*Special Christmas*


 何故かクリスマスよりもイヴに盛り上がるのかと、いつも思ってしまう。
 クリスマス当日になると、テレビの世界では既にお正月の話題で持ち切りになり、誰もがクリスマスであることを忘れてしまう。
 何だか勿体ないと思ってしまう。
 こんなにもロマンティックなイベントは他にないのだから。

「アリオス、クリスマスイヴは…」
「仕事」
 アンジェリークが言い終わる前に、アリオスはキッパリと言い切ってきた。
 アンジェリークはがっかりとした気分になり、唇を尖らせた。
「そんなにあっさりキッパリと否定することないじゃない。アリオスはロマンスがなさすぎ」
 アンジェリークが拗ねるように言うと、苦笑いを浮かべられた。
「今年のクリスマスイヴは平日だ。社会人は年末進行で忙しい時期だからな。ガキに付き合っているヒマはねぇの」
 アリオスはキッパリと言うと、また仕事にかかる。
 製図板に敷かれた紙に、美しいラインを描いていく。
「アリオスは自営業じゃない? サラリーマンのように縛りはないじゃない」
「自営業だからこそ、ちゃんと締め切りを守ったりしねぇといけないの。俺の商売は、ある意味信頼で成立っているところがあるからな」
 アリオスはクールに言いながら、クリスマスなんてさほど重要ではないと捕らえている。
 それはほんのりと切ないところだ。
「クリスマスって騒げるのは学生時代ぐらいじゃない? だからとっておきのクリスマスをアリオスと過ごしたかったよ」
 小さな子どものように拗ねて言うと、アリオスに両手で頬を挟まれた。
 うにゅっと頬を寄せられて、潰れたあんまんみたいな顔にされる。
「勉強しろ? 俺の助手になるんだろう? 頑張ってやらねぇとダメだぜ」
「解っているよ」
 アンジェリークはぶつぶつ言いながら、アリオスの横に用意された机に向かった。
 アリオスと付き合い始めてから、成績が上がっているのは事実だ。
 だから両親も付き合いを許可してくれている。
「勉強、解らねぇことがあったら訊けよ。みてやるから」
「うん」
「それと、頂きもので、ザルに入ったレアチーズケーキが冷蔵庫に…」
 アリオスが言い終わる前に、アンジェリークは冷蔵庫前に直行していた。これにはアリオスも苦笑いを浮かべていた。
「うわあ! ざるチーズだよっ! これだったらまるごといけちゃうよっ!」
 アンジェリークが感嘆の声を上げると、アリオスが立ち上がってパントリーにやってくる。
「全部食え。俺は苦手だからな、そういう類のヤツ。コーヒー淹れるがお前もカフェオレで構わねぇか?」
「流石にそれは私がするよ」
 アンジェリークは請け合うと、手早くコーヒーを淹れた。エンジュほどではないが、かなりコーヒーを上手く淹れることが出来るようになってきた。
 これには、ほんの少しだけ自信を持っていた。
「アリオスは本当におやつは良いの?」
「豆もちがあったはずだから、それを…」
 アリオスが言い終わらないうちに、アンジェリークの瞳はキラリと輝いた。
「豆もちっ!」
「しょうがねぇな、豆もちもひとつやるよ」
「わあい! アリオス大好き!」
 先ほどの不機嫌顔はどこにいったやら。アンジェリークは、すっかりご機嫌顔になっていた。
 ゆったりとお茶の時間を過ごす。
 美味しい時間に笑顔になるのは、言うまでもなかった。

