Festival Night


 待ちに待った、商売繁盛の神様、戎神社の盛大なお参りの日とあり、アンジェリークは興奮せずにはいられない。
「アリオス、いっぱいテキ屋さんを冷やかそうね!」
「アンジェ、あくまで俺達はお参りに行くんだぜ」
 苦笑しながら言うアリオスに、アンジェリークはかわいらしく頷いた。
「解ってるわ。笹とか熊手とかに縁起物を付けてもらうのも、楽しみよね〜」
「ったく…」
 戎神社の年に一回の大祭はお祭り騒ぎのせいか、アンジェリークは興奮しているようだ。それがまたアリオスにとっては愛らしいのだが。
 ふたりはいつものようにしっかりと手を繋ぎ合って、戎神社のお参りに向かった。
 神社から近い繁華街の駅前は、多くの参拝客を捌く為に、歩行者天国になっている。そこからアンジェリークの大好きなテキ屋が大挙して列をなしていた。
「アリオス! テキ屋さんがいっぱいよ!」
「おまえにとっちゃあパラダイスみてえだな」
 アリオスも、長い神社までの道を埋め尽くすテキ屋の列に、思わず溜め息が出た。
「アンジェ、すげえ人だから、ちゃんと俺の手を離すなよ」
「うん」
 しっかりとお互いに手を握り合って、歩き始めた。
「あ、りんご飴! あっちにはわた飴! アリオスが好きな飲みすけ用の串焼きもあるよ〜!」
 アンジェリークは本当に嬉しそうにテキ屋を見ている。
「後でお参りが終わったら買ってやるから」
「嬉しい〜! 箸巻とか、串焼きとか一緒に食べようね!」
 ニコニコと子供のようにはしゃぐアンジェリークを見ていると、アリオスも一緒に神社まで来て良かったと思う。
「きゃっ!」
 アンジェリークが急に体勢を崩し、アリオスは直ぐさま逞しい腕で抱き留めた。
「よそ見するなよ、アンジェリーク」
「うん、有り難う、アリオス…」
「しっかりと俺が支えているときにだけよそ見しろよ」
 アリオスの温かな腕に、アンジェリークはしっかりと頷いた。
「あ、アリオス、射的だ! あのウサギのタンタン人形、凄く可愛いよ〜!」
「解った。帰りに射的で取ってやるから、心配するんじゃねえぞ」
「アリオス大好き〜!」
 ただでさえ人の熱気で凄い参道を、ふたりはいちゃつくことど更に熱くしているようであった。全く、バカっプルである。
「あ! 福飴だ!」
「捩り飴だろうが、金太郎飴だろうが、好きなもんを買ってやるよ」
「わーい!」
 いよいよ境内に入り、お参りをしてから福笹を貰う。縁起の良い戸を叩いて願い事を言うのも忘れてはいない。もちろん笹を持つのはアンジェリークだ。
「アリオス! 縁起物を付けようよ!」
「ああ」
 笹を持って、縁起物を付けてもらえる所に向かう。
「やっぱり俵は基本でしょう。桝もいいわよねえ…。あのお金入れる袋も良い感じ〜」
 結局はアンジェリークが縁起物を沢山付け、じゃらじゃらとした賑やかな笹が出来上がってしまった。
「アリオス、笹はすごく良くなったよね」
「そうだな」
 アリオスにとっては、笹の云々かんぬんよりも、笹を持って嬉しそうにしているアンジェリークの方がポイントはかなり高かった。単純に可愛かったのだ。
「さてと、アリオス、約束だからね〜! テキ屋さんをいっぱい冷やかすからね〜!!」
「はい、はい」
 お参りよりも重要な目的のために、アンジェリークは気合いが入っているようだった。
「土産には、わた飴とりんご飴でしょう、射的も忘れていないでしょう?」
「ああ。先ずは福飴だな」
「うん!」
 最初は福飴のテキ屋から。そこでねじり飴やら、金太郎飴を買って先に進む。
「射的よ! タンタン取ってね!」
「しょうがねえな」
 アリオスは苦笑しつつも、射的の一回分のお金を払い、射的に挑むことにする。
「タンタンでいいんだな」
