戦乱が落ち着いたことを祝って、今夜は宴が開催される。 花はその宴の主賓だと言われて、いきなり着飾られてしまう。 「女性の支度は大変だからね。私も精一杯、花を綺麗にするからねー!」 綺麗にされる花よりも、何故か芙蓉姫のほうが盛り上がっている。 いつの時空であったとしても、女性の支度は大変なのだなと、花は実感をする。 花は先ず湯浴みをさせられる。 肌を綺麗に磨くためだと、芙蓉姫に言われた。 「花、美しくなって見せたいひとがいるでしょう?」 思い浮かぶのはやはり玄徳だ。 玄徳に、美しく着飾った姿を見せたいと思う。 「…うん…。綺麗にして欲しい…」 「でしょ? あなたが綺麗になれば、玄徳様はとても喜ばれるわよ」 「だったら嬉しい…」 玄徳に綺麗だと言われたい。 可愛いと言われたい。 大好きなひとには。 「今日の一番の目的は、花をものすごく綺麗にすることなんだからね」「うん、有り難う」 芙蓉姫に任せておけば絶対に綺麗にして貰えるから。 肌を湯浴みで磨いた後は、念入りに化粧を施される。 玄徳の為だけに、花は美しくなりたかった。 「花は本当に肌が綺麗よね」 芙蓉姫が羨ましそうに言ってくれるものだから、花は照れ臭い気分になった。 「有り難う、嬉しいよ…」 「花は素直だよね。あなたが素直だから、玄徳様も惚れたのよ」 芙蓉姫の真直ぐな言葉に、花は照れ臭い気分になった。 だがものすごく嬉しくもある。 「これで漢服を着たらおしまいよ」 「うん」 これからはこの漢服が、花の日常服になる。 軍師として過ごした時間は終わり、花はただの花として生きてゆく。 玄徳のために。 玄徳と生きて行く。 花はそう決めた。 だから綺麗になって、ずっと玄徳のそばにいたいから。 「花、本当に綺麗!」 芙蓉姫が感嘆の声を上げてくれている。 本当にそんなにも綺麗になったのだろうか。 「鏡を見てみる?」 「う、うん」 鏡を見るのにこんなにドキドキするのは初めてだ。 この時代の鏡はかなり高級品だ。 花は自分が幸福だと思いながら、鏡を覗いた。 自分ではないと思うぐらいに綺麗にして貰っている。 うっとりとしてしまうほどだ。 「ね? これだけ綺麗になったら、玄徳様は更に花に夢中になってしまうよね」 「芙蓉姫」 泣きそうになるぐらいに嬉しくて、花は思わず涙ぐんでしまう。 「こら、花。折角、綺麗にしたんだから泣かないでよ」 「うん、うん。こんなに綺麗にして貰えて、本当に嬉しくて…」 涙が滲んだら、折角のお化粧が取れてしまうから。 花は何とかすんでのところで堪えた。 「玄徳様をもっと惚れさせようよ、宴会でねっ」 「有り難う、芙蓉姫…」 花は何とか上を向くと、笑顔になった。 今日は宴だ。 平和な時間を手に入れられたことを祝う為に。 玄徳軍の誰もが楽しみにして、大騒ぎをしている。 玄徳も楽しみにしていた。 こんなにも清々しい宴は初めてであるし、花を堂々と横に座らせることが出来る。 ずっとそばにいさせることが出来るのだ。 花とは既に実質的には新婚生活を送っているから、花が自分のものであることを宣言するためにも、そばにずっとおくのだ。 正式な婚礼は今、慌てて準備をしているところではあるが、花をいち早く自分のものであることを知らしめるには良いことだと思った。 「玄兄ぃ、嬉しそうにしているな。やっぱ花とずっと一緒にいるのは、そんなに嬉しい?」 翼徳がニヤニヤと笑いながらからかっても、玄徳はおおらかに笑い飛ばせる。 それぐらいに幸せだ。 「ああ。花と一緒にいられるのは幸せだ。生涯、愛せる相手を見つけるのは良いぞ」 「何だか惚気られたみたいだな」 翼徳は苦笑いを浮かべている。 