バレンタインは女の子のための大切なお祭。 よくぞ作って下さったと思わずにはいられない。 アンジェリークは、バレンタインに向けて、色々と考える。 やはり手作りチョコレートはポイントが高いと思うのだが、ついつまみ食いばかりをしてしまう香穂子にはかなりハードルが高い。 それはもう泣きそうなぐらいのハードルの高さだ。 「自分で作るとついつまみ食いしちゃっていつもなくなっちゃうんだよね…」 アリオスの誕生日もそうだった。 バースデーケーキを作ったが、つまみ食いで半分ぐらいを食べてしまったのだ。 「つまみ食いを止められたら良いのだろうけれど…」 アンジェリークはひとりごちると溜め息を吐いた。 アリオスへのバレンタイン。 出来たら手作りにしたい。 折角の恋人なのだから、出来たら手作り。 つまみ食いをしないようにするにはどうしたら良いのだろうかと、アンジェリークは真剣に考えた。 甘いものは本当に大好きなので、ついつまみ食いの度合いが高くなる。 普通に食事を作る時は、ここまでひどくはないのだが。 「レオナードさんかエンジュが方法知ってそうだし…、チョコレートの作り方も訊きたいから、訊きに行こうかな」 アンジェリークは自分自身に頷くと、レオナードがオーナーシェフを務める“天使の庭園”へと向かった。 「こんにちは!」 「アンジェ!」 アンジェリークが店の中に入ると、レイチェルとエンジュが既に店の中にいた。 恐らくはみんな同じ理由でここにいるのだろう。 アンジェリークは早速、友人たちの輪に飛び込んでいった。 「みんな、やっぱりバレンタインのケーキを作りに来たんだ」 「そうだよ。やっぱり手作りはポイントが高いからね☆」 レイチェルの言葉に、アンジェリークやエンジュは頷く。 レイチェルの恋人は、手作りというよりは、中の成分をかなり気にするだろうが。 「レオナードさん、美味しいチョコレートの作り方を教えて下さいっ!」 アンジェリークが懇願するように言うと、レオナードは満更でもないとばかりに、しっかりと頷いた。 「おう。お前らにピッタリなチョコレートケーキは、やはりビターで洋酒が効いたのが良いだろうな」 ビターで洋酒が効いたチョコレートケーキ。 聞いているだけで涎が出そうだ。 「美味しそうだね」 アンジェリークがうっとりとしながら呟くと、誰もが笑う。 「じゃあ今日はひとり二つずつ作って、ひとつは自分用にするか?」 「嬉しいよー」 アンジェリークは思わず跳ね上がる。 これならばつまみ食いをしなくても大丈夫だ。 「大食い娘のつまみ食い対策にはちょうど良いだろ?」 「そうだね」 レオナードの言葉に、誰もが頷いていた。 ビターチョコレートケーキの製作が始まる。 生地には、高級洋酒で漬けたドライフルーツを練り込んでいく。 「何だかドライフルーツがとっても美味しそうだよね」 アンジェリークは甘いアルコールの香りを嗅ぎながら、ついうっとりとしてしまう。 「ちょこっとだけ、つまみ食いしても良いかな?」 アンジェリークはお伺いを立てるようにレイチェルに訊く。 「もう、しょうがないね。ほんのひとかけだけだよ? それ以上食べたら、あんた酔っ払ってしまうよ」 「うん。酔っ払うほどは食べないよ。レイチェル」 アンジェリークはドライフルーツを口に入れ、その甘い美味しさに嬉しくてたまらない。 「美味しいよ。だけどアルコールがかなりキツいね」 「…まあね…」 エンジュは苦笑いを浮かべながら、幸せに笑うアンジェリークを見つめていた。 「おいっ! 大食い娘っ! お前、ドライフルーツをつまみ食いしただろっ!」 レオナードは慌ててアンジェリークのところにやってくる。 アンジェリークも顔が熱くなってしまい、何だかふわふわして気持ち良くなる。 かなり酔いが回ってしまっているようだ。 ふらふらしていると、慌ててエンジュが水を持ってきてくれた。 