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あなたが大好き・・・。 アリオスの温もりに包みこまれて、アンジェリークは安堵と甘くも苦しい想いを共有する。 彼の温もりは本当に心に染み渡っていった。 かなり寒くなってきたので、躰を寄せ合いながら、ホテルまでの道程を歩いた。 ホテルに帰ると、ふたりはフロントでキーを受け取り、アンジェリークの部屋に向かう。 その間、一度も手を離すことはなかった。 部屋に入るとソファに腰を下ろし、ふたりはルームサービスのメニューを手にとる。 何だか幸せすぎて胸がいっぱいなせいか、アンジェリークはどれを食べたいのかが判らない。 「温かいもんがいいよな? このラムシチューなんかすげー美味そうだよな」 「じゃあ私もそれで。サラダとサイダー系の飲み物でもあればいいです」 アリオスは頷くと、部屋の電話に向かう。 「後は適当で構わねえよな?」 「はい」 彼がメニューを片手に注文をしているのを、アンジェリークはじっと眺めた。 その姿ははくらくらするほど素敵だ。 書類を見たり、敵に銃を向けるあなたも素敵だけれど、こうやって自然なあなたを見るのも、かなり好き・・・。ううん、大好きなのかもしれない・・・。 「20分ほどで持ってきてくれるらしい」 「有り難う・・・」 アリオスはジャケットを脱ぐと、ネクタイを緩めて取ってしまう。 その仕草が、彼女には堪らなくセクシーだった。 「窓の外、見てみろよ」 「はい」 窓辺に近付くと、先程のイルミネーションがとても美しく、最高の状態で映っている。 「綺麗…」 「あの渦の中にいるのもいいが、ここからの眺めもかなりいいだろ?」 「はい・・・」 すぐそばにアリオスが立っている。 抱き締められそうで、されない距離を保っているせいか、余計に緊張と甘い疼きが交互にやってきた。 息が掛かる距離に立たれると、先程の深いキスを思い出してしまい、とても恥ずかしい。 「あの中にさっき俺たちもいたんだよな」 「はい」 甘く震えながら、アンジェリークは何とか答える。 そこにはいつもの緊張感を漲らせた、スナイパーの一面はどこにもなかった。 ただの恋する17歳の少女だ。 「おい、もっとリラックスしろ? そんなに固くなるな」 「えっ、あっ・・・!!」 息を呑んだ瞬間、背後から抱き締められ、耳朶に唇を感じた。 「あ・・・」 優しく唇で耳朶を触れられ、アンジェリークは甘い深呼吸を一回する。 「アンジェ、可愛いな」 名前を呼んでくれた!! ぎゅっと抱き締められて、息が更に早くなる。 だがそれ以上に、ちゃんとファーストネームを呼んでくれたことが、何よりも嬉しい。 「あっ・・・、名前を呼んでくれたの初めてです」 「おまえの名前呼んじまったら、理性を抑える自信がなかったから、今までは呼ばなかった」 甘く囁かれて、アンジェリークは体から力が抜ける。 「…じゃあ、今日はどうして名前を呼んでくれたんですか?」 「きまぐれだ。クリスマスの」 そう言いながら、アリオスは腕に更に力を込めた。 「だったら最高のクリスマスプレゼントだわ」 艶やかさを入り交じった彼女の声に、アリオスはたまらずに白い首筋に口づけた。 「あっ・・・!」 ノックが響く。 「ルームサービスだ」 アリオスはアンジェリークから離れると、ドアに向かって歩いていった。 彼は手早くルームサービスの料理を受け取ると、ワゴンごと持ってきてくれる。 「テーブルに並べようぜ。美味そうだ」 「はい」 甘い瞬間の喪失を少し残念に思いながら、アンジェリークはアリオスの手伝いをすることにした。 テーブルに並べると、クリスマスディナーの風情になる。 「今日、ミールクーポン使わなかっただろ? どうしてだ?」 「ああいう時って、食欲がなくなるんです。いつも」 アンジェリークはほんの少し俯くと、切なそうな表情をする。 いつも、彼女のそのような表情に馴れているせいか、アリオスは落ち着いた表情のままだった。 「・・・今夜は、せっかくふたりきりのお祝いだから、一緒に楽しく過ごそうぜ?」 「うん、アリオスさん」 アンジェリークはこの貴重な時間を、最高の思いで過ごそうと思う。 