だが幸せだからそれで満足だ。 玄徳はそんなことすら思ってしまっていた。 「肝心の花は何処にいるんだ?」 「芙蓉とバタバタしているみたいだけれどな」 「芙蓉姫と。女だけで何か余興をするのか?」 「しない、そんなものは。花にはさせない」 玄徳はキッパリと言う。 花を大切にする。 一生大切にしたい。 だから、花を箱入り娘のようにするのだ。 「そろそろ宴が始まるみたいだ。行こう玄兄!」 「ああ」 宴の席に着いても、なかなか花は来ない。 早く花を堂々と横に座らせたい。 もう侍女を侍らすこともしない。 花だけがいれば良かった。 花がなかなか来ず、侍女が玄徳のそばに来ようとした時だった。 花を迎えに行こうかと思ったところで、華やいだ雰囲気が漂う。 「玄徳様、お待たせ致しました」 芙蓉の声が聞こえて、玄徳は入り口を見つめる。 すると芙蓉が花を連れて入ってきた。 入ってきた花の余りにもの美しさに、玄徳は息を呑んでしまう。 色気が出てきた花は、透明感もあいまって、とても綺麗だった。 ついじっと見つめてしまいたくなるぐらいに、花は美しかった。 玄徳が思わず見つめてしまうぐらいに美しい。 目を見開き、たた息を呑んで愛する花を見つめる。 こんな綺麗な花を見つめずにはいられない。 玄徳は、甘い緊張を滲ませながら、ゆっくりと花に近付く。 誰もが花の美しさに夢中になっている。 だが、花は自分のものであると、玄徳は宣言をしたかった。 「…花…」 玄徳が名前を呼んで手を差し延べると、花ははにかんで手を取ってくれた。 このまま手を握り締めて、寝台に連れていってしまいたくなる。 それぐらいに花は美しく魅力的だった。 目の前に玄徳の手が差し延べられている。 花はその手を取ると、幸せな気分になる。 玄徳は本当に理想的な男性だ。 これ以上の男性はいないだろうと花は思った。 「花…とても綺麗だ…」 玄徳は、花の全身を愛撫するかのような魅力的な声で呟く。 甘くて官能的な声に、花の心は潤んだ。 「俺のそばから離れるな…。お前を独占したいから…」 「…はい…」 花ははにかみながら返事をすると、玄徳にそっと寄り添った。 「…本当は綺麗なお前を独占したいんだけれどな…」 「私も素敵な玄徳さんを独占したいですよ」 花の言葉に、玄徳はしっかりと手を握り締めてくれた。 誰よりも沢山の愛を感じる。 玄徳がいれば、生きてゆけると、花は思う。 「…花…。綺麗だな…。よく似合っている」 「有り難うございます」 玄徳に褒められるだけで、世界で一番素敵な女の子になった気分だ。 花は幸せで堪らない気持ちになりながら、玄徳を見る。 やはり玄徳は素敵だ。 花はうっとりと見つめてしまう。 本当は花こそ、玄徳と二人きりになって、早く抱き締めて貰いたいと思っていた。 玄徳に抱き締められるだけで、この上ない幸せを感じることが出来るのだから。 花は幸せで堪らないと思いながら、玄徳を見る。 そばにいるだけで、何もいらなかった。 ふたりで揃って宴の席に着くと、誰もが驚いているようだった。 花と玄徳が恋仲であることを知っていたのは、周りの子供たちと玄徳軍の中枢にいるひとたちばかりだからだ。 男達は普段の花とは違う美しさに、誰もがぼんやりしている。 「軍師殿! 是非、お話を!」 「軍師殿!」 兵士たちが次々と声を掛けてきてくれるが、玄徳は彼らを牽制するかのように、花を抱き寄せた。 「悪いがお前たち、花は俺のものだから」 玄徳はピシャリと宣言すると、花を更に引き寄せる。 少しがっかりの後、祝福の声が寄せられる。 花はこんなにも祝福をされ、本当に幸せだった。 宴は華やいだ幸せに包まれていた。 |