62 優しい体温


 夏の独り寝はとても寂しい-----
 肌が温もりを知っていればなおのこと。
 アンジェリークはベッドで寝返りを打ちながら、隣りにいた彼の体温を思った。

 アリオスの温もりがあれば、私は眠れるのに…。

 今日は仕事で遅くなるから、必ず先に寝ておけと彼には言われた。
 躰に気を使ってくれてのことだろう。
 彼の言う通りにベッドに横になったものの、全く寝付かれなかった。
 寝苦しくて、広いベッドの上を往復する。
 アリオスの肌と重なり合った昨日の夜は、安心して眠ることが出来た。
 自分の肌に触れて、アンジェリークは大きく溜息を吐く。
 この温もりでは眠れない------
 苦しくて、切なすぎてアンジェリークは涙が流れるのを感じた。

 アリオス…。早く帰ってきてね?

 アンジェリークは時計と、アリオスのパジャマを見詰めながら、切なく呟いた。
 どうしても眠れなくて、心を落ち着かされためにキッチンに向かう。
 キッチンの明かりを付けて、ぬるめのミルクを作る。
 これなら少し落ち着いて眠ることが出来るかもしれない-----
 アンジェリークはお気に入りのマグカップにミルクを淹れ、椅子に座って一息ついた。
 時計は午前0時を少し回った頃だ。
 不意にガレージに車が止まる音がする。
「アリオス!」
 すぐに誰が帰って来たかが分かり、アンジェリークはときめかずにはいられない。
 期待を込めて彼女はずっとキッチンの扉を見詰めた。
 カギが開き、続いてドアが開く。
「アンジェ?」
 アリオスがそっとキッチンに入ってきた。
「アリオス!! おかえりなさい!」
 アンジェリークはその姿を見るなり嬉しくて、アリオスにしっかりと抱き付く。
「ただいま」
 いつものように抱き返してくれた後、甘い甘いKISSをくれた。
 待っていた唇の温もりに、アンジェリークは安らぎと甘い気分を味あう。
「-----アンジェ、今日は先に寝ていろって言っただろう? 大事な躰なんだから、あんまり無理すんな」
 アリオスはそう言って、まだ出ていないアンジェリークの腹部を優しく撫でた。
「-----うん。アリオスの言う通りにしようと思ったんだけれど、眠れなくって…。
 だって、アリオスが側にいないんだもん…」
「アンジェ…」
 アリオスはフッと甘く微笑むと、アンジェリークを抱き上げて寝室のベッドに運ぶ。
 そこに彼女を寝かせた後、アリオスは額にkissをした。
「待ってろ? シャワーを浴びたらすぐに戻ってくるから」
「うん…。抱きしめてね?」
「ああ」
 アリオスはすぐに浴室に向かっていく。
 その姿を見送りながら、アンジェリークは甘い期待に胸を焦がしていた。

 アリオスがシャワーを手早く浴びて部屋に戻ってきてくれた。
 彼がベッドに入るなり、アンジェリークは待ってましたとばかりに抱き付いてくる。
「…やっぱり、アリオスの温もりは最高…」
 うっとりと呟くアンジェリークに、アリオスはにやりと微笑む。
「おまえの温もりだって最高だぜ?」
「だって、アリオスの温もりが一番落ち着いて、一番安らぐんだもん…。ミルクよりも…」
 アンジェリークは、まるで幼子のようにアリオスの胸にしっかりと抱き付いてくる。
「おまえもな…。俺の一番の栄養源だ…」
「うん。アリオスの香りも大好き…」
 アンジェリークはうっとりとしながら目を閉じる。
 あの寝苦しかったのが嘘のように、アンジェリークは眠りに入っていく。
「アンジェ…」
 栗色の髪をアリオスは優しく撫でながら、疲れをいやすように瞳を閉じた-----

 お互いの温もりがあれば、これ以上の安らぎはない…。




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