Lovely Picnic


 執務が全て終わり、アリオスと過ごす蜜の濃い時間が、女王アンジェリークには一番大切な時間だ。
 今夜も、会議を兼ねた夕食の後ようやく開放され、お風呂に入って疲れを癒してから、甘いゆったりとした時間を過ごす。
 そのいきつく先はやはり、甘い甘い愛の時間だ。
 同じベッドで温め合いながら、アンジェリークはアリオスに甘えている。
「アリオス、明日のお休みなんだけどね、久しぶりに約束の地にピクニックに行きたいんだけれど…」
 上目使いでお伺いを立てると、アリオスが栗色の髪に指を通してくる。
「ピクニックに行きたい? クッ、んなガキくせえこと言ってるんじゃねえよ」
「もうっ! こっちは真剣に思っているのに! ねぇ、私がいっぱいお弁当を作るからね、アリオス、連れて行ってよ〜!」
 少し拗ねながらもお願いをしてみる。いつもアリオスががっかりする答えをしないことを、アンジェリークは充分に知っているから。
「おまえが弁当作ってくれるのかよ!? 食い気専門家なのにか?」
 くつくつと喉を鳴らして笑ってくる恋人に、アンジェリークは頬を膨らませて怒る。それがまた愛らしい。
「こんな顔をしていると、マジでこんな顔になっちまうぞ!?」
 アリオスは軽く軟らかなアンジェリークの頬をふにふにと抓っきた。
「いひゃ〜い!!」
 明らかにアンジェリークの眉が寄せられて怒っているのが解る。
「もういい!私ひとりで行くもん!何だったら、アルフォンシアにエルダになってもらってもいいんだもんね〜」
 すっかり怒っていじけてしまったアンジェリークを、アリオスは苦笑しながら抱き寄せる。
「おまえみてえに鈍臭いヤツ俺以外の男が面倒見られるわけがねえだろ? 着いていってやるよ、子守がてらな」
「ひど〜い」
 言葉では怒ってはいても、アンジェリークの表情は既に柔らかいものになっている。
「ずっと見てても飽きねえよ。特に、怒ったり、笑ったり、泣いたりおまえのくるくる変わる表情はな」
「アリオス…」
 たまにくれる甘い言葉は何よりものストレス発散となる。嬉しくてしょうがなくて、アンジェリークはアリオスにしっかりと抱き着いた。
「…おまえはどんな表情をしても可愛いぜ」
 いつもに増して糖度の高い言葉に、アンジェリークはうっとりとせずにはいられない。これが普通の男が言うのであれば、全く素敵だとは思わないだろう。だがアリオスだけは違うのだ。誰よりもロマンティックで魔法を持っているから。
「他の男には、おまえの表情をみせるなよ。おまえの百面相は、俺限定のものでいいんだからな」
 低い想いがたっぷりと詰まったアリオスの声に、アンジェリークは甘える。
「…うん。明日、楽しいピクニックにしようね?」
「ああ」
 アリオスは優しくも甘い笑顔をアンジェリークに向けてくれる。
「…アリオスも、その笑顔は私以外の女の人には向けないでね…」
 少しの嫉妬の含んだかわいらしさに、アリオスの腕の力は強くなり、しっかりと抱きすくめられた。
「すげえ可愛いなおまえ…」
 軽く唇を重ね合うと、躰の奥底で熱い官能が蘇ってくるのを感じた。
「明日、美味しいものをいっぱいいっぱい作るからね。アリオスの好きなものとか、アンジェの好きなものとか…」
「クッ、どうせおまえが好きなもんばっかりになるのは確実だな」
 笑いながら髪を撫でてくる。
「でも、アリオスの為にいっぱい作るから! おかかのおにぎりとか、唐揚げとかいっぱい作るからね!」
「お手並み拝見だな。俺には胃薬準備しててくれよ」
「もうっ! アリオスにはお弁当を作ってあげないんだからっ! もう、知らない…っんん!」
 最後まで話す前に、アリオスに唇を塞がれてしまう。甘いとろけるようなキスに酔いしれてしまいそうだ。
 キスが終わっても、アンジェリークはご機嫌斜めだ。
「…キスなんかでごまかされないもん…」
 真っ赤になりながら言うアンジェリークが愛しい。
「いつもキスとそれ以上のことでごまかされているのは誰だよ?」
 意地悪な言葉に、アンジェリークは更に憤慨した。
「アリオスのえっち、バカ!」
 アンジェリークはぽかぽかとアリオスの胸を叩くが、全く堪えない。
「おまえ、自分が今どんな格好か忘れたか?」
 意地悪なアリオスの笑みに、アンジェリークははっとする。
 今、愛し合った後の為に、裸なのだ。胸元を見ると、ぷるるんと揺れていた。
 アンジェリークは真っ赤になりながら、アリオスを強く睨みつける。
「アリオスのスケベ!! もうエロアリオス!」
「その”エロアリオス”が好きなのはどこのどいつだよ? 目の前女王様じゃねえのか」
 ニヤリとした微笑みと痛いところを突いてくる言葉に、アンジェリークは拗ねた。
「…もう」
 反論出来ない代わりに、アリオスにぎゅっと抱き着いてみる。そのまま組み敷かれてキスの雨が顔に降って来る。
 アンジェリークはこのまま甘い雨に溺れたいった-----


