土曜日の午後


 今日は天使の庭園でカツサンドをテイクアウトをして、アリオスの事務所でのんびりと過ごすことに決めた。
 最近、土曜日の午後はそうやって過ごしている。アンジェリークは名門女学院に通っているせいか、土曜日は学校に行かなければならない。
 そのため午後からは、自宅と事務所を兼ねている、アリオスの事務所に遊びに行くのだ。
「アリオス来たよ!」
「タイミング良いな。今、炒飯と餃子を作っていたところだ」
 アリオスは器用で料理も上手だ。女としては少し恥ずかしいところもあるけれども、いつかアリオスに美味しいと言ってもらえるような料理を作れたらと思っている。
「レオナードさんのところで、カツサンドをテイクアウトしてきたよ!」
 アリオスは、得意そうに笑うアンジェリークの手を見た。
「…言わなくても、それを全部食うつもりなんだよな…」
「もっちろんだよ!」
 アリオスは大食い娘のアンジェリークのために、いつも多めに料理を作ってくれる。それをペロリと食べるのを、いつも愉しそうにアリオスが見てくれる。
「別腹、別腹」
「ったく、お前は牛かよ」
 苦笑するアリオスの後についていくと、ダイニングテーブルの上に、出来立ての炒飯と餃子がほかほかと湯気が立っていた。
「美味しそうね!」
「おら、とっとと食え」
 光が切り込むように入り込み、明るく快適な空間を作り出していた。
 最近、土曜日のランチはアリオスと一緒に取っている。楽しく美味しく食べた後は、いつも仕事を邪魔するのが日課だ。
「アリオスは料理の天才だよね。建築士よりも料理人になったら良かったのに!」
 ほくほくとした気分で、アンジェリークは華やいだ気分になる。
 アリオスといる時が、一番楽しくて安らぐのだ。
「これからの男は料理ぐれぇ出来ねぇとな。お前もちったぁ料理の練習しやがれ」
「味見は上手なんだけれどなあ…」
 アリオスは呆れるような顔をしたが、どこか愉しそうな笑みも浮かべている。
 こうしてふたりでいると、心のベクトルは前向きになるのが嬉しかった。
「飯食ったら、仕上げる仕事があるから、つまらなかったら帰っていいし、ここでいるならそれでも良い」
 アリオスはいつも甘くはない。どちらかといえば冷たいほうだ。だが肝心なときは何時も甘やかせてくれるから、少しばかりつきはなされても悪くはなかった。
「うん、じゃあ、そのへんでごちゃごちゃしているよ」
「ああ」
 昼間の光に当たるアリオスは、少しばかりのけだるさを持っていて素敵だ。
 特に白いカッターシャツにヴィンテージもののジーンズ、図面を書くためにかけるメガネに、煙草。
 何気なくて上質なものが揃い、アリオスの魅力を引き立てている。
 本当は相手なんかされなくても、その姿さえ見られればアンジェリークには良かったのだ。
「後片付けは私がやるからさ、アリオスは仕事をしてよ。で、3時のおやつはカツサンドと…」
「ダージリンだろ?」
 アリオスが薄く笑うと、アンジェリークは嬉しくて頷いた。
 土曜日の午後、アリオスに仕事があれば、アンジェリークはランチの後片付けをして、日が良く当たるテラスで勉強をしたり、 読書をしたり…。穏やかで幸せな時間を過ごす。
 今日も食べた後片付けを、鼻歌まじりに始める。
「あんまり怪電波を出すなよ。線が真っ直ぐ描けねえからな」
「そんなことないもん! アンジェは歌が上手いんだからね!」
「どうだか…。お前の歌を聞いて、中庭の池にいる鯉が腹を見せて浮かび上がってきたって聞いたぜ」
 くつくつと愉快そうに笑うアリオスに、アンジェリークはタヌキのように頬を膨らませて拗ねる。
「そんなことないもんっ! アリオスこそ、ちゃんとお仕事をしてよね!」
「はい、はい」
 アリオスの今の趣味を聞けば、きっと”アンジェリークをからかうこと”と答えるのに違いない。
 それぐらいに頻繁に、アリオスはアンジェリークをからかってくるのだ。
 楽しく手伝いを終えた後、アンジェリークはテラスに陣取った。
 そこで週末に出された宿題を先ずはする。
 アリオスとこうして一緒に過ごすようになってから、時間の使い方が上手くなったっ我ながら思う。
 隙間の時間にもだらだらすることがなくなったのだ。
 宿題を終えれば、これで週末にやるべきことはなくなる。
 ここからは本を読んだりして、自分の時間を過ごすのだ。
「アリオス、今、何の図面を引いているの?」
「将来を見据えた新婚家庭の図面」
「へぇ…」
 新婚さん。何だか響きがくすぐったい。
 将来、アリオスとふたりで住む家を設計するとなれば、どのようなことを望むだろうか。
 アンジェリークはノートの切れ端を使って、簡単な間取りスケッチを始めた。
 まるでそこにアリオスとふたりで、差し込む柔らかな光のような幸せを育むような気分で、設計を始めた。
 アリオスの見よう見真似で、建ぺい率だとかややこしいことは考えずに、アンジェリークは設計をする。
「やっぱりテラスは外せないのよ。ベッドルームから出られるテラスは海が見えて、リビングから出られるテラスからは緑が見られるんだよね。キッチンはふたりでわいわい料理が作れるように、導線に気をつけて…、やっぱりオープンな対面で、明るいのが…。バスルームからは海が見えて…、子供部屋は…きゃっ!」
 子供がいることを想像するだけで、幸せのじたばたがやってくる。
 アンジェリークは込み上げてくる幸せに、何故だか奇声をあげてじたばたした。
 こうして夢の家を設計するというのは、なんて楽しいのだろうかと思う。
 ワクワクして踊り出してしまいたいぐらいだ。
 一通り図面を書き終えると、アンジェリークは満ち足りた気分でひなたぼっこをした。
 入り込む陽射しは幸福の象徴のように思える。いつの間にか、幸せなまどろみが瞼に深く下りて来て、アンジェリークはそのまま眠り込んでしまった。

「ったく、しょうがねぇ女だな」
 アリオスは柔らかに笑うと、アンジェリークのまだ幼さを残した頬に優しく触れる。
 アンジェリークの大好きなおやつの時間。
 アリオスはグリルでカツサンドを温め、天使が大好きなダージリンをいれる。
 ポットのなかでふわふわとダンスをするリーフは、まるでアンジェリークが踊っているようだ。
 湯気立つダージリンと、カツサンド。甘いものが大好きな天使のために、ヨーグルトに甘いブルーベリージャムを乗せる。
 これで完璧。
 アリオスはテラスにそれらを運ぶと、アンジェリークの描いた図面を見つけた。
 それを広い上げ、幸せな笑みを浮かべる。
「夢の家だな。叶えてやるよ、いつかな…」
 アリオスはフッと笑うと、天使にキスをする。
 目覚めを促すために。
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久しぶりのアリコレです。




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