「うん! タンタンよ!」
「よし」
 アリオスはしっかりと狙いを定めると、獲物を鋭く狙うスナイパーのように、真摯な眼差しで獲物を射抜いた。
「うわあ!」
 やはりアリオスの並外れた反射神経ではお約束のように。一発だけでタンタンを仕留めてしまった。
「すごい!!」
 ぴょこぴょこと嬉しそうに跳び上がって喜ぶアンジェリークに、アリオスもまた嬉しい気分になる。
「兄さん凄いわ〜! これやったら全然商売にならへんわ〜。持ってて、それ」
 いかにも怪しそうなテキ屋に縫いぐるみをもらい、アンジェリークはすっかり上機嫌になった。
 笹と縫いぐるみを抱きしめながら次のテキ屋に向かう。
「あ、串焼き〜!」
「食っていくかよ」
「うん! あの地鶏の塩焼きが良い」
 アンジェリークを連れて屋台で塩焼きを二本買い求めて、ふたりで歩きながら食べる。
「美味しいね」
「ああ。ビールのツマミに合うかもな」
「今度、作るからね」
 ふたりではぐはぐと食べていると、食いしん坊のアンジェリークは、あっという間に食べ終わり、 次のイカの丸焼きに視線を写す。
「…アリオス…あれ」
「もう解った。喰いたいんだろう。食えよ。この後にあったかいもん喰うんだから、ほどほどにな」
「うんっ!」
 少し食い意地のはったアンジェリークが、アリオスには可愛くてしょうがなかった。
 イカを買ってはぐはぐと食べた後は、定番のりんご飴とわた飴だ。
 りんご飴を買いに行くと、先ほどの射的にいた男がいた。
「あれ、お客さん、さっき射的に来てくれはった。りんご飴まで買うてくれはるんでっか! だったら特大のを普通の値段でええですわ」
「有り難うございます〜!」
 アンジェリークはご機嫌になり、笑いながらりんご飴を受け取った。
「サンキュな」
「毎度おおきに」
 この後は、わた飴を買い、買い物三昧にアンジェリークは、本当に幸せそうだった。
「アリオス〜! 凄く幸せ〜! あ、ハニーカステラと天津甘栗だ〜」
 ねだるようなとっておきの視線をアリオスに向ければ、しょうがないとばかりにハニーカステラと天津甘栗を買ってくれた。
「わ〜い! これで食料袋いっぱい!」
「ったく、しょうがねえな…」
 アリオスは苦笑するが、そんなアンジェリークが一番可愛いと、心の中では思っているのだ。
「さてと。次は味噌ちゃんこだからな」
「わーい!」
 ダイエットを気にして少ししか食べないより、アンジェリークのように沢山食べる少女のほうが、アリオスには好ましい。
 手を繋いでふたりは味噌ちゃんこを食べさせてくれる店に向かった。


 ちゃんこは本当に美味しくて、たっぷりと食材を味わった後、しめのラーメンまで食べきった。
「お腹いっぱい〜!」
「まだ、おやつをたんまり買ってるだろう」
「別腹、別腹!」
 お腹を軽くぽんぽんと叩く仕種をするアンジェリークが、アリオスは可愛すぎて思わず抱きしめてしまう。
「今夜、いっぱい運動をして全部消化してやるからな。覚悟しろ?」
「…もう、アリオスのバカ…」
 アンジェリークは恥ずかしそうに俯くと、アリオスの手をしっかりと握り締めて、同意の旨を伝える。
 ふたりはお互いにしか解らない少し官能的な微笑みを浮かべ合うと、手を取り合い温かな愛の巣に向かう。そこには幸福が待っていることが、充分に解っているから。

コメント

この間「えっべっさん」に行って、そのテキ屋の素晴らしさにこれが出来ました。
コレットは食いまくるだろうなあ。
アリオスはやっぱり食い意地はったコレットがお好きなのかも。
ふたりでセレスティアの、上品じゃない食べ物を梯子いていそうだ(笑)




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