*Sleepless*


 最近、様々なひとに逢う度に、「疲れてはいないか?」と訊かれる。

 疲れていないと言うと、嘘になってしまうが、心は満たされているから、疲労を余り感じないというのが正解だ。

 正確に言えば、疲れているというよりは、寝不足というのが正しかった。

 寝不足の原因はと言われたら、それは間違いなく玄徳だ。

 毎晩のように花を求めて、愛し合う。

 花を身も心も求めてくれるのは、とても嬉しいことだ。

 玄徳の愛情を感じられることが、何よりも嬉しい。

 むしろ、愛し合うことを歓びに感じているところはある。

 ただ、寝不足になってしまうというところが、苦しいところでもあった。

 午前中の仕事の後、花は時間が出来て、芙蓉姫のところに向かった。

 久し振りにお昼を一緒に食べようと、約束をしていたのだ。

 部屋に入ると、食卓には所謂、薬膳と呼ばれる、健康に良さそうな料理が沢山並べられていた。

「花、待っていたわよ! しっかりと食べるのよ!」

「あ、有り難う」

 あからさまな薬膳料理に、花は戸惑いながらも、芙蓉姫の気遣いが嬉しかった。

「最近、花が疲れているみたいだったから、薬膳料理を作ってみたの。食べてしっかりと栄養をつけてね」

「有り難う」

 芙蓉にこうして気遣って貰うのは何よりも嬉しい。

 花は笑顔になって、食卓に着いた。

「美味しい」

「でしょ? 美容にも良いんだよ」

「だったらお肌もぷるぷるになるかな?」

「だけど花は、最近、疲れているように見える割には、肌が物凄く綺麗なんだよね。透明感があって柔らかそうで。女子の私ですら触りたくなるぐらいに綺麗なんだよね」

 芙蓉姫は羨ましそうに言いながら、花の肌をツンツンと触れた。

「本当に弾力があって綺麗だよねー、花の肌は」

芙蓉姫に絶賛されて、嬉しいやら恥ずかしいやらで、花は俯いてしまった。

「やっぱり、物凄く色っぽくなった上に、しかも肌も凄く綺麗だよねー。疲れているように見えるのに、肌も髪も瞳も絶好調なぐらいに潤んでいるよね? どうして? 玄徳様とさ、きちんとお付き合いを始めた頃から、凄く綺麗なんだけれど…それは、やっぱり…」

 核心に触れられたような気がしてドキリとしてしまった。

「…やっぱり、愛し愛されると、綺麗になるのかなあ? 玄徳様も益々精力的に仕事をしていらっしゃるし…。あなたたちのような関係が、お互いにとって理想的なのかなあ。だって、花は本当に綺麗なんだもん。だから、もっと綺麗になるようにしっかりと食べてね」

