女の子にとってイルミネーションは、心と想い出を彩る宝石のようなもの。 ロマンティックで甘いキラキラしたコンペイトウのようなもの。 だからこそ、大好きなひとと見たいもの。 大好きなひとと見るイルミネーションは最高にロマンティックだから。 近くのショッピングスポットで点灯式があると友人から聞き付けて、アンジェリークはアリオスを誘ってみることにした。 そのショッピングスポットは、アリオスが設計監修をした最新人気スポットなのだ。 初めてのクリスマスイルミネーションの点灯式だということで、かなり話題になっていた。 アンジェリークもアリオスと一緒に見たいと思う。 その日はアリオスのバースデーだから余計にだ。 今日もアンジェリークはアリオスの設計事務所に遊びに行き、製図板の横でうだうだと宿題をするふりをしていた。 「アリオス、エンジェルミッドヒルズの設計監修をしたのはアリオスでしょ?」 「ああ」 アリオスはもう今更な過去の話とばかりに、おざなりに呟いた。 「…あのさ、こんどそこで初めてのイルミネーション点灯式があるんだよ。モデルさんや俳優さんや女優さんがいっぱい来るんだって! ねえ、ロマンティックそうだし、一緒に見に行こうよ!」 アンジェリークはいかにアリオスが興味を持つように言ったが、アリオスは無言で製図用鉛筆を動かしているだけだ。 「…興味ねぇ」 アリオスはあっさり言うと、図面に精密なラインを引き続けた。 「もうっ!」 アンジェリークはむくれると、アリオスを軽く睨んだ。 「…そんなひとごみに行っても疲れるだけだろう? それよりももっと静かなところに行ったほうが良い」 アリオスはあくまで冷静にしらっとしながら言う。 「だけどロマンティックなんだよ? 年に一度の素敵な夜なんだよ? ダメ?」 アンジェリークが一生懸命懇願しても、アリオスは顔色ひとつ変えやしない。 「その日は仕事だ。残念ながらな」 「うー」 アリオスはかなり多忙だ。国際的にも著名な建築家として知られており、若手建築家では、今や一番の知名度だ。 女子高生の自分とは、余りにも違い過ぎることはアンジェリークにも解ってはいるが、それでも少しは他の 友達と同じように甘くてロマンティックな時間を過ごしたかった。 「とにかくその日は仕事だ。大型複合施設のクライアントに逢う予定になっているからダメだ」 「…そうか…」 折角のアリオスのバースデーなのに、逢えないなんて哀し過ぎる。 大好きなひとのバースデーは一番に祝ってあげたいのに。 「冷蔵庫にレオナード特製のモンブランが入っている。しっかりと食って良いぜ」 「有り難う!」 アンジェリークは冷蔵庫に駆け寄るとモンブランを出して、カフェオレの準備をする。 勿論、アリオスにはブラックコーヒーを準備した。 アリオスは基本的には甘いものは一切食べないし、飲まないのだ。 アンジェリークは溜め息を吐きながら、アリオスを見た。 「コーヒーだよ」 「ああ」 アリオスは製図板に集中しながら、ただ頷くだけだ。 図面を書いている間のアリオスは、本当にうっとりと蕩けてしまいそうなぐらいに素敵だ。 アンジェリークはいつも見惚れてしまっている。 アンジェリークは、レオナード特製のモンブランを頬張りながら、結局はアリオスに食べ物でまた誤魔化されたと思う。 部類の食べることが大好きなので仕方がないが。 アンジェリークはアリオスが図面を書いている様子を眺めながら、鉛筆を次々に替えて描いているのに気が付いた。 「アリオス、シャーペンで描かないの?」 「シャーペンはしょうにあわないんだよ。鉛筆が一番だ」 「そうなんだ」 アンジェリークは先が丸まってしまった鉛筆を回収すると、それを見よう見まねで小刀を使って削り始めた。 綺麗に先を尖らせて満足すると、アリオスの文具入れに戻してやる。 「サンキュ、助かる」 アリオスの言葉が嬉しくて、アンジェリークは笑顔になる。 