Sweet Maple


「ねぇアリオス、紅葉狩りに行こうよ!」
 夕食後新聞を読んでいるアリオスに、アンジェリークは思いきってきいてみた。
「紅葉狩り? 季節だが、どうせおまえのことだ、後でしんどいだの、紅葉の天ぷら食い過ぎて腹痛くなるのがオチだぜ。やめとけ」
 さらりとあしらわれて、アンジェリークは不機嫌そうに頬を膨らませる。その仕種がアリオスがとても気に入っていることを、もちろん知らない。
「…そりゃ、紅葉の天ぷらは魅力的よ。甘くて美味しいし…。だけど、お猿さんとかとも遊んでみたいし…」
「止めとけ、猿と遊んでたら、おまえがどこにいるか解らなくなっちまうからな。猿と毛並みもやることも一緒だからな」
 アリオスはニヤリとした意地悪な微笑みを向けてくるので、アンジェリークは耳まで真っ赤にして更に憤慨する。
「アリオスのバカっ! もうしらないっ! 折角、紅葉を見てロマンティックな想い出に浸ろうと思ってたのに〜! ふたりでグレイス見ながら、手 紙を届けに行ったこととかさ…。なのに…」
 仔犬が耳を垂れるかのように、アンジェリークはしゅんとする。愛らしい食べてしまいたいぐらいの可愛いらしさだ。
「…あの時の紅葉は綺麗だったな…。素晴らしく色づいてな」
「うん…。アリオスとあの光景が見られて嬉しかったもの」
 アリオスの指先が頬に伸びて来て、ゆっくりと撫で付ける。艶のある雰囲気がふたりに漂い、唇が重なる。甘いキスの後は、しっかりと抱きしめて貰い、アンジェリークは甘い吐息をひとつつく。
「明日、連れていってね、紅葉ドライブ」
「ああ」
 アリオスは笑うと、しっかりと抱きしめてくれる。
「…紅葉の天ぷらとぼたん鍋も付けてね?」
 上目遣いで強請るのも勿論忘れない。
「はい、はい。食い地の張った天使様」
「嬉しい〜!」
 本当に嬉しくて満面の笑顔が顔に広がる。眩しいほどの笑顔だ。
「見返り、期待してるからな」
「えっ!? 見返りって?」
 ぎゅっと抱きしめられて、それ以上は息がつけなくなる。
「おまえの躰に沢山刻み付けてやるよ」
「あっ…!」
 そのまま抱き上げられて、アンジェリークはアリオスにしがみつく。
 ふたりだけの甘い時間が幕を開けた。


 翌日は、昼過ぎに紅葉狩りに向かう。昨夜は、見返りと言う名のもとで、アンジェリークは散々可愛がられたのだ。
「アリオス、紅葉の天ぷらとぼたん鍋は覚えているでしょうね?」
「ああ。食いしん坊のリクエストはちゃんと覚えているぜ」
「ちょっと! 食いしん坊は止めてよ! 万歳みたいでやだ」
 いつものようにからかわれて、アンジェリークは素直過ぎる反応をする。それがアリオスにはまた可愛い。
 車に乗り、近くの紅葉の名所までロマンティックなドライブを楽しむ。ふたりには何よりも素敵な時間となった。
「うわっ!凄く紅葉が綺麗だわ!」
 車窓から見える紅葉は本当に美しく、アンジェリークは目を奪われる。
「…おまえをそんなに夢中にさせるなんて、しゃくだな…」
「何か言った?」
「何でもねえよ」
 二人を乗せた車はゆっくりと減速し、紅葉の山へと入っていった。

 車を近くの駐車場に置き、散策を楽しむことにする。最初にアンジェリークの注意を引いたのは、やはり紅葉の天ぷらだった。
「アリオスっ! 凄く甘くて美味しそうな匂いがする!」
「はあ? 何もしねえけど」
 だが暫く歩くと、紅葉の天ぷらの店が見えてくる。
「やっぱり! アリオス、買ってよ!」
「おまえ、すげえ嗅覚してんな…」
 アリオスは、アンジェリークの犬以上嗅覚に驚かされてしまう。
「ほら、行こう!」
「しょうがねえな」
 アリオスはアンジェリークにてを引っ張られるようにして、紅葉の天ぷら屋に向かった。
「これ、一袋下さい〜」
 アンジェリークは嬉しいが、アリオスの顔は引き攣っている。
「こんなもん、食うのかよ?」
「だって美味しいんだもん」
 アリオスには正直そうは見えなかった。何故なら、紅葉の天ぷらを揚げている油は、真っ黒、ヴィンテージといった風情で、とてもでないが口に入れる気になれなかった。が、当のアンジェリークはと言えば、凄く喜んでいる。しょうがないので、とりあえずは買ってやることにした。
「わーい、アリオス有り難う!」
 早速嬉しそうに美味しそうに天ぷらを頬張るアンジェリークを見ると、可愛くてしょうがなくなり、今更食べるのを止めさせる訳にはいかなくなる。
「美味しいよ」
「そいつは良かったな」
「アリオスは食べる?」
「いらねえ」
 ふたりはぶらぶらと紅葉の山を上がっていく。
「凄い綺麗ね!」
「だな。おまえは花よりダンゴみてえだけど」
「失礼ね!」
 アンジェリークは憤慨しながらも、紅葉の天ぷらを食べるのを止めなかった。
 穏やかな太陽の日差しを浴びながら、真っ赤に色づいた紅葉が下りてくる。アンジェリークの栗色の髪に紅葉がゆっくりと下りて来た。
「髪についてるぜ?」
「有り難う」
 アリオスが指先て優しく採ってくれる。それが嬉しい。
「ほら、小さいやつだ」
「可愛い〜!」
 アリオスに手渡されて、アンジェリークは紅葉をくるくる指で回す。
「この紅葉って小さくて赤ちゃんの手みたいね」
「だな。おまえも来年の今頃は紅葉の手の世話で大変だろうよ」
 アンジェリークは一瞬何か解らなかった。しかし、意味が解るなり真っ赤になる。
「…そうだったら凄く幸せだわ」
 ふたりは温かく甘い微笑みを浮かべ合い、見つめ合う。
「おまえみてえに紅葉の天ぷらが好きなやつかもしれねえな」
「もう」
 ふたりは手をしっかりと握りあって、山道をゆっくりと登っていった。

コメント

紅葉の天ぷら。知る人ぞ知る箕面の名物。
あのラード。いつから使ってるんやろうか。
30年以上使っていると聞いたことがあります(笑)




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