聖夜の約束


「今年のクリスマスイヴは日曜日のせいか、いつもよりも忙しいな」
 アリオスの同僚コンシェルジュであるオスカーは、溜め息混じりに呟いた。
「何を言いやがる。ついさっき出勤したばっかだろうが。昨日も土曜日だからえらい騒ぎだったさ」
 アリオスは疲労困憊の溜め息を吐きながら、煙草を口に押し込めた。
「俺はこれで上がるから、後は頼んだぜ」
「え!? お前がクリスマスイヴに上がるなんて、珍しいこともあるもんだな」
 オスカーは驚いたようにアリオスを見つめ、まるで珍しいものを見るような目付きをしている。
「イベント関係は、いつもクールに仕事をこなしていたお前が珍しいな」
 半ば感心するように言われて、アリオスは思わず苦笑いを浮かべた。
「そういえば、誕生日もギリギリに帰っていたよな…。女か?」
 ニヤリとからかうように笑うオスカーを無視するように、アリオスは灰皿に煙草を押しつけて揉み消す。
「そうか、クールなアリオスちゃんも、とうとう年貢の納め時か。これでオスカー様の時代が始まるってことか」
 自分自身に言い聞かせるように何度も頷くオスカーを無視して、アリオスは更衣室に向かう。
「おいっ! 待てよ! お前を夢中にさせるお嬢ちゃんの話を聴かせろよ!」
 まるでパパラッチのように食い下がってくるオスカーに、アリオスはわざとクールなまなざしを向ける。
「悪いが、お前の好奇心に付き合っているヒマはねぇんでな。うちで子犬が首を長くして待っているんだよ」
 アリオスはクールにさらりと呟くと、更衣室にスタスタと入っていった。
 時計を見れば、家に帰り着くのはギリギリ。
 クリスマスの瞬間には、挨拶をすることが出来るだろう。
 アリオスは素早く着替えるとヘルメットを被り、素早くバイクへと乗り込む。
 この時期は安全運転をと心掛けてはいるが、こころは何時にも増してはやるばかりだ。
 闇のなか、ただひとつの灯を目指して、アリオスはバイクを走らせる。
 愛しい子犬のような天使のために。


「やっぱりこの時期は忙しいんだよね…」
 あんなに張り切って飾り付けたクリスマスケーキも、ほかほかと温かい湯気をあげていたローストチキンも、総ては空しいばかり。
 そこに肝心なひとがいなければ、どんな料理だって美味しくはなくなってしまう。
 アンジェリークは溜め息をひとつおおきく吐くと、ただ玄関先を見つめた。
「わがままかもしれないけれど、アリオスがそばにいてくれることが、何よりものプレゼントなんだよ…」
 アンジェリークはまた大きな溜め息を吐くと、大好きなひとに小さな恨み節を呟いた。
 時計を見ると、イヴからクリスマスへはまもなくだ。
 硬い足音が、マンションの廊下に響き渡る。
 そのリズムと同じように、アンジェリークの鼓動も高まってきた。
 まるでサンタクロースが今すぐやってくるかのような気がした。
 アンジェリークのサンタクロースは、勿論アリオス。
 月並みかもしれないが、これ以上に幸せを運んでくれるひとなんかいない。
 鍵が開く音がした瞬間、高まるこころを抑えることなんて出来ずに、アンジェリークは思わず玄関先へと走っていく。
「おかえりなさいっ!」
 アリオスが家に入るなり、アンジェリークは思い切り抱き付いてみせた。
「ただいま」
 アリオスに抱き寄せられると、こんぺいとうのように甘くて可愛いキスが唇に下りて来る。
 触れるだけで溶けてしまいそうな甘さを堪能した後、アリオスは、アンジェリークにしか見せない、優しいとっておきの微笑みをくれた。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 クリスマスの挨拶とともに、モミの木の上を飾る星よりも素敵なキスが下りて来る。
 アンジェリークにとって、キスは何よりものプレゼント。
 アリオスとしっかりと抱き合いながら、リボンにかけられた珠玉の時間を楽しんだ。



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