Sweet House


 最近、学校の近くに建った瀟洒な洋館を見るのが、最近のアンジェリークには楽しみでしょうがない。

 いつかこんなところでアリオスとふたりで住んでみたいな・・・。

 アンジェリークはとても甘い夢を見ている。

 最近、全然逢えない。同じ年の恋人を持つ周りの友達は、いつも逢えて凄くうらやましい。
 
みんなには、年上の素敵な恋人がいて羨ましいと言われるけれど、私は、みんなのほうが大好きな人とそばにいられるから羨ましい…。

 アンジェリークは大きな溜め息を吐きながら、携帯を眺める。
 メールは毎日くれるし、店にいけば毎日姿は見られる。
 逢えるのではなく、見られるというところがみそだ。
 最近アリオスが忙し過ぎて、そういった触れ合いしかない。
 ずっと年上で、幼馴染みで、生まれてきてからずっと大好きな恋人。
 掛け値なしで、理想で最高の恋人。
 だが、彼が社会人で自分がまだ学生のせいか、それゆえの歯がゆさに切なくなる。
 著名なヘアデザイナーであり、メイクアップアーティストであるアリオスの恋人ゆえ、なかなか逢えないのが贅沢な悩みだった。
 メールの着信音が鳴り、アンジェリークは慌ててメールを開ける。
 着信音は、アリオス専用のものだからすぐに判った。
 どきどきとしながらメールを開けると、いつものようにシンプルな一文がある。
 ”今、何してる?”
 アンジェリークは嬉しくてすぐに返事を打つ。
 ”何も。だらだらしていただけ”
 送信し返すと、すぐにアリオスも返事を返してきてくれた。
 ”仕事が早く片付きそうだ。店に出て来られねえか?”
 アリオスのメールを見るなり、アンジェリークは飛び上がるぐらい嬉しかった。
 時計を見ればまだ7時だ。
 初夏のせいかまだまだ外は明るい。
 明るく人通りの多いうちに、出かけられる。
 突然のお呼び出しに、本当のところはお洒落したいのがやまやまだが、それよりも切迫してアリオスに逢いたかった。
 髪だけはといて唇にリップだけをすると、アンジェリークは慌てて出ていく。
「お母さん、アリオスのとこ行ってくる」
 母にそれだけ言えば、通じるようになっている。
 両親とも、アリオスとの交際は公認してくれているのは、幼馴染みで彼が大人であるがゆえだろう。

 まだ明るい駅までの道を突っ切って、アンジェリークは大好きなアリオスのいる彼のヘアサロンへと向かった。
 表は既に閉まっており、アンジェリークは従業員口からそっと中に入っていく。
「アリオス、来たよ〜」
 アリオスの姿を見るなり、その温もりが欲しくて、アンジェリークは思わず抱き付いた。
「アンジェ」
 アリオスはすぐに抱き締め返してくれると、唇を奪ってくる。
 甘く優しいキス。
「あんまり深いのしちまうと、したくなるからな? 後のお楽しみだ」
「もう・・・」
 アリオスが恥ずかしげもなく言うので、アンジェリークの方が恥ずかしくなってしまった。
「お仕事は?」
「すぐに終わるから、そこにでも座って待っていてくれ」
「うん」
 見ると、テーブルの上には沢山のアリオスが描いたデザイン画が置いてある。

 どれも素敵・・・。

 アンジェリークは思わずそれに見入ってしまう。
「片付けたら、買い物に付き合ってくれ」
「うん。商店街?」
「家具屋だとか、色々な」
 アンジェリークは、買い物に行ける嬉しさよりも、アリオスのそばにいられることの方が嬉しかった。
「何買うの?」
「ヒミツ」
 アリオスは意地悪で意味深な微笑みを浮かべる。
「教えて!」
「ダメ」
「ケチ〜!」
 手早くアリオスは片付け、アンジェリークも文句を言いながらも片付けの手伝いをした。
「煙草一服したら出るからな」
「うん」
 アンジェリークは、煙草を吸うアリオスをじっと見つめる。
 一息つくアリオスはまるで住む世界が違う人間のように思える。
 だがそんな瞬間もまた素敵だと思った。
「待たせたな? おまえメシは?」
「食べちゃった」
「ちょっとぐらい付き合えよ?」
 アリオスはアンジェリークの手を繋いで引っ張りながら、外に出ていく。
 アリオスにぴたりな愛車に揺られて、アンジェリークは少しどきどきした。
 やはり、久し振りの恋人のそばは、甘い緊張を生まずにはいられない。
「おなか空いてないよ〜」
「大丈夫だ。別腹、別腹」
「太るもん〜」
「後でどうせ”運動”するからいいじゃねえか」
 この瞬間、アンジェリークは真っ赤になって固まった。
「・・・もう。出来ない日とかだったらどうするのよ」
「俺はおまえの周期は熟知しているからな。大丈夫だ」
 しれっと何ごともなく言う恋人に、アンジェリークは拗ねるように俯いた。
 全く恋人には適わない。
 余裕を持った横顔をちらりと見つめ、かっこいいと思ってしまう。
 やはり、これが惚れた弱みと言ったところだろうか。

