China Town


 長い連休でのアリオスとのデート先に選んだのは、港の見えるお洒落な街。
 潮の風をいっぱい吸い込んで、とても心地良い。
 だが、今日は風速がきつくて少し大変。
 折角、髪を綺麗にしたのに風のせいでぐちゃぐちゃだ。
「凄い風ね! 飛ばされちゃいそう!」
「おまえが飛ばされるはずねえだろうが」
 くつくつと喉を鳴らして笑うアリオスが憎らしくて、アンジェリークはわざと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「もう、知らないっ!」
 その瞬間、今度はかなりな強風が吹き付けて、アンジェリークの華奢な躰が押し戻される。元々足元があまり覚束ないアンジェリークは、その拍子に躰のバランスを崩した。
「きゃっ!」
「アンジェ!」
 崩れてしまう寸前で、アリオスの逞しい腕に支えられ、甘いどきどきと冷たい汗が流れるどきどきが、アンジェリークの中で交差した。
「ったく、危なっかしいやつだな…」
「アリオスがあんなに冷たいことを言うからよ」
 拗ねるように言うと、アリオスは苦笑する。その表情がアンジェリークを魅了させ、本当にズルイと思う。
「ったくおまえはいつまで経ってもお子様だな」
「そのお子様にえっちなことをしているのは誰よ!」
「さあな」
 再び、アリオスは人を食ったように喉をくつくつと鳴らして笑うと、アンジェリークの躰をしっかりと背後から抱き締めた。
「これでいいか? 天使様」
「歩けないじゃない…」
 艶のある甘い声で、アンジェリークが言うと、アリオスは更に抱きしめてくる。
「…あっ…!」
「じゃあこれは?」
「もう! アリオスってばふざけてばっかり!」
 アンジェリークが怒ると、アリオスは今度は歩けるようにと、ちゃんと手を繋いでくれた。
「これはどうだ? お姫様?」
「まあ、いいわ」
 それには、アリオスは苦笑するように笑った。

