White Sweet Present


 ホワイトディ。それはとても素敵な響き。バレンタインの告白の余韻が覚めやらぬ中、熱い告白返しがある。
 アンジェリークもご多分に漏れずに、この日を楽しみにしていた乙女のひとり。
 恋人のアリオスとは付き合って一年と少し。まだまだラブラブが似合う時期ではある。アンジェリークももう高校を卒業だから、お互いにもう一歩踏み出したい時期ではある。
 まだ恋人同士に成り立てのエンジュとレオナードも羨むほどの熱々ぶりだ。
 今日からはアリオスのところで事務のアルバイト。去年プレゼントしてもらった作業着を着ていそいそと仕事だ。
 アンジェリークは結局のところは非力なので、いつも事務な仕事しか回って来ない。それが少し不満でもある。
 早くアリオスの仕事をきちんと手伝える身分になりたい。それどころか、出来たら”お母ちゃん”と呼ばれるような身分になりたい。
 仕事を手伝う度にひどくそれを思うようになった。
「アンジェ、おまえに聞きたいことがあるんだが、構わねえか?」
「うん。いいよ」
 アリオスに呼ばれて、アンジェリークは設計室に向かう。ここはどこかアリオスの”聖地”の香りがする。建築士としては超一流の評価を受けているアリオスの、言わばブレーン的な場所だった。徹底的に現場までこだわるアリオスの牙城だ。
「なあ、おまえさ、もし、おまえが自分の好きなように家の間取りを考えていいって言われたら、どんな感じにする?」
「何か参考?」
「ああ、参考だ。おまえのへんてこな感性も少しは役に立つかと思ってな」
「ヘンテコじゃないわよ」
 少しだけむっとしてアンジェリークはアリオスに言う。いつものように口を尖らせる姿は愛らしい。
「うーん、アリオスの監修した建築ゲームを使って建てたやつがいいなあ」
「データがあるのか?」
「うん! 事務が暇な時にやってるから…」
 ここまで言ってアンジェリークはしまったと思った。サボっていたことがこのひとことで明白になる。アリオスは苦笑する。
「…サボってたのは、懲罰に値するかもしれねえが、与えた仕事はちゃんとやっているからな、おまえ」
「懲罰って?」
「おまえだけのやつは、決まってるだろう?寝かさねえよ」
 甘い微笑みと共に凄いことを言われ、アンジェリークは真っ赤になる。
「…アリオスが力仕事くれないからだもん」
 アンジェリークの言い分にまた苦笑せざるをえない、アリオスであった。いくら本人がやりたがっても、筋肉隆々な仕事をさせるわけにはいかない。
「ちょっと待ってね」
「ああ」
 アンジェリークは自分が事務用に使っているパソコンからデータを出して、それをプリントアウトする。全く自分とアリオスが住みたい家を設計したので、予算なんて度外視した物件だ。
「アリオス、これだよ」
 きちんとプリントアウトしたものをアリオスはしっかりと受け取る。
 それを見るなり笑った。
「随分、家族が仲良く出来そうな家だな」
「家族団欒は大事だもの。後ポイントは、夫婦がいつまでもらぶらぶでいられるようになっていることかな」
「確かにな。なんか子供部屋が多いな」
「あ、それね、やっぱり子沢山なわいわいとした家庭がいいなあって。庭は縄跳び遊びや犬が飼えるぐらいの広さがあって、後、桜の木があるといいなあ」
 すっかり天使は夢語り。
 アンジェリークが一生懸命うっとりとするのを見つめながら、アリオスは優しい瞳になっていた。
「…こんな場所で住めたらいいねえ…。アリオスと家族皆でね…」
 アンジェリークは愛らしく憧憬の溜め息をつくと、気持ちは遥か遠くに向いているようだった。
「まぁ、参考に見させてもらう。明るい団欒をテーマにするから、色々と意見を貰えると嬉しい」
「うん!」
 アリオスの作品はただでさえも素敵だ。それに自分の意見が加われば、もっともっと素晴らしいものになるに違いない。きっと住みたくなる家かもしれない。
 アリオスのお嫁さんとしてこの春から永久就職をしてしまいたかったが、ここは我慢の子で短大に進学を予定している。だがいつかは、アリオスが設計した家で家族で暮らすのが、アンジェリークの夢であった。

 それからと言うもの、アンジェリークはアリオスに度々呼ばれて意見を聞かれることが大きくなった。
 建築士としてのアリオスの意見とアンジェリークの意見が合わさり、素敵な家が作られていく。
「やっぱり、和室は外せないと思うよ。良い感じだもん」
「窓はもう少し大きくして、開放感のある明るい感じにしたいと思うがどうだ?」
「うん! リビングを”サンルーム”にしたいなあ!」
 ふたりで話し合いながら、設計図に落としていく。そんな作業がアンジェリークは堪らなく幸せだった。
 アリオスと共同作業で作り上げていく過程が、ホントに幸せだった。
「アリオス、このお家は、いつ建てられるの?」
「まあ、近日中だな。クライアントのオッケーを貰ったら、レオナードが棟梁で建てる予定だ」
 アリオスは煙草を無造作に口にくわえると、火をつけ、紫煙を吐く。
「経過とか、建て終わった瞬間とか、見られるといいな…」
「見られるぜ。ちゃんと見せてやるよ」
 アリオスがしっかりと請け合ってくれたので、アンジェリークは明るく頷く。とても嬉しい。アリオスの仕事に関われて、その上に、経過まで見せて貰えるのだから。
「楽しみね、どんな家に仕上がるか…。私も証人になれるのが嬉しい」
「そうだな。家はただの器に過ぎない。住むことによってドラマティックな風景を産む。家の良さっていうのは、住んでから評価が出るからな。 だから、個人の家の設計は凄く気を遣うんだ。家は人間が命をかけて建てるんだ。こちらもそれそうおうの力を込めて、精一杯のものを設計してやらねえとな」
 アリオスの建築士としての心得を聞き、アンジェリークは心から嬉しくなる。そんな素敵な考え方をする建築士の手伝いが出来て嬉しいと思う。
「サンキュ」
 屈んでくれたアリオスのキスはいつもよりも甘くて幸せの味がした。

