愛の奇跡が起こったのだから、あなたと初めてのクリスマスは、思い出の多い、素晴らしいものにしたい。 アンジェリークはぱたぱたと走る。 別に約束に遅れるわけではないのだが、ついつい焦って走ってしまう。 イヴの日に再会した運命の恋人。 ふたりだけが知る、苦しくも奇跡のような恋。 もう誰も、アンジェリークが病気で一度死んでしまったことなど、なかったことのように、振る舞っている。 家族も友人も、みんな。 以前と違っていることは、住む場所が変わっていること。以前なら、片田舎に住んでいたのに、今や、アリオスが住む都会の住人になっている。 女神様のその計らいが凄く嬉しかった。 再会の余韻を楽しんだ後、本格的なクリスマスをふたりっきりで過ごすことになった。 しかし、この期に及んで、クリスマスプレゼントを買っていないことに気付いて、慌てて買いに行くことにした。 アリオスは良いと言ったが、アンジェリークはどうしてもアリオスに初めてのプレゼントをしたかったのだ。 神様の贈り物か、プレゼントを買うには充分のお金が貯まっていたので買いに行き、今はその帰りなのだ。 ふたりにとっては最初のクリスマスなんだもの…。どうしても、素晴らしいものにしたい。 息を切らせながらたどり着くと、まだアリオスは来てはいなかった。 「ちょっと早目に着いたもんね…」 不意に、背中を包み込まれたかと思うと、ぎゅっと背後から抱きしめられた。 「戻ってきたな?」 「うん! いっぱい急いで来たよ…」 「知ってる」 アリオスが背後から放れていくと、何とも言えない淋しい気持ちが、アンジェリークの心を掠めた。 その代わりに温かな手でぎゅっと握りしめられる。 「行くぜ。最高のクリスマスにしようぜ」 「うん…」 女神様がくれた奇跡をアンジェリークとアリオスは大いに楽しんで、感謝することを決めていた。 「…ふたりだけで過ごせたらそれだけでいいよ」 「俺もそう思ってる。おまえが帰ってくるまでは、このイルミネーションひとつをとっても、すげえ空しかったけど、今はおまえがそばにいるだけで、暖かいもんに感じる。…すげえ嬉しいもんだな…」 アリオスはしみじみ呟くと、アンジェリークの手を更に強握りしめる。く 「今夜はどうしたい? おまえに任せるぜ? どうせロクでもねえことを言い出すに決まってるけれどな」 アリオスが横で楽しそうに笑うのが、アンジェリークにはとても楽しくてしょうがなかった。 「ロクでもないことじゃないわよっ!クリスマスケーキ食べて、お鍋でもつついて、お菓子食べて、テレビを見る!」 「食い気ばっかじゃねえか」 アリオスは苦笑しながらも、その実どこか嬉しそうだ。 アンジェリークはそんなアリオスを見るだけで嬉しかった。 「おまえもうひとつ忘れているだろ?」 「何?」 アンジェリークは自分の希望は言ったとばかりに、不思議そうに目を丸くしている。 「…今夜こそ、おまえをもらうからな…。今夜は帰さねえ、覚悟しておけよ?」 アンジェリークにしか聞こえないような小さな声で囁かれ、思わず真っ赤になった。 「…あ、あの…、泊まるけど…、あ、あの…」 あまりにもの恥ずかしすぎて、アンジェリークは上手く言葉に出来ない。 「おまえはどうしようもなく可愛いぜ」 アリオスは苦笑すると、一瞬、頬にキスを送った。 女神の奇跡な恋人であるふたりは、イルミネーションの雨を通り抜けてスーパーで買い物を決め込む。 結局は、ふぐちりとスーパーて売っていたクリスマスケーキに決まった。 「楽しみ〜! ふぐの後は、雑炊を作ってくれるでしょ?」 「はい、はい、はい」 ふたりはどこから見ても、温かく幸せそうな恋人同士だった。 もう愁いなんかない。 アリオスのマンションは、なにも変わってはいなかった。 「前と一緒ね。