を言う。 「はぁ? まあ、俺もカレーやシチューのたぐいは好きだが…ほんと、おまえはおもしれえヤツだよ」 喉を鳴らしてくつくつと太く笑うアリオスを、アンジェリークは失礼だと思いながら、真っ赤になる。 「だってカレーは美味しいじゃないですか!」 「確かにカレーは美味いぜ」 アリオスの笑い声は治まることはなく、おかしすぎてなのか瞳にうっすらと涙を滲ませている。 「そんなに好きなら、アリオスさんはカレーのCMに出ると良いんです!」 「はあ?」 またアリオスの表情に?マークが浮かび上がる。次の瞬間、アリオスはまた首を仰け反らせて笑った。 「おまえホントに最高だぜ? こんなに俺を笑わせる女は初めてだ!」 アリオスは銀色の美しい髪をかき上げながら、魅惑的な笑みを滲ませた眼差しを向けてくる。女殺しの眼差しと、アンジェリークは想ったが、もちろんそれに逆らうことは出来なかった。 「なあ、俺の女にならねえか?」 いきなりのストレートな告白に、今度はアンジェリークが目を剥いて仰け反る。まったく、意味不明で唐突だ。 「…アリオスさんを笑わせたから?」 「ああ。まあ、そういうこともあるかな」 「金のガチョウみたい」 「じゃあ、俺がお姫様で、おまえがハンスだな」 アリオスは二ヤリと意地の悪さと甘さをミキサーでまぜこぜにしたような笑みを浮かべると、いきなり唇を奪ってきた。 「…んっ!」 アリオスの唇は少し硬かった。緩やかに唇を吸い上げ、舌を口腔内に捩るように入れてくる。舌! キスが舌を絡ませるような生々しいモノだと、アンジェリークは知らなかった。唇と唇を触れるだけのものが、キスだと信じて、今まで疑わなかったのだから。 ファーストキスとしては、少々生々しすぎた。 アリオスのキスが深くなるにつれて、恥ずかしくも唾液が流れる。それを何の抵抗もなくアリオスが舐めたモノだから、アンジェリークは腰砕け状態になってしまった。 「ふう…」 アリオスのキスが終わった時には、腰から支えて貰わないと、立っていることすら困難な状態。 「…バカ! 私のファーストキスのロマンをぐちゃぐちゃにして…。私はまだ付き合うって言ってないし…」 奪われた酸素を取り戻すかのように、アンジェリークは何度も浅い深呼吸をしながら、涙目でアリオスを恨めしそうに見つめる。アリオスはしっかりと腕でアンジェリークを支えながら、その瞳を覗き込んできた。 「だったら、どうすれば俺とつきあえる?」 「カレーを…」 「え?」 アリオスは一瞬からかわれたと想ったのか、不機嫌そうに眉根を寄せる。 「美味しいカレーを作って食べさせてくれたらつきあって上げる! 私の王様はカレーが美味いって決まっているの!」 アンジェリークは一気に捲し立てるように言い、アリオスを真剣に見る。これが第一の条件だ。昔からそう思っていたのだ。姿形や性格もさることながら、カレー作りの上手いひとが皇子様の第一条件。 途端にアリオスの眉間から皺が消え、またおかしそうに笑ってくれる。 「判った。その願い、叶えてやるよ、お姫様」 2 結局、アリオスが寸胴鍋一杯に美味しいカレーを作ってくれ、アンジェリークはそのご相伴にあずかった。市販ルーなどを使わず、ガラムマサラや沢山のスパイスを使った上、辛さを引き立てる為に缶詰の桃を磨り潰してシロップごと入れたり、ニンニクや蜂蜜、リンゴやなど、たっぷりの食材を使って煮込んだカレーは、何処にも負けないぐらいに美味しかった。 これが最終的には決め手となって、つきあい始めたのだ。 その日は、とても劇的な日で、気を使っていつの間にかスタジオ探検に出たエンジュも、恋人と出会ってしまった。 あの”恋のたまご”が不思議な光を放ったからに違いないと、アンジェリークは想っている。 今日も、アリオスとデートだ。人気アクション俳優ということもあり、なかなか会えない日も多い。逢えるだけでも今や飛び上がってしまうぐらい嬉しいアンジェリークである。 アリオスとのデートは主に食べ歩きが多く、美味しいものを沢山食べに連れて行って貰っている。当然カレーのお店にも行くのだが、アンジェリークにはお店のカレーよりも、アリオスが作ったカレーのほうが魅力的だった。 