心が疲れ、愛の風景を見たくな れば、シャトルの発着ロビーに行けばいい。映画や小説なんか必要ない。そこには様々な種類の愛が溢れている 親子、恋人同士、夫婦、友人。まだ未開拓な愛もあるかもしれない。それぞれの愛の形を見渡せる。 そこでは、誰もが再会と別れに一喜一憂をし、抱き合い、溢れる想いを短い時間に凝縮させて、愛を表現をしている。 ロビーのセンターにある硬いソファに腰をどっかりと下ろしながら、アリオスは脚を投げ出して、行き交う人々を見つめる。どの顔も良い顔をしているように、最近は思えるようになってきた。宇宙の育成が上手くいっているからだろう。 このところ使命が終わると、必ずロビーで人々の顔を見る癖が付いてしまった。その表情には、宇宙育成の成果が現れているような気がしたから。 そして、女王の慈愛が等しく注がれ、その愛の形見を表情から読み取ることが出来るから。 「あいつにしては良くやってるんじゃねえの」 アリオスはひとりごちながら、栗色の髪をしたひまわりのように笑う女王を想った。 ここにいる誰も知らない。女王がどうやって笑うかも、小さなことで拗ねる顔の可愛いらしさも、細い躰のくせいに大食いなことも。艶のある媚態を見せることですらも、誰も何も知らない。ここにいる人々は、偶像の女王を知るだけだ。生身のアンジェリーク・コレットを知るものはいない。 だがその表情の中には、確かに、アンジェリークが宿した愛や微笑みがちらりと見受けられた。 人々の様子を見ることで、アンジェリークの温かさを間接的に受け取ると、アリオスは手の中にある缶コーヒーのプルトップを開ける。暫く、ここで休息をとるのも、悪くはないだろう。 シャトル発着ロビーで疲れを癒すように缶コーヒーを飲むのが、すっかり習慣になってしまった。まるでサラリーマンの悲哀すら感じてしまう。これも休みなく仕事を言いつける補佐官のせいだ。女王の為でなければ、誰がこんな事をするかとアリオスは思う。 この宇宙に来てからというもの、ずっと休みなしで働いている。あのケチな補佐官が休みをくれないからだ。蟻や蜂のように働き、丸太のように眠るだけ。時々休みが欲しいと、正直思うこともある。 「 休みを取ったところで…、あいつと出かけられる筈もねえんだけれどな」 最近独り言が増えてしまったと、アリオスは苦笑しながら、コーヒー缶に口づけた。 ふと、アリオスの感覚のアンテナに、引っかかるものを感じた。同時に騒がしい音と気が近付いてくる。まだ遠くにいるが常人とは思えないほどの『気』の強さだ。 アリオスは感覚を研ぎ澄ませながら、強い輝きを放っているのを感じた。まるで太陽のコロナが爆発するかのようだ。 「 サクリア…を持ったヤツか? 強すぎて、遠くにいても解るぐれえだ」 アリオスはソファから立ち上がると、サクリアを感じる方向を躰を向けた。 乱暴な声が近付いてくる。同時に、サクリアも強くなってきた。 「…光…。だが、ジュリアスの野郎とは違う光だ…」 アリオスは眉根を寄せ、鋭意な瞳を一点に向ける。 「だから、エンジュのヤツはちゃんと聖地にいるんだろうなァ」 「はい。エトワール様はいらっしゃいます」 『エトワール』 その単語に、アリオスは口角を上げる。間違いない。今話している煩い乱暴な男は、聖地に迎えられる新しい守護聖なのだろう。 煩くて騒がしくどこか凶暴なくせに、光のサクリアは迸るほど強い。アリオスは同じ光のサクリアでありながら、ジュリアスとは正反対の気質とサクリアに、ニヤリと微笑んだ。 これは面白いことになるかもしれない。そして、アンジェリークの負担が減ることも、アリオスにとっては好ましいことであった。 ポケットに入れていたモバイル端末が、派手に震え始める。どうせレイチェルからのろくでもない連絡であろう。 アリオスが端末を取り出すと、着信者が表示されているところだった。予想通りのレイチェル。 流れるように片手で端末を開け、アリオスはメールの内容を確認した。 『ヤッホー! アリオス。とうとう光の守護聖が見つかって、私たちの宇宙もようやく守護聖を迎えられるようになったヨ。で、お願いがあるんだけれど、今すぐ聖地に戻ってきてくれるかな。陛下がアナタに逢いたいって。ようやく、少しだけれど外に出られそうだから。あ、後報告宜しく! 仕事はいっぱいあるからね! レイチェル』 メールを読んでいるうちに、アリオスは自然と自分の顔が綻んでくるのを感じる。間接的よりも強い女王の温もりが、感じられるような気がした。 女王に逢える この聖獣の宇宙にある聖地に着いた雨の朝、消え入るような姿で微笑んだアンジェリーク。自分のことよりも、エトワールのことを案じ、アリオスの腕の中で倒れたアリオスの護るべきもの。 ようやく逢える。この腕に抱きしめて、護ってやることが出来る。 フッと誰にも解らないように小さく笑うと、アリオスは出口に向かって歩き出す。 護るべき相手に元へ。 「また逢うかもな。初代光の守護聖さんよ」 アリオスは、レオナードの横をすり抜けると、聖地へと向かった。 「…あの男…」 自分の横をすり抜けた男を、レオナードが気にしないわけはなかった。思わず立ち止まるほどだ。凛とした中に影を背負った雰囲気に、強く心が乱れる。相当出来る男だと認めないわけには行かないほどの、腕っ節の持ち主だろう。 レオナードは遠くに消えゆく背中を見つめながら、なぜか羨ましくてしょうがなかった。 直ぐに判ったから。誰かを命がけで護っている背中だと。 羨ましいとすら思った。 今まで、誰かを真摯な想いで護ったことなど無かった。掌に何も残さずに、遺らずに、ここまで生きてきたのだから。 「どうかしましたか、レオナード様」 聖地からの使者が、レオナードを不思議そうに見やる。今まで、散々騒いでいたのに急に黙り込んだからなのか、何か珍獣でも見るような雰囲気だ。 「 何でもねえ。とっとと行くぜェ。エンジュには俺様の晴れ姿を、目ん玉に焼き付けて貰わねえといけねえからなァ」 レオナードが長いストライドで速度を付けて歩き出すと、使者が慌てて着いてきた。 「おら、早く行くぜェ。明日の任命式とやらは、朝早いらしいからなァ」 レオナードは使者をせかすように歩き出す。 からかうような表情をしていたが、レオナードはひとつの想いに一意専心になっていた。 誰かを護ることが出来るのか。 先ほどの男のように、誰かを背中で護ることが出来るのだろうか。呼吸をするように思い出す男の背中は、レオナードが欲しくて手を伸ばしても届かないものだった。 俺にも誰かを護ることが出来るのか? レオナードは新しい運命に向かって歩き始める。 護る相手が出来れば、きっと満ち足りることが出来るだろうから。 でもまだ彼は知らない。それが強みであると同時に、最大の弱みになるということを |