心から愛するひとと、身も心も愛されると、今までにない力が沸いてくる。 小さなことではくよくよしなくなったし、困難にもより前向きに立ち向かえるようになった。 それはきっと愛するひとが大きな愛で包んでくれているからに他ならない。 花はそう思わずにはいられない。 力を得たのも、美しさの本質を理解することが出来るようになったのも、総ては愛するひとのお陰だと、花は思っている。 随分と落ち着くことが出来たのも、大好きなひとのお陰なのかもしれないと、花は強く感じる。 この時空で根を生やして生きてゆくことが出来るようになったのは、愛するひとが精一杯包み込んでくれているからだ。 花は満ち足りた幸せに包まれている。 仕事をしていると、芙蓉姫にじっと見つめられてしまった。 「どうしたの?」 花はそれが不思議で、芙蓉姫を見つめる。 「花さ、とっても落ち着いて綺麗になったよね。それはやっぱり、玄徳様と想いが通じ合ったからだよね」 興味津津とばかりに、芙蓉姫は花を見つめて来る。 芙蓉姫の指摘は、何だか恥ずかしい。だがくすぐったい幸せも分けてくれる。 「自分ではそんなにも変わっていないと思うんだけれど…」 「何だか凄く綺麗になったし、落ち着きが出てきたかな。玄徳様の仕事のことを一番解っているのはあなただから、誰もが認める奥様になるわね」 芙蓉姫からこんなにも褒められると、くすぐったくなる。 「有り難う」 「だけど、本当に綺麗なのよねー。やはり人徳のあるひとに愛されると違うのかしら」 確かに玄徳に愛されていると感じると、本当に心が満たされて、どのようなことでも乗り越えて受け入れられるのだから。 不意に扉が叩かれる。 「花はいるか?」 声を聴けば解る。玄徳だ。 扉を開けると、玄徳が立っていた。 「花、私そろそろ行くわ」 芙蓉姫は気遣ったのか、部屋から出て行こうとする。 「芙蓉、気を遣わなくても構わないんだぞ」 玄徳は言うが、芙蓉姫はすました笑みを浮かべる。 「馬に蹴られたくはないですから帰ります。赤兎に蹴られるぐらいに強烈でしょうから」 芙蓉姫はちらりと玄徳と花を見つめると、くすりと笑って行ってしまった。 「…俺は仕事で用があったんだがな…」 玄徳はばつが悪そうに言うと、フッと甘い光が滲んだ瞳で、花を見つめた。 「まあ、お前とふたりきりになるのは嬉しい」 玄徳は本音を吐露すると、男らしく花の腰をさらう。 「私もです」 花がはにかんで笑うと、玄徳は更に躰を引き寄せてくる。 こうして密着されると、ドキドキするのと同時に、喉がカラカラになるぐらいに緊張してしまう。 これは相手が玄徳だからに他ならない。 玄徳は呻くような声をあげて、苦しそうにする。 「どうかされましたか? 玄徳さん」 「自業自得かもしれないんだが…、お前が…その…綺麗過ぎて…、堪らなくなる」 玄徳は我慢が出来ないとばかりに、花の唇を激しく奪ってくる。 花の唇を激しく吸い上げると、そのまま舌先で唇をこじあけて、口腔内に侵入してくる。 こんなに激しく唇を奪われるなんて思ってもみなかったから、花は一瞬怯む。 「…玄徳さん…」 花が息を乱しながら名前を呼ぶと、玄徳は強く抱き締めてくる。 こうなるともう怯むことなんて出来ない。 花もまた、玄徳に与えられるキスに夢中になってしまう。 仕事の話をしなければならないのは解ってはいる。 だが今は、玄徳が与えてくれるキスに溺れてみたくなる。 お互いの唾液で唇がべたべたになるまでキスをした後、ふたりは暫く、しっかりと抱き合った。 仕事をしなければならないのは解っているのに、ひと時の甘さに酔い痴れたくなる。 「…花…」 玄徳に頭を撫でられるだけで、花は思わず目を閉じてしまいたくなった。 玄徳は決して色恋に溺れて、執務を疎かにするような男ではない。 だが、花こそそうならないように踏ん張らなければと、思う。 「…お前がきれいだから、我慢出来なかった…」 「玄徳さん…」 玄徳に熱っぽいまなざしで見つめられるだけで、花の心は蜂蜜よりも甘く幸せに蕩けてしまう。 「…続きは後にするしかないな。切り替えないとな…」 玄徳は自分自身に言い聞かせるように言うと、名残惜しそうに花から離れた。 「仕事の話をしなくては…な…」 玄徳は忙しい身で、余り時間を取ることは出来ない。だが、もう少しこうしていたいとばかりに、花の頬を撫でた。 「…玄徳さん…、仕事の話を教えて下さい…」 「…ああ…」 時間切れだとばかりに、玄徳は溜め息を吐いた。 花から少しだけ距離を開けると、仕事の時の真摯な表情になった。 「民の雇用を創出するために公共事業をしようかと思っているのだが、その事業内容について、孔明と一緒に精査して欲しい」 仕事の話をする玄徳は、とても精悍だ。 不謹慎ではあるが、ついうっかり見つめてしまうことすらあるのだ。 今も内容をしっかりと頭の中に入れながらも、ついうっとりと見つめてしまった。 「花、聴いているのか?」 「…は、はいっ」 玄徳に厳しい目に指摘をされて、花はついピシャリと返事をした。 「宜しく頼んだぞ。詳しいことは、また朝議で話し合いたいと思っているが、その時までにまとめておいてくれ」 「はい」 仕事モードにならなければならないと、花はなるべく冷静さを掻き集めるようにする。 だが、それが足りないと思ってしまうぐらいに、玄徳が素敵だと思った。 「早速、師匠のところに行って、話してきますね」 「頼んだ」 花は、ドキドキする心を抑えながら部屋を出て行こうとすると、いきなり玄徳に抱き締められる。 こんな風に抱き締められてしまうと、また仕事モードからかけ離れてしまう。 まるで花をチャージするかのように、玄徳はしっかりと抱き締めてくる。 玄徳は花から抱擁を解いた後、苦笑いを浮かべて部屋から出る。 部屋に残された花は、耳まで真っ赤になりながら、暫く、立ちすくんだ。 孔明の部屋にいって、ようやく花は仕事に向かうことが出来た。 民が幸せになる為に、出来る限りのことをしたいというのは、花の強い願いでもある。 「最近、玄徳様の仕事はかなり早いねー。僕たちもそれだけ仕事の早さが求められるということだね」 「はい。玄徳さんのお仕事を手伝えるのがとても嬉しいです」 花がにっこりと笑うと、孔明は複雑な苦笑いを浮かべる。 「玄徳様の仕事が速くなったのは、君のお陰だからね。君は充分、よくやってくれている。だけど、玄徳様には更に頑張って貰わないといけないからね。きちんと足場を固めないと…ね?」 孔明はニコリと笑うと、花を真直ぐ見つめる。 「君も玄徳様も頑張ってくれるから、予想以上に仕事が捗るよ。これで安泰だと言えるよ」 孔明はニコニコ笑うと、仕事を続ける。 「玄徳様と結婚したら益々仕事は捗り、民たちも幸せになるだろうからね。頑張って」 「はい」 返事をして花はふと気付く。 玄徳と花の愛。 それを民の為に最大限に利用しているのは、孔明ではないかと。 やはり食えない師匠だ。 だが、ふたりが愛を育むことが、民の為になるのであれば、それはそれで構わないかもしれないと思う。 ふたりが愛を育てることでみんなが幸せになる。 これ以上幸せなことはないと、花は思った。 |