一度、アリオスのマンションにカレーを食べに行って、新幹線並の速さで手を出されそうになってしまったことがある。しかし、その時はアンジェリークの心の準備が出来ておらず、泣いてしまって未遂に終わってしまった。 それ以来、アリオスは「カレーを食べに来い」と誘ってはくれなくなった。 またカレーが食べたい。アリオスの作ったカレーが食べたい。デート中、アリオスに腕を絡ませながら、アンジェリークは想いきって言ってみた。 「アリオス、またアリオスのカレーが食べたい」 「忙しいからな、また今度だ」 アリオスはあっさりと否定すると、話題を変えようとする。だが、アンジェリークはまだ食い下がった。 「カレーが食べたいの」 「じゃあ、外で食えばいいだろう」 「アリオスの作ったカレーが食べたいの!」 力説するものの、アリオスはクールにあしらうだけ。 どうしてカレーを食べさせてくれないかが判らない。アンジェリークはしゅんとなると、アリオスの腕から手を離す。 ふとどこからか、ひそひそと話す声が聞こえた。人気スターであるアリオスだ。当然のことだ。 「アリオスの恋人かな、あのこ」 「そうじゃないんじゃない。今までアリオスが付き合っていた女の人は、全員大人の女性だったじゃない? あんな子供、相手にしないでしょう?」 こども、子供、コドモ。確かに堂々としていないし、子供っぽい。肝心なところでアリオスを困らせて泣いてしまうし。 アンジェリークはふと立ち止まると、これ以上進めないような気がした。 「アンジェ?」 「…アリオス…。今日、帰る、やっぱり」 我が儘なのは判っている。だが、切なくて胸の奥がきゅっと締め付けられるような気分に、アンジェリークは泣きそうになって、これ以上アリオスの傍にいられないような気がした。 「…カレー食べられないし。子供っぽいし…」 「怒るぞ、おまえ」 アリオスの声がいつもに比べて、硬さを増して低くなる。怖じ気づいてしまいそうな声だったが、アンジェリークはそれをふりほどく。 「カレーを食べさせて貰わなくちゃ、嫌だ!」 どうしてそんな食い意地のはった捨て台詞しか言えないのか。自分で自分が嫌になる。 アリオスが作ったカレーは美味しかったが、それ以上にふたりの絆を確かめるためのツールのようにも思えていた。それを否定されて、なんだか哀しくなる。 アリオスの腕をふりほどくと、そのまま家路に急ぐ。走って帰りたかった。走って帰って、早くベッドの中で突っ伏して泣きたかった。 恋とはなんて不思議なものなのだろう。こんなにひとを切なくも狂わせて、とっぴのない行動に出させてしまう。 家に帰り部屋のTVをつけると、丁度、アリオスが主演した映画が放送されていた。アリオスを一握スターダムに押し上げた作品で、アリオスの役は、マフィアに潜入した捜査官の役だった。 悪が勝ち善が滅びるラストに、アンジェリークも涙したのを覚えている。数年前の映画だというのに神聖で、そして何よりもアリオスが素敵だ。精神科医に膝枕をして貰い眠る姿も、とても似合っている。大人の女性が隣にいると、しっくり来るのだ。 アリオスはアンジェリークよりも11も上だし、ずっと大人だからアンバランスは仕方がない。 だが、話している時に、ドラマやアニメ、はたまた俳優の話でかなりのギャップがあることも事実だ。アリオスがアイドルだと言っていた歌手も、アンジェリークにとっては落ちぶれた二流俳優にしか見えなかったり…。 ギャップを埋める作業も楽しいことには違いがないのだが、どこか膝を抱えるような切なさも同居していた。 ぼんやりとTVを見つめていると、部屋の窓ガラスに、こつん、こつんと何かが当たるのが聞こえる。 アンジェリークは窓を開けて、外を見てみた。 「よぉ、アンジェ」 アリオスだ。アンジェリークの部屋がよく見える位置にある、塀に寄りかかってこちらを見ている。 「カレー作ってやるよ。材料も買ってきている。ただしおまえに、それなりの勇気と覚悟が必要だけれどな」 勇気と覚悟。その意味は充分に判っているつもりだ。つまり、アリオスのものになる覚悟が必要だと言うことだ。 