*幸せの甘い時間*


 子供が出来てからというもの、花は幸せでしょうがない。

 花がいた世界とは違って文明の力はないけれども、それでも愛するひととの子供を育てるのは楽しいものだ。

 子供の扱いに手慣れているせいか、流石に玄徳は子育てにも協力的だ。

 ずっと良い父親になるだろうと思ってはいたが、全くその通りで、花としてもかなり助かっていた。

 生まれてすぐの赤ちゃんは三時間おきに授乳をしなければならないし、おしめを代えたりと、何かと世話がかかる。

 それでも花が笑顔でやっていけるのは、玄徳がサポートをしてくれているからだ。

 師匠の孔明も“産休”を取らせてくれたので、花ものんびりすることが出来る。

 それは有り難い限りだった。

 花の世界で考えても、働く女性にとっては最新のサポートシステムが導入されているかもしれないと、思っていた。

「…まあ、昔から子育てをしながら、政治の中心にいたひともいるし…。私はそんなにも大変ではないけれども」

 花はひとりごちながら、息子の寝顔を見つめた。

 息子は玄徳に似て、健康優良児だ。

 おっぱいもよく飲むし、よく鳴き、よく眠る。

 ただ夜泣きをしないのは、親孝行だと思っていた。

 職務が忙しい玄徳に、あまり負担を掛けたくはなかったからだ。

 玄徳のような立場になると、妻、子、そして夫の寝室は別々になることが多いそうなのだが、玄徳は三人一緒に暮らすというスタンスを取ってくれている。

 それは有り難くて嬉しいことだ。

 乳母を着けるのも普通らしいのだが、花は愛する玄徳の子供をそばで育てたくて、乳母は置かなかった。

 ただ、馴れない子育てをする花のために、玄徳は助けてくれる立場のベテランを置いてくれた。

 これはとても嬉しかった。

 花が幸せそうに子育てをしているものだから、芙蓉姫も刺激されているらしく、恋人との婚儀も近い。

 花は友人の幸せが、何よりも嬉しかった。

 赤ちゃんをあやしながら、花は幸せな気分になっていた。

 突然、息子が泣き出してしまい、花は慌ててしまう。

「あ、よし、よし。おしめかな?」

 花は息子のおしめを見て、手早く代える。

「ちょっと待っていてね」

 献帝とお揃いの鈴を息子に持たせながら、花はおしめを代える。

 現代のように便利なものなんてないから、おしめでかぶれないようにだけ注意する。

「はい、サッパリしたね」

 オムツを代えた後も、子供は何処か不満そうに花を見つめている。

「あ、そうか。おっぱいだね」

 花は次々に欲求する息子に目を細めながら、授乳をする。

 色々と大変だが充実している。

 まさか違う世界で、こんなにも早く母親になるとは思ってもみなかった。

 だが、今はそれがとても嬉しい。

 息子がお腹いっぱいになったようで、花は背中を何度か軽く叩いてゲップをさせた後、昼寝をさせた。

 ここで花の仕事は一段落だ。

「…君はよくおっぱいを飲んで、よく眠るね…。本当にお父さんによく似て、強くなれるよ…」

 花は息子に声を掛けながら、頬をゆっくりと撫で付けた。

 息子が眠ると、花もしばしの休息時だ。

 のんびりと目を閉じると、そっと眠りに落ちた。

 

