(レオナード×エンジュ)抜粋 「BET ON YOU」 ぼんやりとしたひとりの時間には、私の素敵を上げてみる。子供の頃からの、私の大好きな時間の使い方。 窓の外を見るのは好き。その向こうが、塵のない星海であれば特に。闇にゆたゆたと輝く星は、アイスクリームの中に輝く氷の粒を発見するぐらいぐらい素敵。 故郷で星空を見るのも素敵。沢山の優しい想い出が傍にいてくれるから。 私の発生した場所は、どうしようもない田舎だった。それも『ど』がついてもいいくらいの。生い茂る緑の草いきれも心地よい牧場地帯で、空気が澄んでおり、年中美しい星を見ることが出来る。これが私の故郷自慢。 零れそうに輝く数多の星はまるで金平糖。星を本気で食べようと、口をあんぐりと開けるのは、今でも私の小さな癖。星は金平糖のように甘いと、今でも本気で思っている。いつか食べてみたい…。 そんなことを、柄の悪い光の守護聖様に話をしたら、ドツキ漫才宜しく殴られた。『腹を壊すぞ』とのツッコミ付。有り難う、だけど暴力反対。 もちろん、こんな色気のない想い出だけじゃなくて、女の子らしい想い出も沢山私にはある 一応。 一つずつ、何かを確かめるように星を数え、次の数字が判らなくて泣いたこと。 手を伸ばせば届くところで輝いていた星を強請って泣き、父親を困らせたこともある。 自分で星が取れると思い、父親に肩車をして貰い手を伸ばしたこともあった。高い高い肩車であったのに、星を取ることが出来なくて、大泣きをした お腹が空いていたから星を欲しがったことは、ナイショだけれど。特に、あの無骨な光り輝く守護聖様には。 いけない、また金平糖の話。 とにかく星を見ながら、『ど』の付く田舎で自然児として育った私は、星に対する夢は、確かに普通の女の子とは違っていた。 普通の女の子の夢は、きっと『女王陛下』になるとか『素敵な守護聖様』お嫁さんになるとか…。そんなことは全く興味がなかった。 大きくなったら、宇宙海賊宜しくシャトルを乗り回し、多くの星々を冒険してみたかった。心を躍らせ、沢山の感動を体験出来るアドベンチャーが欲しかったのだ。 女王陛下に元にまで、私の宇宙での活躍ぶりが知れ渡り、聖地に招待され、素敵な守護聖様と恋をして、ペーパーバックのロマンス小説宜しく、甘い歯が浮きまくる言葉で告白され、いつまでも幸せに暮らしました。めでたし、めでたし 終わったらダメだって。 くすぐったい夢想を繰り返していたある日、地元惑星の酪農組合主催のパック旅行で、家族と一緒に主星の星都に訪れた。 女王陛下に一番近い星なのに、ホテルから見た星が余りにも少なくて文句を言うと、少しだけロマンティストの父は、穏やかに笑いながら『宇宙で一番沢山の星が見られるのは、女王陛下のおわす聖地なんだよ。誰も知らないけれど、この主星のどこかにあるんだ』と、教えてくれた。 行きたいと思った。もっともっと大きな星を見て、食べたいと…いや、この手で抱きしめたいと思った。 「私もいつか、”聖地”に行って、沢山のお星様を眺めて、女王陛下(守護聖様)にお逢いしたい!!」 明るい希望に溢れた顔で一生懸命に話す私を、父親は苦笑しながら見つめ、頭を二度、三度と撫でてくれた。ごつごつとした逞しい指を持つ大きな手からは、優しさが溢れていた。 まるでガラスで出来た文鎮のように、透明で少し重たいこれらの記憶は、私の今の生き方総てを予言していた。 学校に上がり、年を重ねるごとに望んでいる希望が叶うのはかなり難しいことを知った。それでも、主成分が”楽天”で出来ている私は、いつか必ず、願いを叶えることが出来ると信じていた。 (フランシス×エンジュ) 「PIECE OF MIND」 私はフランシス様の執務室の前に辿り着いて、畏まって背筋を伸ばした。この部屋の奥にいるひとは、ラヴェンダーの香りがよく似合う。 「フランシス様、エンジュです」 ノックをして挨拶をすると、ドアは恭しく開き、守護聖補佐の方が中まで招き入れてくれた。 「ようこそエトワール様。フランシス様は私室でお待ちですよ」 「有り難うございます」 守護聖様に着く守護聖補佐の方は、どなたもその守護聖様の雰囲気を写した鏡のように思えてしまう。当然フランシス様の補佐官様は、優美な雰囲気を湛えている。 「さあ、どうぞ。フランシス様、エトワール様でございます」 「有り難う」 私が守護聖補佐官の方に礼を言い、そっと部屋に入ると、フランシス様がスローモーションで振り返る。