アリオスとの新たな契りによって、ふたりの関係は更なる進展を生むかもしれない。 アンジェリークはそろそろ自分が一歩を踏み出していかなければならないと想った。そうしなければ、ふたりの関係は壊れてしまうかもしれない。 今まではどこかアンジェリークが依存的で、アリオスに寄りかかっているところもあった。 本来、恋人同士というのは、そのようなものではいけない。お互いに与え与えられることによって、長く続く。 アンジェリークは深呼吸をすると、真っ直ぐアリオスを見つめた。 「行くわ!」 「じゃあ、このまま飛び降りて来い!」 アリオスは無茶なことを言う。アンジェリークの部屋は2階で、かなりの高さがある。 「私はスタントウーマンじゃないわよ」 「俺が補助してやるから、下りてこい!」 アリオスは逞しい腕を広げてくれる。そこに、アンジェリークも飛び込みたくなった、アリオスが支えてくれると想うだけで、安心して飛び降りることが出来る。 目を瞑って、アリオスに向かって思い切りジャンプをした。 ふわりと宙に舞い、降り立った時には、既にアリオスの腕の中だった。 「ナイスキャッチだろ?」 アリオスの香りが間近に迫って、胸がドキドキする。熱くなっておかしくなるぐらいにくらくらしてしまう。 「アリオスはアクションスターなんだから、当然よ」 「…腕痺れた、おまえちったあ、ダイエットしやがれ」 アリオスが意地悪で余裕たっぷりに言うものだから、アンジェリークは得意のふくれっ面で応戦する。 「だったら下ろしてよ」 「俺が下ろしたら、お姫様は皇子様のカレーにありつけられねえぜ?」 「び〜!」 全く意地悪だ。アリオスはそのまま車を乱暴に片手で開けると、アンジェリークを助手席に乗せる。裸足のままで飛び込んできたお姫様だから、これぐらいの礼儀は必要だと、想ってくれたのだろう。 車でアリオスのマンションに向かう間、何度かアンジェリークのお腹が鳴った。その度に、アリオスは煙草を吸いながら、くつくつと笑う。 「後でたっぷりカレーを食わせてやるからな」 「うん」 カレーは楽しみ。だけどアリオスにドキドキする。アリオスをじっと見つめるだけで、本当にときめいてしまう。 アリオスの車を駐車場に置いて、ふたりで仲良く部屋に入る。アリオスの部屋に入る鳴り、とっても美味しそうなカレーの香りがした。 「作っていてくれたんだ」 「おまえとのデートの度に、連れ込む口実に作ってた」 「え?」 アンジェリークは驚いてアリオスを見たが、彼の目の周りがうっすらと赤くなっているので、照れているのが判る。 「…有り難う」 アンジェリークはアリオをの背中ごと抱きしめると、感謝の思いを抱擁に込める。本当に嬉しかった。アリオスがこうして、大好きなカレーを作っていてくれたことが。 「カレー、食おうぜ」 「うん!」 ふたりで協力してセッティングをする。美味しい美味しいカレーはもうすぐ。 今日のデートではレストランなどでご飯は食べられなかったが、そんなものよりもアリオスの手作りカレーのほうが、アンジェリークにとっては良かった。 「いただきま〜す」 ふたりで手を合わせながら、向かい合わせでご飯を食べる。こうやって顔をつきあわせて食べるご飯は、なんて美味しくて、親密なんだろう。 美味しくカレーを食べた後、アリオスに待ってましたとばかりに強く抱きしめられた。 最初にくれたキスは触れるだけのキス。カレーの味がする美味しいキスだ。 「同じものを食べた後のキスって、親密な気がするね」 「そうだな…」 アリオスはTVや映画では決して見せないとろけるような微笑みをくれた後、今度は噛みつくようなキスをしてきた。 深い、深い、お互いを知るためのキス。もうカレーの味なんて感じなくて、感じるのは淫猥なアリオスの舌の動きだけ。 唇が火傷するぐらいに熱くなっていく。お互いの舌を絡ませる行為というのは、なんて親密で熱いものなんだろうか。 意識が融けるほどのキスを受けた後、アリオスは骨が軋むぐらいに抱きしめてきた。こんなにきつく抱きしめられたのは初めてで、アンジェリークは胸の奥が甘い切なさで息が出来なくなっているのを感じた。 