 クリスマスイヴ。
 アンジェリークは、アリオスのために手作りをした、レザーとシルバーのブレスレットを箱に入れながら、溜め息を吐いた。
「…仕事の邪魔にならない低度に、プレゼントを置いて来ようかな…」
 クリスマスイヴを一緒に過ごせないと拗ねているのは我が儘だということぐらい、アンジェリークには解っている。
 一緒に恋人へのアクセサリーを作ったエンジュは、レオナードがかき入れ時のために、デートどころか、一緒に働いている。
 そう思えば、我が儘なんて言えるはずなどないというのに。
 アンジェリークは溜め息を吐いた後、アリオスのアトリエへと向かった。
 プレゼントぐらいは受け取ってくれるだろう。
 アンジェリークがアトリエを訪ねると、アリオスは相変わらず仕事をしていた。
 図面製作が最終に入っているようだった。
 相変わらず無味乾燥のオフィスだ。
「ああ。来たか。まあ、ゆっくりしていけ」
「有り難う」
 アンジェリークが事務所に入ると、中は相変わらず閑散としていて、今日がクリスマスだなんて考えられなかった。
「適当にしておけ」
「うん。有り難う。宿題を持って来たからやることにするよ」
「ああ」
 アリオスは頷くと、また仕事に戻ってしまった。
 宿題をやって過ごすクリスマスイヴ。
 だがそばには大好きな男性がいる。
 それだけで本当は幸せなのかもしれない。
「アリオス、後でお茶をしよう? ジンジャーブレッドマンクッキーを買ってきたんだよ。アリオス、好きでしょう?」
「ああ。有り難うな」
 アリオスが薄い笑みを浮かべてくれる。
 それだけで本当は幸せなのだ。
 それに気付かなかった自分は、なんて我が儘なのだろうかと、アンジェリークは思った。
「アンジェリーク、しっかりとやれよ。解らなかったら訊いてくれたら良い」
「うん」
 アンジェリークは返事をした後、静かに勉強を始めた。

 ほどほど目処がついたところで、アンジェリークはお茶を用意した。
 アリオスにはブラックコーヒー、自分にはカフェオレだ。
 ふたりで少しだけクリスマス気分を味わって、再び勉強をした。
 だが、集中力が続くはずもなくて、アンジェリークはいつの間にか眠りに落ちていた。

「アンジェ」
 不意に声を掛けられて顔を上げると、アリオスがこちらを見ていた。
「…アリオス…」
「着いて来い」
 アリオスに手を握られて、アンジェリークは立ち上がる。
 アリオスの建築アトリエの屋上まで連れていかれた。
「ほらよ」
「わあっ!」
 アリオスが屋上に通じるドアを開いた瞬間、ブルーやグリーンでライトアップされた屋上庭園の風景が見えた。
 中央にはクリスマスツリーが輝いている。
 本当に美しくて、アンジェリークは言葉に出来なかった。
 綺麗すぎて、しばし、息を呑む。
 アリオスが用意してくれていたサプライズなプレゼントに、アンジェリークは泣きそうになった。
 こんなにも素敵なプレゼントは他にない。
 イルミネーションが涙で滲んで揺らいで見えた。
「…有り難う…。こんなにも素敵なイルミネーションはないよ…」
 なんとか笑顔をアリオスに向けると、頭ごと抱えるように抱き締めてくれた。
「…さあ、行こうぜ。とっておきのクリスマスイヴの食事を用意している…。って言っても、作ったのはレオナードだけれどな」
 アリオスは苦笑いを浮かべながら言うと、アンジェリークを連れて、住居部分のダイニングキッチンへと連れて行ってけれた。
「本当に美味しそうな食事だ!」
 アンジェリークは、ほかほかと湯気をあげている料理を見て、うっとりと微笑む。
 その様子を見てアリオスは、「ったく、お前は“花より団子”だな」と笑った。
 予想しなかったクリスマスイヴ。
 美味しい食事の後、アンジェリークはアリオスにプレゼントを手渡す。
「サンキュな」
 アリオスはアンジェリークからプレゼントを受け取ると、早速、丁寧に開けた。
「俺の好みだ。有り難うな」
 アリオスは甘く微笑んだ後で、今度はアンジェリークにプレゼントをくれる。
「…有り難う…」
「開けろよ」
「うん、有り難う」
 プレゼントを丁寧に開けると、そこにはダイヤモンドをあしらった天使の羽根のペンダントが入っていた。アリオスのプレゼントに、アンジェリークは泣きそうになる。
「有り難う…。嬉しいよ。何だか沢山のプレゼントを貰った気分だよ」
「そいつは良かった。アンジェ、まだまだ夜は長い。ゆっくり楽しもうぜ」
「そうだね」
 最高のクリスマスだよ。
 アンジェリークはそう思いながら、アリオスに笑顔を向けた。



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