Complaint


 アリオスが忙しくて、ずっと会えない…。

 アンジェリークは星空を見上げて、大きく深呼吸をした。
 世間は大型連休だというのに、アリオスからはちっとも連休のプランの話は聞こえて来ない。
「…旅行とまでは言わないけれど、せめてデートぐらいはしたいよね…」
 独り言を呟きながら、アンジェリークは切なさに膝を抱えた。
「…旅行なんて、贅沢は言わないから…」
 アンジェリークはいつしか泣いている。
 何が哀しいかと言えば、アリオスに会えないのが哀しい。抱きしめて貰えないのが哀し過ぎる。
 いつも待つのは自分ばかり…。アリオスの仕事が忙しいのは解っているし、社会人と高校生の隔たりがあるのも解っている。だけれども、大好きな男性(ひと)に逢いたいと言うのが、人情だというものだ。増して、アンジェリークはまだまだお年頃である。恋人にたっぷり甘えたい時期である。
 アンジェリークは段々腹が立って来た。他の恋人同士よりも会えないのが、辛い。ちゃんとアリオスが社会人として大目に見ても、待ちぼうけでは腹が立つ。
「アリオス…、私のことをほっておいて! ちょっと一言言ってやらないと!」
 アンジェリークは携帯電話を取り出すと、アリオスにメールを打ち始めた。
 ”今度逢った時には、一杯言いたいことがあるから。 覚悟して”
 それだけを打つと、胸のつかえが幾分かましになる。
「いっぱい愚痴を言うからね!」
 アンジェリークは携帯を指先で弾くと、拗ねたように眉をへの字に曲げた。
 するとそのタイミングで携帯が鳴る。メールではなく電話で、しかも相手はアリオスだ。
「はいっ!」
「言いたいこと聞いてやってもいいぜ?」
 電話の向こうのアリオスは、くつくつと喉を鳴らしながら、からかうように言ってくる。
「電話じゃいや! 話したくないもの。ちゃんと面と向かってじゃないと嫌だもの!」
「窓の外を見てみろよ?」
 アンジェリークが言われた通りに窓を開けて下を見ると、アリオスの車が停まっているのが見えた。
「下にいるの!?」
「ああ。下に来いよ。俺が受け止めてやる」
 アリオスはそう言うなり、車から降りて来た。手を広げているのが解る。
「来いよ」
 下を見ると一瞬恐怖を想う。やはり二階からの距離は、かなり恐かった。
「ほら、降りてこい!」
 アリオスがしっかりと腕を広げてくれる。アンジェリークはアリオスを見下げる。
「今から飛び下りるから受け止めて!」
「ああ!」
 アンジェリークはアリオスをじっと見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。深呼吸をして飛び込むだけだ。
 跳んだ瞬間、真っ逆さまに堕ちていく気分になった。
 だが。
 温かで力強い腕の中にしっかりと抱き止められた瞬間、ほっと安堵が広がった。
 目を開けるとずっと逢いたかった男性がいる。それだけでアンジェリークは胸が一杯になった。
「時間が空いたから、ドライブに連れていってやるよ」
「うん、楽しみ!」
 そのままアリオスにしっかりと抱き着くと、会えた嬉しさをアンジェリークは笑顔に込めた。
「さて、行くか?」
「うん!」
 車に乗せて貰い、甘やかせるようにシートベルトをしてもらう。
 緩やかにエンジンがかかった。
 ゆっくり動く車は、ゆったりとしているからまるで揺り篭の中のように心地が良かった。
「アンジェ」
「何言いたかったんだ?」
 アリオスがちらりと見つめてくる。
 その横顔を見ていると、アンジェリークは胸が熱くなる。
 アリオスへの想いで、胸が切迫する。
 アリオスに言いたかった色々な愚痴は消えてしまう。
 言いたいことは総て消えてしまい、アンジェリークはアリオスの肩に頭を凭れさせる。
「------何でもない…。アリオスに逢いたいって言いたかっただけ…」
「そうか…」
 アンジェリークは目を閉じると、満足げな溜息を吐く。
 逢えさえすれば、心の氷は総て消えてしまった-------
  
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短いお話です。
甘い一時





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