「…好き…、アリオスが好きよ」 アリオスは頷いてくれると、耳朶を舌で舐めた。愛しいもののように丁寧にアリオスは舌を這わせてくる。ぞくぞくとしたものが背中に走るのを漢字ながら、アンジェリークはアリオスの愛撫に身を任せた。 少し遠回りだったかも知れないが、これが自分たちの恋の正しい道順。 手の早さは相変わらず新幹線級だけれども、のぞみが停車駅の多いこだまに変わっただけの話なのだ。 そのままフローリングの上に倒れ込み、アリオスの指先が服にかかる。アンジェリークは緊張して舌が上顎に貼り付きそうなほどからからに喉が渇いたような気がした。 こんなことをするのは文字通り初めてで、アンジェリークはがたがたと震えながらアリオスにしがみつく。その度に、アリオスは優しく躰のラインを労るように撫でてくれて、不安を解消してくれた。 「…好き、好きなの…」 何度も譫言のようにアンジェリークは繰り返す。その間にも、アリオスの指は忙しなく動き、服を取り去り、アンジェリークの膚を晒した。 「…綺麗だな、やっぱりお前の裸は」 じっと見つめられ、感嘆するように言われて、アンジェリークは照れくさくてしょうがない。隠そうにも、アリオスの眼差しに魅入られてしまい、隠すことが出来なかった。 「…アリオス脱いでよ…」 無意識に言った。するとアリオスは手早く衣服を脱ぎ捨て、手慣れた状態で裸になった。 露わになったアリオスの肉体は美しいと思った。ミケランジェロの像なんてただの石膏の塊にしか見えないほどの。 女の躰というものは曲線で出来ているのに対し、男の躰は直線で出来ている。 アリオスはアンジェリークの丸みを帯びたラインを、まるでデッサンでもするかのように何度も愛撫し、その度にアンジェリークの唇から甘い吐息が漏れた。 柔らかな肉体の最も柔らかな部分 乳房を、アリオスの手がしっかりと捕らえた。大きさと柔らかさを確認するかのように、綺麗な手で何度も揉み込んでいく。 「…ああ…!」 アンジェリークの奥深い場所が秘めやかな熱で支配され始める。狂おしい熱は、やがて痺れに変わっていった。 「…お前が欲しくて、俺は限界だったんだぜ」 「…うん…!」 アリオスが胸を揉み込むたびに、やるせない熱が支配する。さっきよりももっともっとアリオスが好き。アリオスを愛している。だがもう、「愛してる」「好き」といった言葉が何の意味を持たない陳腐な言葉のようにも思える。こんなんじゃ、全然足りない。それぐらい、アンジェリークはアリオスのことを思っていた。 綺麗な指が尖った乳首を挟み込んで擦り上げる。今までなら桜色の乳首が自慢だったのに、アリオスの前では色素が幾分か沈み込んで濃くなっている。アリオスが触れて感じる度に、その色は深くなってきているような気がした。 もっと直接的な愛撫が欲しい。無意識に思った時に、アリオスの唇が触れていた。 「あ、ああっ!」 膚が一瞬で化学変化を起こし、爆発するように熱くなる。血液の流れが速くあり、もっと酸素が欲しいと思った。 酸素が欲しくて、アンジェリークは何度も浅い呼吸をするが足りない。でもこれ以上はどうしようもすることが出来ない。アンジェリークは、爆発するような情熱に、躰が付いていかないような気になる。 「ああ、あああっ!」 最初は唇に含むだけだったのに、アリオスの舌はアンジェリークの硬く尖った乳首を舌先で転がしてくる。 びくびくと肌が震えて、脚すらも突っ張ってしまう。 丁寧に胸を愛撫し、アリオスは舌と大きな手でしっかりと愛してくれる。張り詰めた胸は、アリオスを求めてもっともっと敏感になっていく。 「あ、あ、アリオス…っ!」 軽く歯を当てられただけなのに、涙が流れるほど感じてしまっていた。 「もっと、もっと、俺を求めてくれ」 「あ、あああっ!」 太股を撫でられたかと思うと、アリオスが熱く濡れた秘華に触れてきた。湿っている、濡れてどうしようもないのが恥ずかしい。 「…触らないで…。アリオス…、そんなところ、変なのがいっぱい出てるから…っ!」 この年でお漏らしはないと思ったものの、未知の液体でぐちょぐちょになっているのが恥ずかしかった。