春だと言うのに、まるで夏の暑さだ。暑くなれば、なるほど、女の子は大胆になれる。 アンジェリークもまたそんな女の子のひとりだ。 「暑いから、今日はお気に入りのサマーワンピースにしようかな?」 フレアーのミニでトップはペアトップ。大胆だが、全体的には細くて、胸だけが大きなアンジェリークには、全くぴったりなスタイルだ。 すんなりと伸びきった脚を惜し気もなく出して、後は華奢なミュールを履けば完成。 初夏のデートにぴったりな装いだ。 後は黄色いリボンで、髪をポニーテールにして、ほんの少しだけリップを塗れば完成。 これでアリオスは、気に入ってくれるかしら。おかしくはないかしら。 アンジェリークは、姿見の前で、何度もポージングをしながら、確認をしていた。 連休にはきっとピッタリな装い。 アリオスと手を繋いで、公園を闊歩出来れば、どんなに素敵だろうか。 アリオスとのデートを考えるだけで、瞳がキラキラと輝くのが不思議。誰よりも可愛くなったような気分になる。まるでお姫様みたいだ。 昔見た、茶目っ気たっぷりな気品に溢れたプリンセスが主人公の映画を思い浮かべながら、アンジェリークはすっかりそのお姫様になった気分だった。 それだけで、背筋がぴんと伸びてくる。 アリオスもあの新聞記者のように…。いや、アリオスはそれよりもずっとずっとカッコイイ。そう思うのは、やはり恋をしているから? アンジェリークは散々鏡の前でポージングばかりをしていたので、折角早目に支度を終えたのに、結局はいつも以上にギリギリになってしまった。 予め用意をしていたバッグを慌てて手に取って、アンジェリークはアリオスとの待ち合わせ場所に向かった。 電車に乗っている間も、何度も爪先立ちをしてしまう。ウキウキが最高潮に来ている証拠だ。 駅に降り立ち、アンジェリークは走ってアリオスに突進していく。遠くにいても、アリオスがどこにいるかぐらいは、アンジェリークには直ぐに解る。アリオスと美味しい食べ物に関しては、犬よりも嗅覚が鋭いのである。 サングラスをかけ、シンプルなTシャツとジーンズだけのアリオスは、本当に魅力的だ。 こんなにシンプルな装いでも、より素敵に見えるのは、アリオスが素晴らしく素敵だからだと、アンジェリークは思って疑わない。 アンジェリークはアリオスの鍛えられた躰に抱き着くと、その顔を見上げた。 「ちゃんと間に合ったでしょう?」 「またギリギリだぜ。ったく、しょうがねえな」 アリオスは悪態をつきながらも、そのサングラスの奥は明らかに笑っている。滲んだ優しさが、アンジェリークは大好きだ。 「おまえ、夏みてえな恰好してんな。夏休み中かと、勘違いしちまうぐれえだぜ」 「だって、今日は暑いんだもんー」 アンジェリークがぱたぱたと顔の周りを手で扇ぐと、アリオスが喉を鳴らして笑った。 「ホントにおまえ、犬みてえだな」 「ほっといてよーぶー」 アンジェリークが口を尖らせると、アリオスは更に笑った。何だか大人の余裕ぶられた笑みは、アンジェリークを切なくさせる。 ちゃんと私はあなたと釣り合えているかしら? 「暑いな…。ったく放れろよ」 アリオスが宥めすかすようにアンジェリークを放すものだから、仕方がなく離れる。 「あちぃ…。こんなに暑いと、マジで汗がだらだら出ちまうなあ」 「水浴びもいいかも!」 「プール開きは、流石にまだのところが多いぜ」 ふたりはとりあえずは歩き出すことにした。 まだまだ本格的な夏は来ていないせいか、行き交う風は爽やかで心地が良い。 ふと、道なりに数件のアイススタンドが出ており、アンジェリークはそれを興味深げに見つめる。 「ジェラート食べたい」 アンジェリークがほんの少しだけアリオスにねだるように言うと、その中にあるフレーバーケースに顔を入れた。 「やっぱり王道のバニラがいいっ!」 「ったく、食い物のことになると、瞳の輝きが違うな」 アリオスに何を言われても、甘いアイスクリームの誘惑には勝てない。 「バニラで良いのかよ?」 アリオスが乱雑にポケットから財布を取り出してくれたのが、何とも言えずに嬉しい。 「うん! だからアリオス大好き!」 現金なアンジェリークに、アリオスは苦笑するばかりだ。 