その一瞬、一瞬は、モノクロームの映画のようだ。 「…おはよう、レディ・エンジュ」 「おはようございます…」 フランシス様はいつものようににっこりと微笑まれ、息をためて言葉を紡ぐ。某光の守護聖様によると、「偽善者の微笑み」と「鼻息」らしい 完全に否定出来なかった自分が、私は酷く哀しかったけれど。フランシス様も「獰猛な獣」と言うから、ふたりとも五十歩百歩だと言えるけど。 フランシス様の肩越しに朝陽が広がる。目の前の闇の守護聖様は、朝陽よりも午後の麗らかな光がよく似合う。それも日の沈む前の、少し華やぎと寂しさの満ちた光が。 光に映し出されたフランシス様の姿は、相変わらず眉目秀麗ではあったが、目の下にはうっすらと隈があった。フランシス様は色がお白いので、それが余計にくすんで、綺麗な肌をくすませている。 「…フランシス様、お疲れですか?」 私は差し出がましいとは思いながらも、そっと訊いてみた。 「…ご心配有り難うございます、レディ。私は疲れてはいませんよ…」 「…そうですか? だけど、フランシス様の目の下にうっすらと隈が…」 私がそこまで言うと、フランシス様は瞳の下を少し赤らめた。肌が白いので、紅潮するのも直ぐに判る。 「…レディが朝お早く来られるとお聞きしたので、どうしてもお逢いしたかったのです。ですが、私は朝が苦手で、起きることが出来ないのは嫌だと思い、徹夜をしてしまいました…」 にこりと恥ずかしそうに笑うフランシス様に、私は慌てる。直ぐに心の中に、怒涛の「ごめんなさい」が溢れかえった。 「す、すみませんでしたっ! 私、そんなことになるとはつゆ知らずに、こんな早くこの場所に来ると宣言をしてしまって…」 フランシス様が見るからに朝が弱いことぐらい判っていたはずなのに、私ってなんてお馬鹿で無神経で迂闊だったんだろう。こんな気の利かない女は、きっとフランシス様はお嫌いなはず。フランシス様がお好きなのは、もっとこう、気の利いた大人の女性に違いない。 私がすっかり項垂れて暗い顔をしていると、フランシス様はビロードのような微笑みを向けてくれた。 「良いのですよ、レディ、貴女だから私はそれにお応えしたまで。その他のどなたのご要望にもお応えする気は、さらさらないですけれどね」 「他の方って…例えば…」 「たとえ、レイチェルでも、ハー・マジェスティでもですよ」 フランシス様は歌を歌うかのように言う。その姿は、どこか大袈裟なミュージカルスターのように見えた。 何もかもが芝居じみて見え、かといってそれは芝居ではなくリアルなのだ。本当に不思議な方。 陛下のことを”ハー・マジェスティ”なんて言うのは、フランシス様だけだけれど。こんな衒った言い方も、昔はくすぐったくてしょうがなかったのに、今は私も気に入っているのだから、不思議な話。フランシス様に「レディ」と呼ばれるのも、心地よく受け入れている。 「有り難うございます」 照れくさくなりながらも、私が素直に礼を言うと、フランシス様が過不足のない笑みをまた浮かべてくれた。 (アリオス×コレット) 「NAKED ANGEL」 「…ったく、人騒がせな女王様だぜ…!」 舌打ちをしながら悪態を吐くのは、もう誰か判っている。逞しい腕で支えてくれまがら、きっと思い切り不機嫌な顔をしているのだろう。怖いもの見たさで、私はそっと瞳を開ける。 「ったく、おまえは何度俺を怒らせたら気が済むんだよ…! おまえと一緒にいると、癇癪玉が何個有っても、足りねえな」 目が合った瞬間アリオスは思いきり不機嫌そうに私にガンを飛ばすと、癇癪玉が破裂するような勢いで怒鳴った。…ひえっ、ごめんなさい…! 私は心の中で何度も謝りながら、肩を竦めた。 くすくすと歌を歌うように楽しげに笑う声が聞こえて、私は視線を動かす。エンジュが楽しそうにこちらを見ていた。 私は急にエンジュの視線を意識して、耳から胸にかけて真っ赤になる。 「…アリオス、下ろして。ひとりで何とかなるし…、それに…恥ずかしい…」 私は無意識にアリオスの肩に捕まって縋るように小さな声で言った。その間も脈打つほどに肌が熱く、面映ゆい。 「危なっかしいおまえを下ろせるかよ。どうせ、裸足のままでばたばた逃げちまうんだからな。黙ってろ!」 「…あ…!」 アリオスはポケットから何かを取り出すと、私の口の中に放り込む。途端に甘くてとろけるような味が口に広がり、それがキャラメルであることに気付いた。それも大好きなチョコレート味のキャラメル。