今までも、アリオスとキスをしたり彼を想うだけで、同じような感触は幾度か経験をしたが、こんなことは初めてで、アンジェリークは泣きそうになっていた。 「恥ずかしくねえよ、アンジェ。おまえの躰が俺のことが欲しいって、唸っているだけだから心配するな」 「あああっ!」 アリオスの指が、敏感になっている肉芽を弄ってくる。優しく触れられるだけで、びくびくしてしまった。 「アリオス…っ!」 「アンジェ…」 アリオスの指が、深い欲望滾る場所に挿ってきた。ぴりっとした痛みが突き抜け、アンジェリークは顔を顰める。 「…痛い…」 「直ぐになれるから、心配するな」 アリオスの指は用心深く胎内を潜ってくる。何度も摩擦をされて、アンジェリークは痛みと快感に息を乱す。 アリオスの指が奥を付いたのが判った。そのふっくらとした場所を撫でられると、痛みを超える何かが溢れてくる。 「ああっ!」 アンジェリークが躰を震わせると、アリオスはそこを重点的に愛撫してくる。ぞくりとするほどの気持ちよさに酔いしれながら、アンジェリークは脚を跳ね上げさせた。 こんなに恥ずかしいことはない。脚も淫らに大きく開くのが嫌で、閉じようとすると、アリオスの指が許してはくれない。 「ああ、アリオスっ!」 アンジェリークが頂点を迎える直前で、アリオスは指を抜き取った。 「いや…」 無意識にアンジェリークは指が離れるのを嫌がった。アリオスの指を無意識に締め付けて絡めたが、無情にも出てしまった。 太股を意味ありげに撫でられた後、アリオスは更に脚を大きく開けてくる。限界ぐらいに開けられると、秘華と太股の境界を、思い切り吸い上げられた。 「ああっ!」 肌が震える。きっと頭の天辺までびくびくと震えていることだろう。 「…綺麗なお前が見たい…」 「あ、あああっ!」 指で花弁を押しのけて、アリオスは秘華の総てを晒して、じっと見つめている。眼差しだけで、羞恥の余りに感じてしまう。 「…あんまり見ないで…」 「あんまりってことは、もっと見て欲しいんじゃねえの?」 「もう! 意地悪!」 アリオスはフット笑うと、アンジェリークの秘華にディープキスをしてきた。舌で肉芽を転がしたり、胎内に舌を入れてきたりする。 「やだぁ…もうっ!」 びくびくと躰が何度も震えてしまう。蜜で華がぐちょぐちょになったところを、アリオスは丁寧に舐めている。 「赤くてヒクついてて、おまえのここは最高だぜ」 「あ、見ちゃ…だめっっ! ああああんっ…!!」 胎内を舌でかき混ぜられて、気持ちよさが頭の芯を突き抜け、全身に潤ってくる。堪らないほど気持ちが良くて、アンジェリークは汗まみれになりながらぐったりと崩れた。 意識が戻ってくると、ひんやりとしたベッドに寝かされていた。 熱いアリオスの剣が入り口を撫でているのが判る。怖いような、その先を進めて欲しいような、アンジェリークは複雑な気分だった。 アリオスの欲望の塊が自らの欲望の泥濘に入っていく。剣がしっくりとくる鞘を求めるように、緩やかに胎内へと入ろうとしている。 アリオスを治めたくて、アンジェリークの細い腰が揺れた。 「俺にしっかりつかまっておけ」 「うん…」 言われるままにアリオスに捕まると、雄剣の先端がアンジェリークに突き刺さってきた。 「あっ! いやあっ!」 張り裂ける様な痛みが全身を襲い、我慢が出来ないぐらい辛い。胎内の蠢くところが、アリオスが先に進むたびに裂けていくような気がした。 「痛い…っ!」 「大丈夫だ…、少し我慢しろっ…」 アリオスの息も乱れている。アリオスは少し止まった後、また奥に向かって進んでいく。 「痛いっ!」 痛みの余りにアンジェリークはベッドの縁の部分までせり上がり、頭がぶつかりそうになる。その度にアリオスが下に戻してくれ、更に腰を進めてくる。 「あああっ!」 痛みの余りアリオスの逞しい背中に爪を埋める。それでもアリオスは先に進んできた。 「ああっ!」 突破の時が一番の痛みだった。だがアリオスが完全に入りきると、痛みが幾分か和らいできた。 最奥に突き当たると、アリオスは一旦動くのを止めた。 「おまえ…すげえいいぜ…」 「あ、ああ…」 アリオスの声が艶めいていて素敵に聞こえる。 