アリオスがコーンのバニラデザートを買ってくれたので、アンジェリークはそれを歓声を上げて受け取る。甘い誘惑は、何よりも女の子の感性を刺激してくれる。 一口食べると、甘い誘惑が広がり、プリンセスにでもなった気分になる。 「美味しいよ、凄く!」 「おまえが言うと無茶苦茶甘そうだ」 「甘い誘惑は受けずにはいられないの」 アンジェリークはにんまりと幸せそうに笑いながら、ジェラートを舐める。冷たくて甘い誘惑には、屈するしかないようだ。 「アリオスも一口食べる? 凄く溶けちゃうぐらいに美味しいよ!」 アンジェリークは口の周りにほんのりとジェラートをつけて、笑う。まるで小さな子供みたいに。 「いい。甘いのは」 「遠慮しないで、ほらっ! きゃあ!」 よそ見をしていたせいで、アンジェリークはお約束にも足を取られてしまった。バランスを崩し、そのままこけそうになる。 それをまた、アリオスがナイト宜しく受け止めてくれた。 「ったくおまえはいつもいつもこけやがって。何回つまずいたら気が済むんだよ」 「アリオスといると、ウキウキしちゃうからだもん」 「ったく、おまえは」 アリオスは口では悪態をついているくせに、しっかりと強く抱きしめてくれる。アンジェリークは、息が出来なくなる感覚を、”幸せなこと”だと認識する悪いくせがついてしまう。 「おまえのジェラートも、一緒に守ってやったぜ」 「うん。有り難う。貴重なものだと思って食べるね」 「ああ」 今度は先ほどよりも、もっと強く指を絡ませあって、ふたりは歩く。暑くなってきたので、恋人繋ぎが適当かと思われるが、ふたりの場合はより親密を感じる為に、もっとしっかり繋ぎあった。 アンジェリークは心から幸せを感じながら、くりりとした大きな瞳を輝かせながら、ジェラートを食べる。 「美味しいよ。アリオス」 「そいつは良かったな」 初夏のキラキラとした眩しいぐらいの光を感じながら歩くのは、人生の春を進んでいるようだ。 「昔な、見た映画で、おまえみてえに美味しそうにジェラートを食べるプリンセスがいたっけな」 「”ローマの休日”でしょ? あれ、私も好きなんだ!」 アンジェリークは、アリオスが意外にもクラシカルな恋愛映画を選んだので、凄く嬉しく感じた。 「プリンセスが可愛くて、凄く良かった! あの映画は本当に素敵な恋愛を見せてくれるわ」 アンジェリークは、アリオスも気に入っているとばかりに思い、うっとりと話をする。 だが、アリオスの答えは違っていた。 「確かにプリンセスは可愛いかもしれねえが、あの映画、俺は気にいらねえ」 アリオスの不機嫌な声に、アンジェリークは驚いてしまった。 「確かに、あの映画は悲恋だけれど…」 「ホントに愛した相手を、”身分が違う”ってだけで、そう簡単に諦められるかよ。られねえだろう? 普通は」 「確かに」 もし自分の身にあんなことが起こってしまったら、切ない上に苦しくてたまらないだろう。自分なら我慢出来ないだろう。 「そうよね。確かに愛し合っているのに、もう一生会えないとなったら、切な過ぎるわ」 自分に置き換えたら、涙が出そうになった。 「やっぱり、もしそうなら哀しいわ…。アリオスと私がそういう運命なら…」 「運命なら?」 アリオスが低い声で繰り返してきた。 「女王になるなら、愛するひとと身分などを越えて幸せになれるように、努力をするわ」 アンジェリークは素直に自分の気持ちをアリオスに届ける。新聞記者がアリオスなら、どんなことをしても、そうしたかもしれない。 「それを聴いて安心した。おまえは、映画のプリンセスより良い女だよ」 滅多に聞くことが出来ないアリオスのストレートな褒め言葉。アンジェリークははにかみながらも幸せを噛み締めて、笑顔を向けた。 少しだけいたずらっ娘のような瞳をアリオスに向ける。 「だって、私はアリオスに惚れて貰っているもの。それは最高に素晴らしいことじゃない」 アンジェリークが小悪魔のように言うと、アリオスはジェラートよりも甘いキスで、それを答えてくれた。 |
コメント 心に栄養が欲しいときは、いつでもオードリーの写真集や、映画を見るようにしています。 わしなりのストレス発散幸せタイムです。 その中でも、お茶目なプリンセス姿が清楚だった「ローマの休日」を今回はテーマに選んでみました。 |