暖冬と言えど、流石に12月の夜は冷える。 青い空気に包まれて、全身が凍える。 アンジェリークは、街灯の下で、じっとアリオスを待つ。 暗い中に灯るほのかな明るさに、ロマンティックを感じた。 白い息が闇に浮かび上がるだけで、ときめく。 どうしてこんなに楽しいのだろうと想うぐらいに、笑顔がこぼれ、アンジェリークはにやけて間抜けな顔になった。 「待たせたな」 闇から現れるアンジェリークの王子様。 絶対零度の王子様は、アンジェリークにだけ優しい。 闇に浮かび上がった静謐としたアリオスの姿にうっとりとしながら、アンジェリークは寒さなんてぶっ飛ばしてしまえるような笑みを向けた。 「そう、すご〜く待ったよ!」 「----あのな。そういった時は、『そんなに待っていないよ、アリオス』って言うんだよ」 アリオスはわざとしかめ面をして、冷たくて赤くなったアンジェリークの鼻を指で弾く。 「トナカイみてえ」 「いーだ!」 くつくつと喉を鳴らして笑うアリオスが憎らしくて、アンジェリークは舌を出してとっておきの『あかんべー』をした。 「俺様にこんなことをするなんて、10年早え」 「いひゃい!」 まったくアリオスはアンジェリークに勝たないと気が済まないようで、今度はむにむにと頬を軽く抓られる。 「暴力反対〜!」 アリオスの胸をぽかぽかと叩きながら言うと、直ぐにその手首を掴まれた。 「どっちが」 アリオスの声が低く呆れたように響いて、語尾が揺れる。 冷たい木枯らしが吹きすさび、アンジェリークは小さな躰をぶるりと震わせた。 「流石に、木枯らしもきつくなってきたみてえだな」 「あっ!」 震えるアンジェリークの躰を包み込むように、アリオスはコートの中に招き入れた。 熱いぐらいの温もりに、冷え切った躰をすり寄せる。 「アリオス、温かい」 「おまえを温める為に体温を温存してた」 「嘘ばっかり」 アンジェリークは謳うようにくすくす笑いながら、アリオスの腕をぎゅっと掴んだ。 「-----でも、信じたくなるぐらいに温かいよ。アリオス」 「おまえも温かくて柔らかいぜ?」 ニヤリとエロティックに笑ったアリオスの顔に、アンジェリークはそろりと自分の胸元を見る。 胸元には、しっかりとアリオスの腕が当たっていた。 腕を意味深に擦られるたびに、躰の芯がとてもあつくなってくる。 「もう、バカ! すけべ!」 アンジェリークは胸元まで真っ赤にさせながら、アリオスに拗ねるように怒った。 全く、どうしてここまでスケベなんだろうか。 そんなアンジェリークの心の内を感じ取ったのか、アリオスはスッと目を細めて、少しだけ真顔になる。 「----おまえ限定でスケベに決まってるだろうが」 アリオスはさらりと何でも無いことのように言ったが、アンジェリークにとっては心臓が跳ね上がるほどにときめいてしまうことだった。 「-----おまえだから、お触りしたり、色々こうやってしてえって思うんだ。おまえだって、嫌じゃねえだろ?」 低い声で囁くように言いながら、アリオスはまた平然と胸に触れてくる。 躰の芯が甘くとろけそうだ。 「----そうだけど…。アリオスだから嫌じゃないのよ…。私も…」 アリオスがフッと冬の日溜まりのような笑みを浮かべると、顔をアンジェリークに向けて下ろしてくる。 それに誘われるように、アンジェリークも瞳を閉じて、顔を上向きにさせた。 外気によって冷やされた、氷のようなお互いの唇が重なる。 触れた瞬間は、とっても冷たかったのに、お互いにしっとりと包み込むなり、みるみる熱くなった。 躰の奥深いところまで温めるように、、ふたりはお互いの熱を与えて、奪い合う。 -----いつでも極上の楽園に連れて行ってくれる、キスに、アンジェリークは溺れ、アリオスにしがみついた。 唇が炎となって、熱く燃え上がっていく。 唇が離れた後も、 その熱は治まることはなかった。 「雪…」 闇に白いものがちらちらとダンスをする。 雪のひとひらがアンジェリークの唇に口づけると、みるみるうちに溶けて無くなってしまった。 ふたりの熱さを知ったのか、直ぐに雪は止む。 「残念ね。折角の初雪だったのに…」 「熱すぎて、遠慮したんだろ?」 「何に?」 「俺たちに」 アリオスが恥ずかしげもなく甘い台詞を吐くものだから、アンジェリークの頬は更に赤くなり、辺りの空気を暖める。 「おまえのほっぺた、よくもまあ飽きもせずに真っ赤になるなあ。おまえじゃねえか? 地球温暖化の原因」 「ちがうもん!」 アンジェリークが猫のようにうなり声を上げると、アリオスは愉快そうに笑う。 「さてと。おまえの頬も唇も熱くなったな」 アリオスは自分で呟いた部分を、綺麗な指先でなぞってくる。 それだけでもどうしてこんなに幸せを感じるのだろうか。 「手は、腕は?」 アンジェリークの手を重ねて、アリオスは何度かさすってくれる。 「すげえ、つめてえ。ほっぺで暖めないとなあ」 「末端冷え性だもん」 アリオスは丁寧にアンジェリークの指先をさすり、何度と無く息を吹きかけてくれた。 「うちに吐いたら、この俺が、たっぷりと暖めてやるからな?」 「足を絡ませて、しっかりね」 アンジェリークは絶対そうしてねとばかりに、アリオスに強請るような眼差しを向ける。 「お安いご用だ」 ふたりは、すっかり冷え切った夜の街を、しっかりと手を繋いで歩き出す。 「この時期の夜の街っていいよねえ」 「まあな」 「良い被写体になる?」 「ああ。おまえほどじゃねえけれど」 「うそばっかり」 ふたりは他愛のない話をしながら、ぶらぶらと歩く。 本当に何の他愛もないはずなのに、どうしてこんなに楽しいんだろうか。 街の端までやって来ると、ふたりにはお馴染みの明かりが目に入った。 カティスの店-----とっておきのココアとコーヒーを飲ませてくれる、お気に入りの喫茶店。 「ねえ、ちょっと入っていこうよ」 「そうだな。温まっていって、また、歩くか」 「うん」 ふたりでカティスの店まで行くと、重い扉を押す。 なかからはお湯が沸くしゅんしゅんといった音が聞こえてきた。 「いらっしゃい----なんだおまえたちか」 「ココアとコーヒー」 ふたりはカウンターのスツールに仲良く腰を掛け、お気に入りの温かな飲み物を注文する。 サイフォンの音、そしてココアを練る風景。 白い冬にぴったりの風景だ。 「アリオス、また、雪よ…」 アンジェリークは窓の外に見える雪を指さすと、アリオスも肩を抱いて外を見てくれる。 「おまえたちがいなくなったから、外は急に寒くなったんじゃないのか」 カティスは落ち着いた声で、じっくりと言いながら、ココアを練ってくれる。 そうかもしれない。 こうして素敵な場所で雪を見ることが出来るのは、なんて幸せなのだろうか。 明日の朝は積もるかな? 積もると良いな。 アリオスと雪の日の朝は、ベッドの中でゆっくりとしていたい。 アンジェリークは翌朝の甘い瞬間に思いを馳せながら、幸せな気分になっていた---- |
| コメント ココアシリーズの甘小品です。 楽しんで下さると、幸いです。 これを書いているくせに甘酒を飲んでいる、私なのでした。 |