凄く嬉しい…」 「おまえが帰ってくるまでは、何も変えたくなかった」 「有り難う、凄く嬉しい…!」 アンジェリークが感極まって涙ぐんでいると、アリオスが優しく背後から包み込んでくれる。 「アンジェ、泣くなよ…」 「だって、嬉しいんだもん」 ずっと一筋に待っていてくれたアリオスの気持ちが嬉しくて、アンジェリークは更に涙を零す。 「…もう、俺達以外に覚えていない記憶だが、しかし、忘れられない思い出の時間だもんな…」 「…うん…」 ふたりはしばらくこのままの状態でじっとしていた。幸せがじわじわと指先まで染み通る。 「もう少ししたら、一緒に住もうな。ふたりだけの家を建てて、家族を増やして…」 「うん。アリオスは一杯素敵な音楽を作るのよね」 「そうだな…。おまえが戻って来たから、沢山書けそうだからな」 アリオスは甘く微笑むと、アンジェリークにキスをする。 いくらしても足りないと思いながら、何度も、何度も…。 夕食の準備はわいわい仲良くやった。 「ちゃんとご両親には言ってきたか?」 「うん。何だかね、私とアリオスが公認みたいになってて、さっきお財布取りに行ったら、”今日はアリオスの所で泊まるんでしょ”て言われたの」 「すげえな…。幸せなプレゼントをくれたんだな」 「だって、アリオスは3カ月も待っていてくれたんだもの」 アンジェリークはしみじみと言い、奇跡の恋の成就に、女神に感謝していた。 夕食は大胆に豪快なふぐちり。 「美味しい〜!」 「どんどん食えよ。しめは雑炊だからな。ほら、河豚が煮えてるぞ」 「ありがと」 アリオスの鍋奉行ぶりは素晴らしく、テキパキと仕事をこなす姿には、驚くばかりだ。 きっと家族が増えても、一緒だろうな。アリオスはこうやって”鍋奉行”してそうだし…。 アンジェリークは思わずくすりと笑った。 「何だよ」 「何でもないよ」 アリオスの将来の姿を思い浮かべると、アンジェリークは笑わずにはいられなかった。 夕食後ゆったりしながら、いよいよプレゼントだ。本当はもっと念入りにプレゼントを選んだり手づくりしたかったが、再会したのが今朝なのでしょうがない。 「アリオス、メリークリスマス」 アリオスにほんの2時間ほど時間がをもらって、買いに行ったプレゼントが何だか恥ずかしいが、しょうがない。 ここは思い切ってプレゼントを渡した。 「サンキュ」 アリオスが穏やかに微笑みながら受け取ってくれたのが、何よりも嬉しい。 「開けていいか?」 「…うん」 パッケージをアリオスがゆっくりとあけてくれるのが、妙にドキドキする。気に入ってもらえるように祈るしかない。 プレゼントはこれからの季節に重宝する、レザーの手袋だ。 「これからの季節にいいかなって思って…」 アンジェリークははにかみながら、アリオスに選んだ理由を一生懸命説明する。 「サンキュ。大事にする…。だがもう大事なもんは貰ったしな」 「えっ!? アリオス!?」 驚くのもつかの間で、いきなりアリオスに抱き上げられる。 「最高のプレゼントはおまえだぜ、アンジェ。俺はずっと待っていたんだからな」 甘い官能的な声で囁かれると、アンジェリークは頬を赤らめてアリオスに絡み付いた。 ベッドに運ばれ、アンジェリークはアリオスにしっかりと抱きしめられる。ようやく愛し合うことが出来、ふたりは幸せの絶頂を噛み締め始めた。 愛しあった後、すやすやと眠るアンジェリークの左手を手に取り、薬指指輪をはめてやる。 きらきら輝く指輪は本当に美しい。 「…愛してる…」 甘い声で囁いた後、しっからとアンジェリークを抱きしめ、温もりを感じる。 もう二度と離さない------- 幸せな日々は今始まったばかり。 |
| コメント 完結した「Tears In Heaven」の翌日のお話です。 ふたりの甘いクリスマスです。 |