Star Festival Remembered


 七夕で短冊に願いを認めれば、叶うと言われています。
 小さな頃から願いはたったひとつ。
 決まっています。

「ねぇママ!! 短冊にお願い書いてね! ”アリオスのお嫁ちゃんになれましゅように”って!」
「はいはい、おませさんなんだから」
 生まれてからの願いはたったひとつ。
 贅沢言ってません。
 それが叶ったらとても素敵なことだって、ずっと思ってた。
 子供用の浴衣を着て、笹を振り回しながらアリオスの家にいくと、アリオスが出かける準備をしている。
「アリオス!! 七夕様、しよ!」
「悪ぃな、アンジェ。七夕様は一緒に出来ねぇんだよ。俺はお友達と七夕だ」
「アンジェとは!!」
 必死にアンジェリークがねだるもの、アリオスは聞いてはくれない。
「今日は約束があんだよ。そのうちおまえとも”七夕”してやるよ」
「ホント!!」
 凄く嬉しくて、アンジェリークはぶんぶんと笹を振り回しながら、飛び上がって喜んだ。
「きっと! 絶対よ!!」
「ああ。指きりげんまんするか?」
「こっちがいい。かがんで!」
 小さな小さなアンジェリークは、アリオスに恥ずかしそうに手招きをして呼び寄せる。
「何だ?」
「約束」
 いっちょまえにはにかみながら言うと、頬に少しだけキスをしてくる。
「あ、あの、約束ね」
「約束な」
 まだまだ幼い妹のようなアンジェリークの行為に、アリオスはどこか愛らしさを感じた。
「じゃあ、七夕花火大会に行ってくる」
「行ってらっしゃい〜」
 アリオスを見送り、この日はみんなで西瓜を食べながら花火を見た。
 花火を見つめながら、いつかアリオスとふたりきりで花火を見に行くことを夢見る幼子だ。

 字が書けるようになっても、短冊に書く願い事は決まっている。
 ”アリオスのお嫁さんになれますように”。家の笹にも学校の笹にも書いているから、きっと叶うだろうと思う。
 毎年のように浴衣を着て、笹を片手にアリオスを尋ねる。
「アリオス〜、七夕様今年こそは過ごそうよ〜!」
「今年はダメ。夜からは美容室にインターンで入るからな」
「ケチ! ケチ! ケチ!!」
 幼子の頃と違って小学校5年生にもなれば、反論するようになる。
「しょうがねえだろ。仕事なんだからよ」
「七夕休暇取ればいいじゃない」
「はあ? 七夕休暇っておまえアホか。んなもんあるわけねえだろ」
 アリオスは呆れてものが言えないとばかりに溜め息を吐くと、アンジェリークの額を指で弾いた。
「おふくろが西瓜準備してるから食っていけよ。今年もな?」
「約束ちっとも果たしてくれないじゃない〜!!」
 凄く小さな頃にした約束をずっと覚えているアンジェリークである。
「しょうがねえだろ、大事なトピックスが多いんだからよ」
 またはぐらかすように頭を撫でられ、アンジェリークは少しがっかりとしていた。