 ホワイトデーの当日は、郊外でのデートだった。余り遠くないが環境の良い場所だ。
 アリオスが車を出してくれて、郊外の公園に梅を見に行った。
 こういった自然を見るデートもアンジェリークは大好きだ。
 しかも、公園では梅祭中で、素敵な花と共に、演歌の歌謡ショーやら屋台が出ているので、アリオスたちにはとても楽しみなデートスポットであった。
「アリオス、梅ドレッシングだって! 味見しようよ!」
「おまえはホントに試食が好きだよな」
「試食してみないと良さは解らないじゃない」
 確かにそれは一理ある。アリオスはあまり試食をしなかったが、アンジェリークは積極的試食をし、「美味しい」と言っては笑った。アリオスは結局、その笑顔が可愛すぎて、買い与えてしまう始末だった。
 次々に色々と試食しては買う。梅ドレッシング、梅キャラメル、梅フリカケ、梅干し、梅ジャム、梅コブ茶…。
 いつしかアンジェリークの手には大量の梅製品が持たれていた。
「アリオス、凄い気前が良いね〜。素敵なホワイトデーのプレゼントを有り難うね」
 ほくほく顔のアンジェリークに、アリオスは意味深に微笑む。
「あれはホワイトデーのプレゼントじゃねえよ。ちゃんとしたものは用意してある」
「ちゃんとした物?」
 この梅製品攻めでアンジェリークは充分に満足だったので、目を丸くした。
「いいから。ここから少しドライブしねえか?」
「うん、いいけれど」
「だったら少し着いてこい」
 アンジェリークは頷いて、アリオスの後をゆっくりと着いていく。
 早目に車に乗り込んで、公園を後にした。
「どこに行くの?」
「秘密」
「ケチ!」
 アンジェリークは相変わらずの好奇心が旺盛で、アリオスに色々聞いてくるが、答えてはやらない。
「行けば解るぜ…」
「うん」
 アンジェリークは期待に胸を膨らませながら、アリオスとのドライブを楽しむことにした。

 アリオスとのドライブは意外に短く、車は公園近くの閑静な住宅街に入っていく。
 まだ整地したての土地に、アリオスは車を乗り入れた。
「着いたぜ?」
「ここは、他の人の土地じゃないの!?」
「いいや、それは心配すんな」
 アリオスはあっさりきっぱりと言いー一通の封筒を持つと、車の外に出た。
「待って!」
 アンジェリークも慌てて外に出て、アリオスの後を着いていく。
「アンジェリーク、これが俺からのホワイトデーのお返しだ」
「え?」
 息を呑んでいる中、アリオスに封筒を手渡される。アンジェリークは何が何だか解らずに、それを受け取った。
「何、これ…」
「見たら解る」
「うん」
 言われた通りに封筒を開けてみた。そこには、一通の設計図が入っている。それを見るなり、アンジェリークは驚きを隠せなかった。
「これ…」
「そう、あの時の図面だ」
 アンジェリークは更に図面に見入って驚く。
 しかも”アリオス・アンジェリーク邸となっている
「アリオス…」
 もう一度、今度は涙目でアリオスを見つめた。
「設計図を基にして、ここに春から家を建てるぜ。おまえの意見を聞いた家を造るからな。この家が出来たら一緒になろう。お前のノンキな笑顔で家を幸せに満たしてくれ。これが俺からの”ホワイトデー”のお返しだ」
 艶やかに優しく光るアリオスの眼差しが、アンジェリークの心に真っ直ぐと入ってくる。
「アリオス…!!!」
 アンジェリークはただひとこと愛を込めてアリオスの名前を呼ぶと、その腕の中に飛び込んだ。
 温かく逞しい胸。
 ずっと見守って欲しいと思う。
「…アリオス…。幸せにするからね」
「俺もな」
 それはこっちの台詞だとばかりにアリオスは苦笑をすると、アンジェリークを強い力で抱き返す。
「この辺りは春は桜でそれは美しいらしいからな…。一緒に見よう」
「うん…」
 アンジェリークは桜に囲まれた家を想像する。
 来年の今頃は、きっとアリオスとこの桜並木を幸せに見上げていることだろう。
 アンジェリークは最高のプレゼントを貰ったこの日を絶対に忘れないと思いながら、アリオスの腕の温かさに酔いしれていた------
コメント
ドカタシリーズの幸せなホワイトデーです。
幸せなふたりです。
 オチは某ゲームのラストが影響か(笑)





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