アリオスの仕事を少しは手助け出来たことが、とても嬉しかった。 学校ではエンジェルミッドヒルズの点灯式の話題で持ち切りになっている。 だがアンジェリークは行かない。イルミネーションの点灯式なんて、大好きなひととしか意味はないのだから。 ほんのりと羨ましいとは思いながらも、仕方がないとアンジェリークは諦めていた。 アリオスのバースデーには逢えないが、せめてプレゼントだけは贈りたいと思っていた。 プレゼントは決めている。 沢山の製図用鉛筆を買って、それを小刀で削ってあげるのだ。アリオスはそれを一番喜んでくれるだろうから。 アンジェリークは画材屋でおこづかいが許される限りの鉛筆を買い求め、それを小刀で綺麗に削った。 アリオスが当分の間は削り直しをしなくて良いように。 アリオスのバースデー前日のギリギリに総てが削り終わり、アンジェリークは鉛筆の束に、シルバーのリボンをかけて、シンプルに“ハッピーバースデー”と書いたカードを添えた。 アンジェリークはそれを眺めながら、とても幸せな気分になり、にっこりと微笑んだ。 アリオスのバースデーの日、デートの約束は出来なかったが、せめてバースデープレゼントだけでも渡したくて、アリオスの設計事務所に向かう。 夕方のほんの少しだけ時間が空くことを、アンジェリークは知っていたから。 バースデープレゼントを渡しに行くだけだが、いつもよりはほんの少しだけお洒落をして事務所に向かった。 アンジェリークはいつもよりも畏まって、事務所を訪問した。 「アリオス、こんにちは。少しだけ時間を貰っても良いかな?」 「ああ」 アリオスは打ち合わせがあるせいか、少しだけフォーマルなスタイルだ。 アンジェリークの胸をきゅんと高めさせるほどの素晴らしさで、思わずうっとりとしてしまった。 アリオスに事務所に入れて貰い、温かなミルクティーを頂く。 「ごめんね、アリオスが忙しい時に…。どうしても渡したいものがあったんだよ」 アンジェリークはアリオスを真直ぐ見つめながら言うと、バースデープレゼントを差し出した。 「ハッピーバースデーアリオス」 「サンキュな」 アリオスは眩しそうに目を細めると、バースデープレゼントを受け取ってくれた。 アリオスは丁寧に包みを開け、中身が削られた鉛筆であることを知ると、更に円やかな笑みを浮かべた。 「使わせて貰う。サンキュ」 アリオスが喜んでくれたのが嬉しくて、アンジェリークは笑顔になった。 不意にアリオスに手を取られて、アンジェリークは目を丸くする。 「お前を連れて行きたいところがある。来いよ」 アリオスはアンジェリークの手を引いて車に乗せると、そのまま発進させる。 「何処に行くの?」 「いいから」 アリオスは機嫌良く言うと、ステアリングを切って目的地へと向かった。 着いた先は、なんとエンジェルミッドヒルズ。アンジェリークは驚いて、アリオスを見上げた。 「アリオス」 「ひとがいない特等席を用意した。来いよ」 「うん!」 こんなサプライズが用意されているなんて知らなかった。 アンジェリークは頷きながら、嬉し過ぎて涙が滲む。 「泣くなよ」 「嬉しいんだもん」 アンジェリークが泣き笑いで言うと、アリオスはフッと甘く笑って、肩を抱き寄せてくれる。 連れていってくれたのは工事中の場所。従って誰もいない。 そこからはエンジェルミッドヒルズのイルミネーションを見渡すことが出来た。 カウントダウンが始まる。 ふたりは見つめあうと、点灯の瞬間、唇を重ねあう。 こんなに素敵な点灯式は他にないよ。 アンジェリークはアリオスに微笑みかけると「ハッピーバースデー」と囁いて、羽根のようなキスをする。 「これからも俺の鉛筆はお前にずっと削って貰うから。それが最高のバースデープレゼントだ」 「うん。任せて」 最高の点灯式で最高のバースデーだと、アンジェリークは感じていた。 |