 車は、小さなファミリーレストランに停まった。
 ここなら、アリオスはごはんが食べられるし、アンジェリークはお茶ぐらいは出来る。
 恋人の選択に嬉しく思いながら、レストランに入っていった。
 アリオスは和食弁当を渋く注文し、アンジェリークはケーキセット。
 他愛のないことを話しながらの食事タイムは、アンジェリークにとっては幸せ色に染まった時間になる。
 学校のことや仕事のことを話しながら、アンジェリークは久々の幸せを噛み締めた。
「はらいっぱいって、ちゃんと胃袋に治まっているじゃねえか」
「別腹だもん。アリオスがさっき言ったじゃない〜」
 アンジェリークは定番の言葉を呟きながら、アリオスに笑いかけた。

 レストランを出た後、今度はアリオスが言っていた家具屋に行く。輸入もののお洒落な家具や家電が置いてある店だ。
 遅くまでやっているのも有り難い。
 家具屋に入るなり、アンジェリークは歓声を上げた。
「可愛い〜!」
「おい、こっちだ。今日はダイニングテーブルのセット、ライティングデスク、ドレッサー、ソファ、応接セット、本箱、ベッド」
 アリオスが次々に言うものを聴きながら、アンジェリークは目を丸くする。
「そんなにどうするの?」
「撮影でスタジオに置く家具のコーディネートを頼まれたんだ。レンタルするのを一緒に選んでくれ。テーマは”新婚”だ」
「うん!」
 アンジェリークはうきうきしながら、自分の好みなどで家具を選んでいく。
「これ可愛い〜! トータルでコーディネートしてみると、凄くいいと思うの。長く使えそうだし」
「そうだな」
 アリオスは結構意見を取り上げてくれて、アンジェリークは嬉しかった。

 ほとんどの物が選び終わり、いよいよベッドだけとなった。
「ベッドは寝心地のいいものがいい。ダブルな」
「うん!」
 可愛くて品のあるベッドを選び出して、そこから寝心地を判断していく。
 これはアリオスはかなりこだわりがあるようだった。
 幾つか試した結果、ふたりの意見は一致した。
「これいい〜!」
「だな?」
 ふたりは大胆にもダブルベッドの感触を寝て確かめて、納得いくまで吟味した。
「手続き行ってくるからな。待ってろ」
「うん!!」
 アリオスが手続きに行っている間、アンジェリークは更に家具を見て回る。
 沢山可愛いものがあり、良い目の保養になった。

 いつか、私たちもこんな家具に囲まれて暮らしたいな・・・。

 アンジェリークはうっとりと、アリオスとの二人暮らしを夢見ていた。
「おい、行くぜ」
「あ、うん!」
 手を繋ぎあって、ふたりは駐車場に向かって歩き出した。
 車に乗ると、もう良い時間だ。
「今夜泊まっていけよ。連絡しておいてやるから」
「うん!!」
 久し振りのお泊まりで凄く嬉しい。
 日常生活に支障ないものを揃えているので、泊まるのは万全だ。
 車は、ドライブがてらにアリオスの家に向かっている。
 だが、マンションとは逆方向の学校にほど近い見慣れた風景に、アンジェリークは小首を傾げた。
「アリオス、マンションとは違う方向よ?」
「いいから・・・」
 アンジェリークはドライブをもう少し楽しむかと思ったが、すぐにアリオスの車は停まった。
 しかも、アンジェリークが素敵だと思った、あの邸宅のガレージである。
「降りろ」
「う、うん・・・」
 戸惑いながらアンジェリークは車から降りた。
 アリオスもその後に続いていく。

 アリオス、どうしてこの家・・・。

 彼はすぐに鍵を開けると、ドアを開けた。
「入ろうぜ」
「うん」
 そっと入った玄関は吹き抜けで、ゆったりとしている。
 ほんのりと新築の匂いがした。
 まだ照明と建具しかない生活感のない家だ。
 アンジェリークがあたりを見回している間、アリオスがしっかり戸締まりをしている音がする。
「3階に行くぜ?」
「うん!」
 アリオスに引っ張られて上に上がっていく。
「ここだ」
 アリオスがドアを開けると、そこには広い空間があった。
 大きなマットレスがあり、そこには寝具やアンジェリークとアリオスの当座に使う荷物が置いてある。
「ここは、今日見たベッドやドレッサーを置く部屋だ」
 アリオスは低い声で甘く囁くと、アンジェリークを背後から抱き締めてきた。
「・・・アリオス」
「もう、おまえにあまり逢えないのは耐えられねえ!毎日おまえと顔を合わせて、話して、抱き締めて、抱きたい・・・。
 今日からここで一緒に暮らそう。おまえが高校を出たら、正式に結婚だ」
「アリオス・・・!」
 躰が震えて、涙が溢れ出てくる。アンジェリークは嬉しくて仕方かなく、その感動に打ち震えていた。
 名前しか言えない。
 アンジェリークは何度も幸せの頷きを繰り返す。
「サンキュ。幸せにする」
「アリオス・・・」
 ふたりはしっかりと抱き合って、甘いキスを交わし合う。
 アリオスとアンジェリークのふたりは、新たな一歩を踏み出し始めた。

コメント

美容師アリオスと女子高生アンジェの続編です。
ふたりが幸せでありますように




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