 玄徳は花と息子の様子を見るために、部屋に戻ってきた。

 警護をしている兵士と女官を労った後、部屋に入る。

「…花…」

 声を掛けると、花も息子もすっかり眠っていた。

 のんびりと眠るふたりを見ていると、玄徳は幸せな気分になる。

 花は本当に子育てをよくやってくれる。

 それは玄徳にとっては何よりも有り難いことだ。

 やはり子供は親のそばにいることが、真直ぐ育つのだろうから。

 花と息子を見ていると、疲れも吹き飛んで癒される。

 玄徳は思わず微笑んだ。

 花と息子の髪を撫でる。

 それだけで幸せが滲んでくるのだ。

「…花…」

 時折、息子が花を独占するのを嫉妬してしまうことすらある。

「…お前が花を独占しているのが、とても羨ましいよ…」

 息子にひとりごちて、玄徳はつい微笑んだ。

 過去に飛ばされてふたりで献帝を育てていた時は、まだまだ危なっかしい子育てだった。

 ぎこちないなりに一生懸命はやっていたが、それでもまだまだだった。

 しかし、自分の子供を得てからの花は、以前よりも上手く子育てをしている。

 予行演習が出来たからと本人は笑っていたが、それでも立派なものだ。

 こうして愛する家族をずっと見つめていたいのは山々だが、時間がこれ以上は取れない。

 孔明に怒られてしまう。

 まだまだ山のように仕事は残っているのだから。

「…また、後でな…」

 玄徳は息子の頭を撫でて、花の頬にそっとくちづける。

 幸せな休息に、仕事を益々頑張れると思った。

 

 とても幸せで安らいだ気分で目覚めた。

 優しい雰囲気を感じる。

 恐らくは玄徳が顔を見に来てくれたのだろう。

 花はそれが嬉しかった。

 花と同じタイミングで息子が目覚めた。

 可愛くて、つい笑顔になってしまう。

 息子がこんなに可愛いなんて思いもよらなかった。

 息子がゆっくりと目を開ける。

 花だけを見つめて微笑んでくれた。

「じゃあお散歩に行こうか、公嗣」

 花は息子を抱き上げると散歩に行くことにした。

 息子を抱っこして、子供たちのところに行く。

 誰もが笑顔で迎えてくれるのが、花にとっては嬉しいことだった。

 花が息子を連れていくと、子供たちが集まってくる。

「おねーちゃん!」

 子供たちには敬称などは着けさせてはいない。

 ずっと今までのままで名前は呼んで欲しいと思っていた。

 誰もが笑顔で息子を囲んでくれる。

「みんなの弟分だからね。仲良くしてあげてね」

「うんっ!」

 子供たちのしっかりとした頷く声に、花はにっこりと微笑みながら頷く。

「有り難うみんな」

「だけど赤ちゃんって本当に小さいんだねー」

「そうだね。みんなもこんなにも小さかったんだよ」

「おねーちゃんよりさ、玄徳様に似ているよね、赤ちゃん」

「うん。男の子だからね。それはとっても嬉しいよ」

 花と子供たちがわいわいしていると、背後から声が聞こえた。

「お前たち、おやつを持ってきたぞ」

 玄徳の声に、花は嬉しくて声を掛ける。

 子供たちはおやつがかなり嬉しかったらしく、玄徳に群がっていった。

「黒糖のおやつだ。花、お前にもな。栄養が必要だからな」

「有り難う」

 玄徳は子供たちと同じように花にも黒糖おやつを手渡してくれる。

 花に渡してくれたのは、子供たちよりも少しばかり大きなものだった。

「あっ! おねーちゃんのは大きい!」

 子供たちが指差していて、花は困ってしまった。

「花は公嗣の分も入っているからな。まだまだおっぱいを飲まないといけないからな」

「そうか。赤ちゃんの分かー」

 確かに今の花は、息子に母乳をやるために、沢山の栄養が必要だ。

 そこまで気遣ってくれる玄徳が、花は嬉しかった。

「おねーちゃん、赤ちゃんのためにこれ」

 女の子がお菓子を半分差し出してくれる。

 その優しさが嬉しかった。

「有り難う。だけどそれはあなたで食べてね。私も赤ちゃんもこれで充分だからね」

 花は子供に視線を合わせてにっこりと笑う。

「優しいねあなたは」

 花が柔らかく褒めると、女の子ははにかんだ。

「幸せです。私も公嗣も。こんやに優しいひとたちに囲まれているんですから」

「そうだな…」

 玄徳は、花の肩をそっと抱く。

 この世界に足を付けてしっかりと生きていく。

 花は、そう決めて良かったと、心から思った。

 



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