不意に窓の外を見ると、アンジェリークはアリオスの姿を見つける。 雨の中、アリオスは庭でじっと立ちつくしていた------ どこか内省的な雰囲気があり、近付きがたいオーラを放っている。 声をかけたくても、アンジェリークはただ見詰めることしかできない。 幼なじみの10年ぶりの帰国の理由は、母親が亡くなったためだ。 アリオスにとってはたった一人の親だった。 彼の気持ちを考えると、胸が痛む。 迷惑かな…。 傘を手に取ろうとして、アンジェリークの耳に悪意に満ちた声が入る。 「長い間外国に行っていて、次に帰ってきたときは、親の葬式だなんて、随分と孝行息子だこと」 庭にいるアリオスに向かって、葬儀と火葬に参列した親戚がいやみたらしく文句を言いながら帰っていく。 その様子を、アンジェリークはこころを痛めながら見ていた。 アリオスだって、こころを痛めているのに…。 どうしてそんなことを言うんだろう…。 アンジェリークは傘を持つと、早速、庭に駆けていった。 「アリオス…、風邪を引くよ?」 「アンジェ」 傘を差し出すと、アリオスが顔を上げる。 銀の髪が雨の滴を弾いて、まるで宝石のように見えた。 アンジェリークはアリオスの聖なる美しさに、思わず見惚れてしまう。 「…アリオス、おうちに入ろう? 今日は私があったっかいものでも作るから…」 「アンジェ…」 ほんの一瞬だけ、アリオスはアンジェリークを見つめると、鈍色の空を見上げた。 「昔…、ここで、よくお袋と遊んだ…。あのころは親父もまだお袋に通っていて、幸せだったからな…」 アリオスはゆっくりとアンジェリークに視線を移す。 「おまえとも、ここでよく遊んだな?」 「うん」 アンジェリークにとっては、幼い頃、アリオスと遊んだとことが、何よりも愉しい記憶として心に残っている。 彼女は懐かしそうに頷くと、僅かに微笑んだ。 「私にはとっても大切な想い出…。 ここのお庭、私のあこがれだったの…。 今はすっかり荒れちゃったけど、小さい頃はいっぱい花があって、蝶々とかが飛んでいて…。いつか、大人になったときに、こんな家に住んでみたいって、ずっと思ってたの。今もその夢は変わらないわ」 青緑の大きな瞳が輝きを増して、アリオスを捕らえる。 その輝きは、まるで宝石のように思えた。 「アンジェ…」 アリオスは誘われるように、アンジェリークの円やかな頬に指先を宛てる。 「------温かいな、おまえ…」 「アリオス……」 繊細なアリオスの指先に、アンジェリークは思わず瞳を閉じる。 熱い切なさが伝わってきて、胸がドキドキする。 今度はアリオスの手で顔を包み込まれて、親指で頬を撫でられた。 その瞬間、心までもがとろけてしまうのではないかと思う。 言葉なんて必要なかった。 唇が重なる。 ファーストキスは、想像していたものよりも、ずっとずっと甘く、アンジェリークはその甘さに総てが溶けてしまうのかと思った。 唇が離されて、アリオスがぎゅっと抱きしめてくる。 「------俺を温めてくれ…」 「うん…」 アンジェリークはぎゅっとアリオスを抱きしめると、彼も小さな躰を抱き返してきた。 「-----おまえの夢、叶えさせてくれねえか…?」 断る理由なんて何もない。 それどころか、嬉しくて涙が出てくる------ 「うん、叶えて…」 「サンキュ」 アリオスはアンジェリークの頬にキスを送ると、その手を握りしめる。 「部屋に戻るか…。戻ったら、温めてくれ」 「うん」 ふたりは並んで庭を見つめる。 もうそんなに遠くない未来に、この庭が花でいっぱいなる----- ふたりと、愉しく遊ぶ子供。 そんな未来予想図が一瞬ふたりには見える。 ふたりは仲良く穏やかに部屋に戻った。 庭を花でいっぱいにする------ アリオスはこれが一番の母親への供養になると思うのだった------ |
| コメント アリオスが雨に濡れる話を書きたかったんです。 温かいものに満たされて、これからは、アリオスも 雨に濡れることはないでしょう…。 |