内側からの熱が更に高まったところで、アリオスが動き始めた。最奥に当たった雄剣がふっくらとしたところを撫でて、たっぷりと刺激をしてくる。 「ああ、ああ、ああっ!」 指で撫でられたところを、欲望漲った熱いものが撫でてくる。その度に腰が痺れて、爆発寸前まで熱が高まってくる。 「あ、ああ、ああんっ!」 アリオスは何度もそこを突き上げる間も容赦が無く、指で肉芽を弄ったり、唇で首を吸い上げたりしてくる。まさに快楽の複合したものが、腰に集中してくる。 「ああ、あああん!」 そのお陰が痛みを随分と感じなくなってしまった。気持ちよくて、膚が小刻みにざわめき、躰が揺れる。 「アンジェ…、締めすぎだぜ…っ!」 「…だって判らない…!」 アンジェリークは感じるままにアリオスを締め付け、腰を揺らしていく。 もう止まらない。強い痙攣が起こり、アンジェリークは躰を大きく撓らせる。 「あああぁっ! もう…!」 「アンジェ…!」 奥歯を噛みしめて、ふたりでしっかりと抱き合う。後は、快楽にこの身を預けてしまえばいい 3 緩やかに裸のままでふたり一緒に漂っているのも良い。アリオスはデザートだと言って、カレー作りで残ったもも缶を皿に入れて、食べさせてくれた。セックスの後のもも缶というのは、胃に染みこんで美味しいものだと、アンジェリークは想う。 「お前がここに来たらさ、プレゼントしてやろうって想ってた」 「何を? もも缶?」 「バカ、違うぜ」 アリオスは呆れるように言うと、サイドテーブルの引き出しから白いジュエリーケースを取り出してきた。 「ほら」 「あ、有り難う」 受け取った瞬間、アンジェリークは驚いた。白いケースには”恋のたまご”と金色の文字で書かれている。 「…アリオス、これ…」 胸を高まらせながら、ゆっくりと蓋を開けると、そこには”恋のたまご”のピアスが入っていた。 「…どうして…」 欲しいものをプレゼントしてくれたアリオスの気持ちが嬉しくて、アンジェリークは涙ぐむ。それを見て、アリオスは少し照れくさそうだった。 「おまえが欲しがっていると、エンジュから訊いてな。おまえと初めてセックスをした日に贈ろうと決めてた。お前の耳にはピアス穴が開いてねえから、その時は俺が開けてやろうって思ってた」 「アリオス…」 アリオスは、「少し待っていろ:と言って、ベッドを出、暫くしてピアス穴を安全に開ける機械と、消毒液を持ってきてくれた。当然、アリオスは自分の指も綺麗に消毒して、アンジェリークの耳朶に触れた。 「痛いが我慢しろよ?」 「…うん」 アンジェリークは、ヴァージンを失うのと耳朶に穴を開けるのでは、どちらが痛いのだろうかと、ぼんやりと考えてみたりもした。 アリオスは耳朶を綺麗に消毒した後、ピアス穴を開けてくれる。チクリとしたがそれは一瞬で、やはりヴァージンを失った時のほうが痛いと思った。 右と左、それぞれアリオスは丁寧に穴を開けてくれた後、アンジェリークの耳に可愛らしい恋のたまごを付けてくれる。 耳元には、予想通りに、涼やかな音が何度も鳴った。 「可愛い、有り難うアリオス」 「似合ってるぜ」 「うん!」 アリオスにアンジェリークは抱き付くととびきりの笑顔を向ける。 少し成長して、大人になったような気がする。 まだまだアリオスとは釣り合いが取れないかも知れないが、これから頑張って、アリオスに似合う女と呼ばれるようになりたい。 「…アリオス、大好き…。今日は、記念になったよ…」 「俺も愛してるぜ」 アリオスは甘い言葉を囁くと、またアンジェリークをベッドに押し倒して、のし掛かってくる。 「アリオス!?」 「悪ィがずっと我慢をしてたからな。たっぷりと頂かせて貰うぜ!」 「あ、あああっ!」 アリオスに意味深にボディラインを撫でられるだけで、アンジェリークの息が上がっていく。 もっと、もっと、アリオスが欲しい。 同意の印の代わりに、アンジェリークはアリオスをしっかりと抱きしめた。 ”恋のたまご”の伝説は、本当に叶うね THE END |
| コメント 仮復帰ということで。 2004年9月に出した同人の再録です。 |