 私もいつまでも子供じゃないのよ、アリオス・・・。
 仕事に行ってしまったアリオスを見送りながら、アンジェリークは切なく思っていた。

 17になる年の七夕、浴衣を着てアリオスのサロンに向かう。
 髪を上げてもらうためだ。
 今でも笹をちゃんと飾っており、今回も同じ願いごと。アリオスのお嫁さんになれますように。
 ただそれだけ。
「お願いします〜」
「ああ。座れ」
「うん!」
 アリオスが美容師になってからというもの、髪はずっとしてもらっている。
 髪を梳かした後、アリオスは器用に髪を結い上げていく。
「今日、花火大会には行かないの?」
「俺は忙しい」
 きっぱりと言われてアンジェリークはしゅんとする。
「誰と行くんだ? どうせレイチェルとだろ?」
「エルンストさんも。カップルで行くのに、私はひとりだもん」
 アンジェリークは未練がましくねだるように見る。
「まあ、エルンストは保護者だろうよ。女子高生ふたりのな。ちゃんとはぐれねえように気をつけろよ」
「もう・・・!」
 無駄口を叩いている間に、アリオスの手は素早く艶やかな髪を結い上げた。
「ほら出来たぜ?」
「うん、有り難う」
 鏡を見るとまんざらでもない仕上がりになっている。
「凄く可愛く出来てる! 有り難う!!」
 立ち上がり、嬉しそうに礼を言うと、アンジェリークはじっと艶やかな瞳をアリオスに向ける。
「だめ?」
「時間がねえからな、マジで」
「うん、やっぱり」肩を落とすと、仕方なく花火大会に行くことにした。
 やはり、七夕にある名物花火大会なだけあり、凄い人出だ。
 特にカップル率が高く、アンジェリークは少し寂しかった。
 花火自体は美しいのだが、いかんせん凄い人だ。
 もみくちゃになりながらの観賞となり、浴衣のアンジェリークはいささか辛い。下駄で足を踏まれてさんざんだ。
「きゃっ!」
 誰かに胸を掴まれかけて声を上げた瞬間、低い声が下りてきた。
「どこ触ろうとしてんだ!?」
 良く見ると、アリオスがそばにいて守るように立っていてくれる。
「アリオス・・・」
「す、すみませんっ!」
 痴漢未遂の男は、恐怖の声を上げてその場を立ち去った。
「アリオス、来てくれたんだ・・・。七夕一緒に過ごすなんて、初めてね…」
 しみじみと感慨深げに呟くと、嬉しそうにアリオスを見つめる。
「有り難う・・・。嬉しい凄く・・・」
「ヒマだからな」
 照れているのかさらりと言うのがアリオスらしい。
「アリオスのおかげで助かったわ。本当にどうも有り難う」
「ちゃんと気をつけろよ」
「うん」
 アリオスに守られるようにして、アンジェリークは花火を見る。
「初めて叶った、アリオスと一緒の七夕・・・。何度も嬉しいって言えるもん!」
 本当に心からの喜びを現すかのように笑顔をアリオスに向けた。
「花火、綺麗だな」
「うん」
 ふたりで花火を見ると、その美しさは倍以上になる。
「きっと織り姫と彦星の魔法が叶ったのよ…」

「アリオス、ごめん」
「ああ。痛むか?」
「大丈夫よ」
 脚の痛みのせいて、アンジェリークはアリオスにおんぶをされていた。
「------でもすげえ花火綺麗だったな。行って良かった」
「うん。そうね」

 今までの七夕で最高の想い出です。神様…。

 最高の七夕を過ごした翌年。
 アンジェリークがずっと願っていた夢が次の春には叶いそうである。
 今年の七夕はアリオスがお休みなので、彼のマンションのベランダで花火を見ながらの、ふたりっきりのロマンティックな七夕だ。
「今年はね、また新しい願い事と、古い願い事をお礼を兼ねて書かないと」
 アンジェリークは願いごとを書いて、思いを込めて笹につるす。
 ”アリオスのお嫁さんになりますように”〜有り難う。叶います〜
 ”アリオスといつまでも幸せに暮らせますように”
 ”可愛い赤ちゃんが出来ますように”
「欲張ってみっつなの。アリオスは?」
 アリオスがつるす願い事を見た途端に、アンジェリークは真っ赤になる。
 ”アンジェと年間1200発出来ますように”
「もう、バカバカ、えっちなんだから〜!!」
 恥ずかしそうにしながらアンジェリークはアリオスの腕の中に収まる。
「最高の女としたいって言うのは当たり前じゃねえか」
 しらっと呟くアリオスに、ただはにかんで拗ねるだけだった。
「でも七夕様って凄い威力。だって願い事を叶えてくれるんだもん」
「------アンジェ、幸せにするからな」
「うん…」
 アンジェリークはしっかりと頷きながら空を見上げる。
「私もアリオスを幸せにするわ」
 しっかりと呟くと、アリオスがそれに答えるかのように力強く抱きしめてくれた。

 ねえ、織り姫様、彦星様。
 私の願い事を叶えてくれて有り難う。
 今日は一年に一度のデートを思い切り楽しんでね。
コメント

今年の七夕は、雨にたたられちゃいましたね。
でも熱々のふたりにはそんなこと関係ないか(笑)



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