 お昼時にはまだ早いというわけで、先ずは、人形の博物館に足を運ぶ。
 勿論、アンジェリークの好みだ。
 ふたりは仲良く展示室に入り、様々な国の人形を見て回った。
「見て、見て! 凄い! あれドールハウスよ! 可愛くて立派ね! こんな家に将来は住めるといいなあ」
「ほら、あれが寝室だぜ? おまえと俺のな?」
「もう、バカバカ!」
 端から見れば完全なるバカップルなふたりの会話に、展示室の気温も些か上がったようだ。
 たっぷりと人形を堪能した後、ふたりは中華街へ向かう。今日は風が強いので、アンジェリークはアリオスにしっかりと捕まっての散策になった。
「うわあ! 凄い人達!!!」
 やはり、世間は長期連休なだけあり、観光スポットの中華街はかなりの人間でごった返していた。
「どこからこの人間がわいてくるんだろうな…」
 アリオスは半ばうんざりしたように溜め息混じりに呟く。
 確かにアンジェリークもそう思う。
 かなりの人間がいるが、そこは食べ物大好きなアンジェリークだ。あらゆるものに目移りしていた。
「アリオス、マンゴージュースがあるよ! あっちには杏仁豆腐のソフトクリーム!」
「はい、はい。デザートはちゃんと飯を食ってからだぜ? アンジェ」
 アリオスは瞳は笑いながらも、呆れたように言う。それがアリオス流なのだということをアンジェリークはちゃんと知っている。優しさが滲んでいるのが、とても心地良かった。
「アリオス、あれは! マンゴーのドライフルーツ! あ、プーアル茶もあるよ! あっちには甘栗、こっちには中華食材だ! イッパイお買い物しないとね!」
 アンジェリークが欲しがるものは、見事に食材ばかり。らし過ぎるのか、アリオスはご機嫌に笑ってくれていた。
「買い物は後だ。荷物でいっぱいになっちまうからな。先に腹ごしらえだ」
「うん! アリオス!」
 アリオスにしっかりと捕まって、人込みを一生懸命歩くが、中々先に進まない。
「おい、おまえはホビット族なんだからな、ちゃんと捕まっていろよ? 迷子になっても小さくて解らねえからな」
「アリオス、酷い〜! アリオスにかかったら、女の子はみんなホビットじゃないっ! あなたは自分が何センチあるか解っていないでしょう! 全くもう!」
 アンジェリークはぷんすかとすねると、アリオスにそっぽを向く。それを見て、彼がまたくつくつと笑った。
 暫く歩いて、香港飲茶を食べさせてくれる店に行ったのは良かったものの、かなりの人が並んでいた。
「マジかよ!?アンジェ、他に行くか?」
 アリオスは明らかに苛々しているようだったが、アンジェリークは美味しいものをありつけるなら並んでも嬉しいと思う。
「良いよ。並ぼう。アリオス、どうせどこ行っても同じだしね。それより美味しいところに並んでいるほうがいい」
「まあ、そうだけどな」
 結局、店そのものがごぢんまりとしていたこともあり、ふたりは1時間近く並ぶことになった。
「凄いね、やっぱり連休って感じがする」
「まあ、食いしん坊のおまえにはたまらねえ拷問かもしれねえが、待ったかいがあるってぐらい、一杯食わせてやるからな。楽しみにしていろ?」
「うん!」
 このままパラダイスが待っているかと思うと、それぐらいはへっちゃらに待てると思うアンジェリークであった。
 ようやく店内に入ることが出来て、一番たっぷり食べられる飲茶コースを選ぶ。アリオスはビール、アンジェリークにはジュースだ。
「わー! 美味しそう! いただきまーす!」
 直ぐに出て来た注文の品を、アンジェリークは大喜びで平らげていく。そのスピードと言えば、正直、マッハ級だ。
「おまえホントに旨そうに食うよな。見ているこっちが気持ちが良いぐらいだぜ。もしよかったら、俺の分を食ってもいいぜ?」
「有り難う!」
 アリオスはそれなりの量を食べて、どちらかと言えば、ビールを飲んで楽しんでいるようだ。
 アンジェリークはいっぱい食べながら、アリオスのものを摘む。美味しくて、どんどん食が進んだ。
「まだ食うか? レタス入り炒飯なんてどうだ? 後は大根餅とか…」
「うん!」
 アリオスが直ぐに頼んでくれて、アンジェリークはほくほくだ。
 どれぐらい食べたか自分でも把握出来ないほど食べまくる。
 アンジェリークの辞書には”ダイエット”という文字は、今の所ない。
「おまえぐらい食いっぷりが良いのも、見ていて気持ち良いな。食えるだけ食え」
「だからアリオス大好きなの!」
 屈託なくアンジェリークが明るく言うと、アリオスは甘い微笑みを浮かべてくれた。
 結局、アンジェリークは蒸篭の丸ビルが作れるほど積み上げ、満足げに微笑む。
「美味しかった! 待ったかいがあった!」
「そいつはよかったな」
「うん! 今度は食材ね!」
「はい、はい」
 人込みに入り、アンジェリークは俄然と瞳を輝かせる。やはり、食べ物大好きなので、腕が鳴る。
「アリオス、あれ、プーアル茶と干しマンゴーだ!」
「買うんだろ?」
「うん!」
 干しマンゴーを五袋とプーアル茶を三キロ買い求めた後、今度は、アイスクリームスタンドに目が行く。
「アリオス、杏仁豆腐のアイスクリームよ!」
「食うか?」
「うん!」
 アリオスは苦笑しながらも、スタンドでアイスクリームを買い求めてくれた。それがとても嬉しい。
「ほら」
「有り難う!」
 アリオスに買って貰ったアイスクリームと思うだけで、とても美味しく感じる。アンジェリークは本当にとろけるような表情でアリオスを見た。
「良い表情するな?」
「だって凄く美味しいんだもん。アリオスも食べる?」
「じゃあ貰うぜ?」
「どうぞ」
 アンジェリークがアイスクリームを差し出すと、アリオスはそれに見向きすることなどなく、いきなり唇に掠めるようなキスをしてきた。
「あ…」
 驚く時間も僅かなほど、一瞬だった。
「確かに美味いな」
「もう…。誰かが見ていたらどうするのよ?」
 アンジェリークは真っ赤になりながら、俯く。人込みで僅かな隙を突いてキスをするなんて、やはりアリオスは大胆不敵だ。
「誰も見てねえよ。みんな観光に夢中だからな」
「…そんな問題じゃないもん」
 アンジェリークが恥ずかしがればがるほど、アリオスはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「あ、アリオス、あれ!」
「あ?」
 恥ずかしがっていたのもつかの間、アンジェリークは椰子の実ジュースを指差してうっとりと見つめる。
「あれ飲みたい」
「ったく、あんな甘ったるいもん、良く飲めるよな」
「甘いんだ! 益々飲みたい!」
「しょうがねえな。何処にジュースを入れるところが残っているんだよ」
「別腹」
 予想していた台詞にアリオスは溜め息をつくと、結局はジュースを買ってくれた。アンジェリークは、椰子の実にストローを挿した形がいやにお気に入りで、何度も楽しそうに撫でた。
「いただきます!」
 一口飲んで、アンジェリークの口は止まる。へんな表情をして、眉をしかめた。
「あんまり美味しくない…」
「だから言っただろうが」
「口直しがいるわ」
 そう言ってアンジェリークは辺りをきょろきょろとすると、目敏い視線は、ひとつのものを見つける。
「アリオス! マンゴージュース!」
「あれで口直しをするのかよ!」
「うん!」
 正直にコクコクと頷くアンジェリークに、アリオスは何度目か解らない溜め息をはいた。
「しょうがねえな。おまえは全くよ」
「有り難う!」
 アリオスはアンジェリークの手を引いて、ジューススタンドに連れて行ってくれた。
「ほら」
「わーい!」
 今日は何度アリオスにものを買ってもらっただろうか。それが悪いような、幸せのような気がした。

 更に、ホタテ貝柱などを買い求め、アンジェリークは沢山の食材にすっかりご満悦である。
 夕方にもなって、ようやくふたりは中華街を出た。
「今日は楽しかったね」
「そうだな」
 ふたりは手をしっかり繋いで、お互いに荷物を持っていく。
「今日、買ったものでイッパイごはん作るね」
「ああ、ちゃんと美味いものを作ってくれよ」
 アリオスが少し茶目っ気溢れた顔で言うと、アンジェリークは拗ねるように唇をすぼませた。
「ちゃんと美味しいものを用意してくれるのは解っているからな」
「だったら良いけど」
 アンジェリークが拗ねながら言うと、アリオスは意味深な微笑みを浮かべる。
「おまえ以上に美味いもんはねえよ」
「もう…」
 恥ずかしさと幸せさを滲ませた視線になると、アンジェリークは返事の代わりに頬にキスをした。
「私の甘いご馳走もあなたよ?」
コメント

アリコレ中華街編です。
アンジェならいっぱい飲茶を食べるでしょうね〜。





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