ふたりは笑い合うとテーブルを囲み、食事を取ることにした。 「ここのシチューは凄く美味しいです!」 「だな」 アリオスと食べる行為は、どんな美味しいスパイスさえ敵わない、何よりも料理を美味しく食べる事ができる。 「体だけじゃなくて、心も暖かくなりますね」 「だな」 甘い話をずっとしなくても構わない。 ただ見つめあっていれば良いから。 食事をしながら、ふわふわとした幸せな感覚を、アンジェリークは楽しんでいた------ 食事を終えた後、ワゴンに皿などを綺麗に片付け、皿などはすべて引き取ってもらった。 「あ、雪・・・」 窓の外を見ると、白いものが闇夜に美しく舞っている。 「雪か・・・」 二人は共に窓に行くと、じっと降り始めた美しい自然の宝石を見つめる。 「綺麗・・・・」 アンジェリークは窓に手をかけ、ただただ、自然が魅せてくれる最高の贈り物を見つめている。 「アンジェ、そのままだと風邪を引く…」 彼は甘く囁くと、アンジェリークを背後から抱きしめる。 「あ・・・・」 「これだったら寒くねえだろ?」 「うん・・・」 アンジェリークはアリオスの精悍な背中に躰を預けると、暫く、ふたりで雪を魅入っていた------ 「そろそろ、俺も自分の部屋に帰るとするか」 煙草を吸い終わった後、アリオスはソファから立ち上がる。 「アリオスさん、もう帰っちゃうの?」 アンジェリークは寂しさいっぱいの瞳をアリオスに向け、ただじっと見つめた。 「------おまえは、自分で何を言っているのか判ってるのか…?」 「…意味は判ってる…。でも無理よね。判ってます…。 せめてクリスマスの魔法でも…いいの… 雪がやむまででも、いいの・・・」 アンジェリークは寂しそうに俯くと、彼に背中を向ける。 泣きそうな顔を見られたくなかったから。 「バカ、誰が無理って言った」 「あ…」 再び背後から抱きしめられたと思うと、いきなり身動きが取れないようにしっかりと力を入れられてしまう。 「”覚悟”っていうのは、別の意味だ。 おまえ、一生俺から離れられなくなるぜ? それでもいいのか? 仕事でも私生活でも、俺からは離れられない・・・。 仕事のときはおまえにつらい仕事を容赦なく与えるだろう・・・。 今日の昼間のように、辛くなるぜ? それでもいいのか?」 確かに昼間はかなり辛かった。 だが、ちゃんと心を満たしてくれていた。 答えは単純明快。 離れたくないから、離してほしくない。 「------私はあなたの傍にいたいだけなの・・・」 本心をアンジェリークは素直に伝える。 アリオスはそれを聞くと、そっとアンジェリークを抱き上げた。 「-------おまえは俺の最高のクリスマスプレゼントだ。 忘れられない夜にしてやるから…」 「はい…」 ベッドにそのまま運ばれる。 このまま、アリオスと何もないほうが数十倍も後悔してしまうだろう。 そんなことは絶対に嫌だった。 「あなたも、最高のクリスマスプレゼントなのよ」 「じゃあリボンをかけて、俺をやるよ」 二人はどちらからともなく抱き合い、お互いの想いを伝え合った。 偽りない思いを------- アリオスの腕の中でうとうとしながら、アンジェリークはその甘いぬくもりに酔いしれていた。 後悔などまったくありえない。 「------また、癒してくださいといったら、怒りますか? あなたに癒されれば、どんなことでも我慢できるから…」 アンジェリークが囁くと、アリオスはフッと微笑を返してくれる。 「ああ。その代わり」 「その代わり?」 「俺を癒してくれ」 彼はそういうなり、彼女の小さな躰を再び組み敷く。 「はい、あ、ああっ」 愛され始めたアンジェリークは、もう返事をするのが精一杯で、甘い世界におぼれていった。 「メリー・クリスマス・・・。今夜は最高のクリスマスだ…」 意識が甘く奪われていくのを感じながら、かすれた声で僅かに返事をする。 神様。 終わりよければ、すべてよしですね? クリスマスにもらった、形のない最高のプレゼントに、二人は今までにない至福の瞬間を感じていた----- |
コメント クリスマス創作です。 ハードボイルドあまあま。 まだまだ修行かな〜。 |