もごもごと私が口を動かしていると、アリオスは同じキャラメルを複数箱エンジュに渡した。 「ユーイと分けて仲良く喰えよ」 「有り難う! アリオスさん!」 エンジュは本当に嬉しそうに笑い、大事そうにキャラメルの箱をポケットに直している。完全に餌付けられている。私もだけれど。 「今日は陛下とアリオスさんのツーショットが見られて満足でした!! お二人ともお似合いです! じゃあ、お邪魔虫は退散しますね」 エンジュがとことん嬉しそうに言うものだから、私は何か言い返そうとも思ったが、美味しいキャラメルが口の中でもごもごしていて上手く話すことが出来ない。私が湿った感情を持っていたのに対し、エンジュが秋の空のようにからっとしているものだから、何も言えなくなってしまったかもしれない。 「じゃあさようなら! このことはレオナード様に報告っ♪」 元気いっぱいで、しっかりと大地を踏みしめて走っていくエトワールの後ろ姿を見つめながら、私は先ほどの鈍い銀色の感情が溶けていくのを感じた。 「さてと、女王サマはお仕事に戻って頂かねえとな。キャラメルは1ケース買って来たから、楽しみにしておけ。いっぱい喰えるぞ。チョコレートとヴァニラとココア味があるからな」 「うん、有り難う!」 結局私も食べ物で買収されてしまう。口の中の甘いキャラメルは、誘惑がたっぷりと詰まっているような甘美な味がする。私はそれを味わいながら、幸福が広がっていくのを感じた。 「ねぇ、アリオス、沢山のキャラメルを一体どうしたのよ?」 「あ? 使命に行った惑星で大評判を取っていたから、おまえにもと思って買ったんだが、他のお子様も欲しがると思ってな。沢山いるだろ? エンジュ、ユーイ、ティムカ、マルセル、メルメル…」 確かに。私がキャラメルを食べていたら欲しがる面々ではある。こういったさりげない優しさが、私がアリオスを大好きな理由の一つ。アリオスは悪態を吐きながらも、自分が気に入った相手にはさりげない優しさをくれる。それが素敵過ぎて、時々、私はヤキモチすら妬くことがある。たとえば今日のような瞬間には。 「さっきはエンジュと何を話していたの?」 少しの嫉妬と好奇心をまぜこぜにしながら、私はきいてみた。私が切なく感じる言葉が出てきたらどうしようかと、半ばドキドキしながら。 「…あれか? あれはなこれだ」 アリオスは僅かに憎らしい笑みを浮かべると、一枚の広告を差し出してきた。それを見るなり、私は驚いて目を剥く。 ”第一回アルカディア大食いコンテストの参加要項のチラシ” 字面が美味しそうに踊っている。優勝すれば、セレスティアの憩いのその無料お食事券1年分。闘いには、必ず付添人が必要らしい。 ふむふむ…。なんて真剣にチラシを途中まで読んでいたら、アリオスがニヤニヤと笑っていた。 アリオスの笑みを見た瞬間、私は照れ隠しの余り、チラシを突き返す。 「わ、私はそんなに大食いじゃないもの!」 乙女にこんなものを見せるなんて何てこと!なんて勢いで。でも、少しだけ…ほんの少しだけ興味があったりして…。 私は好奇心を抑えきれずに、ちらりとチラシを見た。そこにはセレスティア飲食点組合が協力とあり、よだれが出る。 カフェオランジェのケーキホール食べとか…、名物ラムシチューを一気食べ…、とか…。 ああ! 私にとっては最高の大会! うっとりと悦に入っていると、アリオスは喉を鳴らしながらくつくつと笑った。 「その顔だと、やる気満々みてえだな?」 「…だって美味しそうだもの…」 「エンジュやユーイ、ランディ何かも出るらしいぜ? エンジュの付添人はレオナードだ」 それは強敵だ! 私が上目遣いで見ると、アリオスは幾分か綺麗な瞳を細めた。 「何だよ?」 「私が出るって言ったら、アリオスも付添人をしてくれる?」 「…さあな…。それなりの報酬をくれるって言うのなら、考えてもいいけれどな」 意味深な笑みに艶めいた光が浮かぶ。アリオスの言葉尻に込められた意味を感じ取り、私ははにかみながら俯いた。 「…考えておく…」 やっとのことで絞り出した声に、アリオスは逆らえない魅力的な笑みを浮かべる。それを判っていて、目の前の自称魔天使は、上等な微笑みを私にくれた。 「ホントに出るって言ったら、付添人をしてくれる?」 「俺も考えておいてやるよ」 少し間を置いて答えたアリオスの声には、幾分かの企みが見え隠れし、私はそれに魅了される。企まれているって判っているのに、引っかからずにはいられない乙女心。 |