玄徳との命が、花のお腹に宿っていると分かってから暫くして、随分とお腹が大きくなってきた。 玄徳からは様々な漢服をプレゼントして貰ったのだが、流石に、お腹がここまで大きくなってくると、入らなくなる。 そこで、玄徳が反物屋に連れていってくれた。 そこは、以前、玄徳が贈ってくれた沢山の着物を買った店だ。 玄徳はあの時と同じように、店を貸し切りにしてしまうぐらいに服を注文してくれていた。 手を取って、花を店まで連れていってくれる。 こうして手をしっかりと握られると、深く愛されているのが解り、嬉しかった。 まるでデートでもしているかのようで嬉しい。 「こうして久しぶりに玄徳さんとお出かけが出来るのが嬉しいです」 「ああ。俺もな」 手をしっかりと引いてくれるのが、くすぐったいぐらいに幸せだ。 「つまずかないように注意しろよ?」 「はい、有り難うございます」 花は頬を赤らめながら、玄徳を見上げた。 本当にとても大切にして貰っている。 それが花には嬉しくてしょうがない。 こんなにも大切にしてくれている旦那様は他にいないのではないかと思う。 花は感謝をしてもしきれないと思う。 すれ違う町の人々が、花のお腹を見る度に、幸せそうににっこりと微笑んでくれる。 それが嬉しくて、花もつい笑顔になった。 「本当は城に反物の商人を呼んだほうが良かったんだろうけれどな」 「私はこちらのほうが嬉しいですよ。だって、こうして、玄徳さんと手を繋いで出掛ける機会なんて、なかなかないですから」 花がにっこりと笑うと、玄徳はフッと柔らかな微笑みをくれる。 「そうだな。お互いに仕事に忙しくしているからな」 「そうですね」 「なあ、そろそろ仕事を休んだほうが良いんじゃないのか? こんなにもお腹が大きくなってきたら」 「大丈夫ですよ。後少しは」 花はニッコリと笑うと、玄徳を見た。 「流石に、後少しお腹が大きくなってしまったら、ちょっと苦しくなってしまうでしょうけれど。そこまでは頑張ると、師匠には約束しているんです」 花ははきはきと言い切ると、玄徳を心配させないように微笑んだ。 玄徳は複雑そうな笑みを浮かべて、花を見つめてくる。 「本当に大丈夫なのか!? 芙蓉なんかは、お世継ぎを身籠もっているんですから、もう少し大切になさいませって言うぞ」 「確かに、私も芙蓉姫にはよく言われますけれど、だけどこれだけは、大丈夫だって自信を持って言えますよ」 花はしっかりと言うと、玄徳を真っ直ぐ見た。 「まあ、お前がそう言うのならば、そうなんだろうな」 「はい」 玄徳は降参とばかりに頷くと、笑った。 「さあ、行くか。店主が待っているからな」 「はい」 玄徳は更に花の手をしっかりと握り締めると、反物屋へと向かった。 反物屋は、今日も以前と同じように貸切り状態にしてくれていた。 お腹が大きくなっている花の為に、着やすい服が並べられている。 「そんなに数はいらないですよ? 一時的なことですから」 玄徳が用意をしてくれたこの時代のマタニティドレスはかなりの数で、出産の後、着ない服も出てくるのではないかと、花は思った。 「流石にこんなにも着られないですよ」 花が苦笑いを浮かべると、玄徳は花を見る。 「お前が子を産むのは今回だけじゃないだろう? それにお前は乳母の手配はいらないと言っているから、授乳しやすいものにしてある」 「なるほど……」 確かに、玄徳の子どもは、これから何人も産むつもりでいる。 一人っ子にするのは、可哀相だと思っているからだ。 「そうですね。有り難うございます。次の時に、また着れば良いんですからね」 「ああ、そうだ」 玄徳は嬉しそうに言うと、花に服の数々を見せてくれた。 「試しにお召しになられてはいかがですか?」 店の者に言われて、花も玄徳もしっかりと頷く。 「確かにそうですね。ではこちらを」 花は迷うことなく、劉の旗印と同じ色の服を選んだ。 うっとりとしてしまうぐらいに美しい青色だ。 「では、着付けのお手伝いをしますよ」 「有り難うございます」 女性が手伝いに来てくれて、素早く花に服を着付けてくれる。 本当に綺麗な漢服で、花はマタニティの時期だけに着るのはとても勿体ないと思わずにはいられなかった。 「楽しみですね、お子様」 「はい」 本当に子どもが産まれてくるのが待ち遠しい。 待望の愛する玄徳との子どもなのだから。 綺麗にデザインされた服は、花が妊婦であることをさり気なく見せるようになっている。 じっと見つめているだけで、嬉しくなるぐらいに綺麗な仕上がりになっている。 花は着替え終わった後、そっと玄徳の前に向かう。 ほんのりと恥ずかしいけれども、早く玄徳に見せたいとも思ってしまう。 「玄徳さん」 花が声を掛けると、玄徳がゆっくりと近付いてきてくれる。 「良く似合っている」 玄徳が熱いまなざしを向けてくれるものだから、花は恥ずかしくてしょうがなくなる。 ほんのりと耳朶まで真っ赤になった。 「本当によく似合っているぞ。見違えるぐらいにな」 「有り難うございます」 玄徳が一生懸命に選んでくれたものが似合うと言われるのが、やはり花には一番嬉しいことでもある。 大好きなひと色に染まりたいと思うから。 「お気に入りになりそうです」 「ああ。それは良かった」 玄徳は、まるでここには花と玄徳しかいないかのように情熱的に見つめてくれる。 花にはそれがまた幸せだと思った。 「店主、有り難う。残りは屋敷に届けてくれ」 「かしこまりました」 店主に指示をした後で、玄徳はその手をしっかりと握り締める。 「本当によく似合っているぞ」 しみじみと玄徳に言われると、恥ずかしいやら嬉しいやらで、花はつい赤面してしまう。 こんなにも甘くて恥ずかしいことは他にはないだろうと思わずにはいられない。 店を出た後、ふたりでのんびりと町を歩く。 こうしているだけで幸せ過ぎて、笑顔が沢山溢れてしまった。 「食堂にも行きたいところだが、お前に何かあったら困るからな。だから今回はなしだ」 「はい」 ほんのりと寂しい気持ちが滲む。 しょうがないと言えば、しょうがない。 花のお腹には、この地域の将来を左右するだろう人物がいるのだから。 何かあってからは困ると、芙蓉姫にも言われていた。 ふたりきりでこうして過ごせるのもあとわずかであるから、花はほんのりと寂しくて感じずにはいられなかった。 「玄徳さん、このまま屋敷に帰るより、もう少しだけで良いですから、一緒に町を歩きたいです」 「解った。俺もそうしたい」 花の小さな我が儘に、玄徳は甘く微笑んで頷いてくれる。 手を先程よりもしっかりと握り締めてくれ、離れないようにする。 「行きたいところは?」 「玄徳さんにこうして手を繋いで貰うだけで良いです。それだけで充分に幸せですから」 「ああ。俺もそれだけで充分に幸せだ」 玄徳は爽やかに微笑むと、花と更に密着してくる。 「こうしてふたりだけで、この町をゆっくりと楽しみましょう。こうしてふたりだけでいられるのも後少しだけですから…。だけどその後には、もっと温かい幸せがやってくるんですけれどね」 「そうだな……」 花も玄徳もお互いに笑顔になる |