 翌日、昨夜は遅かったのにも関わらず、アンジェリークは早起きをしてお弁当を作る。勿論アリオスの為だ。
「アリオスの大好きなおかかのおにぎりに、鮭も、昆布も…。チキンの生姜焼に、野菜スティック、ノーマルタイプのソーセージはタコサン…」
 朝からご飯は土鍋で炊き、手づくりのおかずを用意する。アリオスが好きなごくごく素朴なものだ。おにぎりの形はアンジェリークらしく真ん丸だ。
「出来たっ!」
 作ったおかずやおにぎりをを重箱に詰め込んで完成した。
 朝食も同時進行していたので、こちらも美味しそうに出来上がっている。
「アリオスを起こさなくっちゃ」
 アリオスを奥の部屋に起こしに行くと、ちょうどシャワーを浴びて、浴室から出て来た所だった。
「…ア、アリオス、起きていたの?」
 腰にバスタオルを巻いただけで、髪をがしがしと拭いているアリオスが、余りにも艶やか過ぎてアンジェリークはどきまきする。思わず視線を外してしまった。
「美味そうな匂いしてたからな、たまらなくなって起きちまったぜ」
「そうなんだ。ごはん出来たよ」
 恥ずかし過ぎてアンジェリークはどもってしまう。それが純情なアンジェリークらしい。
「サンキュ。クッ、おまえ何照れてるんだよ? 俺の裸どころか、もっと強烈なもん見てるだろうが」
「…もう! えっちなんだからっ! 早く来てね、冷めちゃうから!」
 アリオスの思う壷のような反応だったせいか、背後からくつくつと笑い声が響いた。
「どうぞ、いっぱいあるから食べてね」
「サンキュ」
 普段アリオスにしてあげられないので、こういった細かい世話をするのが嬉しくてしょうがない。
 アリオスが無言だが、一生懸命沢山食べてくれるのが嬉しくて、その様子を見るのも楽しかった。


 朝食が済んで、ふたりは仲良く”約束の地”に向かう。お弁当はアリオスが持ってくれた。
「やっぱりあの木の下でお弁当を食べようよ」
「そうだな」
 ふたりにとっては想い出の場所である木の下は特等席だ。
 レジャーシートを敷いて、ふたりはお弁当を広げる。
「アリオス、いっぱい食べてね」
「ああ。だがおまえらしいよな」
 アリオスは、重箱を覗きながら、楽しそうにしている。
「私らしい?」
「だって三角に握れねえなんて、ぶきっちょなおまえらしいせ」
「もう、からかって!」
 アンジェリークがぽかぽかと叩こうとすると、アリオスは巧みに擦り抜けてしまった。
「甘いぜ。ほら、食おうぜ?」
「もう、ごまかして…」
 アンジェリークが紙皿におかずとおにぎりを乗せて、アリオスに渡す。
「おにぎりの中身は?」
「えっと、それがおかか、それが鮭、こっちが昆布なの」
「そうか」
 アリオスの手が伸びたのは、先ずは昆布、しゃけ、おかかの順だ。
 やはりアンジェリークの予想通りに、アリオスは昆布から食べ始める。好きなものは後に残している。それが、ほほえましくてしょうがなかった。
「アリオス、やっぱり好きなおかずやおにぎりは後にしちゃうんだ」
「いいじゃねえか。おまえだってそうだろ?」
「うん!」
 アリオスが頬におにぎりをいっぱい詰め込んで、美味しそうに食べている姿が、何よりも嬉しかった。

「アンジェ」
「きゃっ!」
 食事後、次はおやつというところで、いきなり背後から包み込むように抱きしめられ、アンジェリークは息を呑んだ。
「食わせてやるよ…。おまえ食料袋持ってきたんだろ?」
「うん今日は栗饅頭」
「共食いか…。よこせよ」
 アンジェリークが持っていた袋をアリオスは取ると、そこから栗饅頭を取り出して、丁寧に包装をむいてくれる。
「ほら」
「うん…」
 指先を唇まで持って行ってくれ、栗饅頭を食べさせてくれる。
 それがとても甘くて美味しくて堪らない。
 少し堪能な気分にすらなった。
「美味いか?」
「…うん」
 甘い栗饅頭だが、いつもよりももっと甘い。
「アリオス…、アリオスがいるからいつも頑張って執務が出来るのよ。あなたがいるから、こうして私をいやしてくれるから…」
 アンジェリークが心からの想いを素直に口に出して言うと、アリオスの腕に力が込められた。
「俺だってそう思っているのに決まってるだろ?」
「アリオス…」
 アリオスの顔がゆっくりと近付いてくる。
 唇が触れあい、お互いの想いを伝え合う。
「…栗饅頭の味がするぜ…」
 イタズラっぽく笑ったアリオスに、アンジェリークは微笑み返す。
「でも、あなたのキスのほうがもっとあまいでしょう?」
 アリオスは何も答えない。
 ただ、アンジェリークの唇を塞いだ-------
 

コメント

オータムンライブの甘い告白が元の話です。




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