「アンジェ、水を飲んでっ!」 アンジェリークは目をとろんとさせながら、水をゴクゴクと飲んだ。 すると随分と酔いが解消されたように思えた。 「ったく。もうドライフルーツのつまみ食いなんかをするなよ!」 「はい」 アンジェリークは舌をペロリと出すと、再びケーキ作りに励んだ。 ケーキの生地をハートの鉄製の型に流し込んで、大型オーブンに入れる。 六つの愛が籠ったハートケーキだ。 焼いている間、今度はコーティングのチョコレートを作ったり、ラッピングの準備をしたりする。 その間も本当に楽しくて、大好きなひとのために焼くケーキは、本当に特別なのだと感じた。 「ケーキが焼けたぞ!」 焼いたケーキにチョコレートをかけてコーティングをする。 なんて美味しそうだと思いながら、後はコーティングが固まるのを待った。 出来上がったひとつは味見にと自分達で食べるのだ。 そのお供は、レオナードがブレンドをした紅茶だ。 ラッピングが終わり、いよいよチョコレートケーキの試食に入る。 アンジェリークにはそれが楽しみで、楽しみでしょうがなかった。 「わーいチョコレートケーキだよー」 「大食い娘、味見はそのケーキだけにしておけよ。アリオスの分は食うなよ」 「解っていますよーだ」 アンジェリークは明るく答えたが、レオナードにはイマイチ信用はないようだった。 楽しい楽しいティータイムは、とっておきのチョコレートケーキと紅茶。 本当に美味しくて美味しくて、アンジェリークはニコニコと微笑んだ。 ペロリとハート型チョコレートケーキを平らげると、何だかまた顔が熱くなる。 ふわふわしてきて気持ちが良くて、直ぐに酔っ払っていることに気付いた。 「…酔っ払ったみたい…」 「アンジェ!?」 アンジェリークはにんまりと笑うと、そのまま突っ伏してしまった。 「アンジェがチョコレートケーキを食って酔っ払った? 解った迎えに行く」 アリオスは携帯電話を切って溜め息を吐く。 アルコールが効いたチョコレートケーキを試食して、酔っ払ってしまうなんて、全くアンジェリークらしい。 アリオスは苦笑いを浮かべると、直ぐに車を“天使の庭園”に向かわせた。 「荷物を取りに来たぜ」 「おう、こっちだ」 店に入るなり、レオナードが中に案内してくれる。 アンジェリークはと言えば、控室のソファに気持ち良さそうに寝ていた。 「じゃあ貰っていくぜ」 アリオスはアンジェリークを抱えて、肩に乗せる。 「アリオス、忘れ物だ」 レオナードが綺麗にラッピングされた紙袋を手渡してくれる。 「何だ?」 「大食い娘が作ったバレンタインチョコレートケーキだ。これを食った後は、車の運転はするなよ?」 「了解」 アリオスは紙袋をレオナードから受け取ると、アンジェリークを連れて店を出た。 何かが揺れている。 アンジェリークが心地好い気分で目を開けると、アリオスが車を運転している姿が目に入った。 「アリオス?」 「チョコレートケーキを食ったぐらいで酔っ払うなよ」 アリオスに言われて、アンジェリークはようやく思い出す。 チョコレートケーキを食べて、そのまま酔っ払って眠ってしまったのだ。 「あ!」 作ったチョコレートケーキがどうなったのかと思って、慌てて探していると、アリオスが紙袋を掲げた。 「これか?」 「うん。だけどそれはアリオスにあげる予定だったから…」 「サンキュ。確かに頂く。飲酒運転は拙いから、食べるのはうちに帰ってからにする」 「うん」 「だけど味見はするか」 アリオスはそう言うと、車を路肩のところに停める。 不意に抱き寄せられると、甘い甘いキスが唇におちてきた。 キスの後、アンジェリークはアルコールよりも酔っ払ってしまう。 「甘いチョコレートだな。有り難うな」 アリオスの甘い言葉に、アンジェリークは頬を染めて頷く。 これぞ甘い甘いバレンタイン。 |