「有り難う、芙蓉姫。うん、しっかりと食べるよ」

「綺麗になったら、玄徳様も喜ぶと思うしね」

 芙蓉姫はにっこりと笑うと、花を見つめてくれた。

 綺麗になって玄徳に逢うのは嬉しい。

 だが、疲れが出ている理由が連日の寝不足であるということを、花はなかなか言い出せなかった。

 寝不足の理由は、玄徳が激しく愛してくるのにほかならないのだ。

 そんなことは、なかなか恥ずかしくて、花には言えなかった。

「今日のお昼はとても美味しかったよ。有り難う、芙蓉姫」

「どう致しまして。まあ、この料理は、雲長も手伝ってくれたから、玄徳様も召し上がっていると思うよ」

「玄徳さんが?」

 嫌な予感がする。

「雲長殿は食べさせないほうが良いって言ってたけれど、私は食べさせたほうが良いかなあって思って、お渡ししたわよ」

 雲長にはバレているかもしれない。

 いや、完全にバレているだろう。

 玄徳も薬膳料理を食べたということは、それだけ元気になったということなのだ。

 躰が元気になるだけならば良いと花は思った。

 玄徳に抱かれるのは嬉しいが、たまには眠りたい。

 ふたりで抱き合って眠りたいと思うのは、かなり矛盾した感情なのかもしれない。

「…せ、精がつくの、それ」

「もちろんだけれど…」

 そこまで言って、芙蓉姫は花の寝不足の理由をようやく気付いた。

「ごめんっ! 花っ!」

 芙蓉姫は花に手を合わせた。

「気付かない私が迂闊だったわ。玄徳様はあなたに夢中だものね。当然か…。だけど、玄徳様には、少しは摂生して頂かないとねえ…」

「うん…。だけど、嫌じゃないから言えないんだ。たまには寝かせてくれたらって思うんだけれどね…」

「それはそうだよね。だけど、玄徳様って本当に凄いんだね…。ある意味感心した」

 芙蓉姫が余りに感心するものだから、花は恥ずかしくて仕方が無くなった。

「それはそうか。私が男でも、花を襲っているもん。花って可愛い過ぎ。女の私がくらくら来ちゃうんだもん。相当だよ」

「そ、そんなことはないよ…」

「そんなことはあるっ! 本当に可愛いんだよね。しかも玄徳様は花にメロメロときているから余計にねー」

「…恥ずかしいよ…」

「その恥ずかしがるところが、また可愛かったりするんだよね、花は」

 本当に嬉しそうに芙蓉姫は言うと、花をギュッと抱き締めた。

「花、今も眠い?」

「うん。ちょっとだけね」

「だったら昼寝してきなよ」

 芙蓉姫は、奥にある自分の寝台を開放してくれる。

 それが嬉しかった。

「有り難う。ゆっくりと眠らせて貰うよ」

「うん、どうぞ」

 芙蓉姫はあっさり明るく言うと、寝台を貸してくれた。

 今夜の玄徳に対峙をするには、やはり睡眠をしっかりと取らなければならない。

 花は寝台に横になると、のんびりと夢の世界へと向かった。

 

 余程疲れていたのか、花が目覚めたのは夕方だった。

 これで幾分かはスッキリとした。

「芙蓉姫、有り難う」

「よく眠れた? それは良かったよ」

「うん」

 よく眠れたからと、花が言うと、芙蓉姫は安心したようだった。

「今日は有り難う、またね」

「うん、またね」

 花は芙蓉姫の部屋を出ると、自室へと向かった。

 自室で待っていると、程なく玄徳がやってきた。

 いつもよりも何処かしら艶があるように見える。

「花、芙蓉のところは楽しかったか?」

「はい。楽しかったです」

「それは良かった」

 玄徳は花を見つめるなり、手をしっかりと握り締めてきた。

 それだけでドキドキしてしまう。

 いつもよりも甘い緊張をしてしまう。

「…花…、今夜は…」

 玄徳が興奮気味に呟いたところで、食事を運ばれてきた。

 玄徳はタイミングが悪いとばかりに、苦笑いをするしかなかった。

 

 ふたりで食卓を囲む。

 他愛のない会話をしながらも、ついそわそわとしてしまう。

 食事が食べ終わると、花はいきなり抱き上げられた。

「げ、玄徳さんっ!?」

「花、さっきからお前が欲しくて堪らなかった」

 玄徳は息を乱しながら、花を思い切り抱き締めた。

「…玄徳さんっ…!」

 今夜はこんなに早い時間から愛し合うなんて、今までなかったことだ。

「…花…、今夜のお前は綺麗過ぎる…。堪らなくなる…。食事中は限界だった…」

 玄徳はくぐもった声で呟くと、息を乱しながら、花を寝台に押し倒した。

 息が出来ないほどのときめきに、どうして良いのかが分からなかった。

 

 結局は、一度だけ激しく愛し合った後、玄徳は相当、疲れていたのか眠ってしまった。

 その様子を花はくすりと微笑む。

 相当疲れていた玄徳が可愛かった。

 玄徳は薬膳料理が効かないぐらいに、疲れ切っていたようだ。

「毎日、ご苦労様です…。少しでも私が癒せることなら、何でもしますね…」

 花は何でも出来ることをしてあげたいと思った。



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