*妻恋*


 愛する女性が自分のすぐそばにいる。

 もう帰る心配をすることがないのだ。

 しかもお腹にはふたりの愛が結んだ新しい命が育まれている。

 こんなに幸せなことはないと、玄徳は思った。

 妊娠が解ってからは、花に無理はさせていない。

 どんなことがあっても、大切な宝物である、花とお腹の子供を守りたかった。

 今夜もふたりでしっかりと抱き合って眠る。

 隣りに花がいるだけで、この上なく幸せだ。

 一緒になった頃は、華奢で初々しい躰だった。

 それが今は女らしく艶やかな躰になっている。

 驚く程に美しい。

 花を抱き締めて、その柔らかさと温もりを感じる瞬間が、玄徳は最も幸せだった。

「…花…、愛している…」

 花の髪を撫でながら愛の言葉を呟けば、柔らかな笑顔が花の顔に広がる。

「…私も愛しています…。玄徳さんを…」

 花に愛していると言われるだけで、本当に幸せでしょうがなかった。

「…花…、気分はどうだ?」

「大丈夫ですよ。とても気持ちが良くて幸せです」

「良かった」

 ふたりきりでこうして眠っている時間が何よりも幸せだった。

 少しずつ膨らみ始めた花のお腹にやわらかく触れる。

 赤ん坊がここにいるのが信じられないぐらいだ。

「…赤ちゃんと玄徳さんがいるだけで、本当に幸せですよ…」

「俺もとても幸せだ」

 花の柔らかな躰に触れながら、玄徳は愛し始める。

 もう一度、愛したい。

 花を抱き締めて愛撫をして、激しく愛する。

 こうして花を独占が出来るのが何よりも幸せだった。

 

 愛し合った後、花はあどけなく眠っている。

 玄徳は、花の寝顔をじっと見つめた。

 本当にもうすぐ母親になるとは思えないぐらいに愛らしい。

 じっと見つめていても、玄徳は飽きないと思っていた。

「…花…。ずっとお前を守り続けるから…。子供も…。直ぐに子供たちになるだろうけれどな…」

 玄徳は甘く囁いた後、自分の腕の中にしっかりと花を抱きよせる。

 その可愛さに、玄徳はとろけるような幸せを感じた。

 こうして花を腕の中に閉じ込める幸せは、至上の喜びだ。

 玄徳は優しい気持ちになりながら、花をめいいっぱい抱き締めた。

 

 今日は久し振りに花と一緒に朝寝坊が出来る。

 玄徳は花を相手に無防備になってしまう。

 平和とはこんなに素晴らしいものなのだ。

 愛する者とのんびりすることが出来る素晴らしさがある。

 花より少し前に目覚めて、その寝顔を見る。

 いつまでも見つめていたい。

 ずっと花だけを見つめていたい。

 こうしていつまでも花と仲睦まじくいたい。

 子供たちが呆れ返っても関係ないと、玄徳は思った。

「…んん…」

 花が寝返りを打つ。

 無邪気な表情に、玄徳は思わずくすりと笑ってしまう。

 本当に幸せ過ぎて、玄徳はニヤけてしまう。

 こんな表情は、部下たちには見せられないが。

「…ん…」

 花の瞼が動いて、ゆっくりと瞳が開かれる。

 夢見るようにうっとりとしたまなざしだ。

 玄徳はじっと見つめてしまう。

「おはよう、花」

「おはようございます…」

 寝顔をじっと見つめられていて恥ずかしいのか、花は真っ赤になりながら上目遣いで玄徳を見た。

「玄徳さん、恥ずかしいです…」

「可愛いから、恥ずかしがらなくて構わない」

 恐らくは熱血堅物である玄徳が、妻にこのように甘い言葉をかけるなんて、誰も想像しないことだろう。

 花を腕の中で閉じ込めたまま、玄徳はその胸に引き寄せて離さなかった。

「…今日は少しぐらい寝坊しても構わないから…」

「はい…」

 花は恥ずかしそうにしながらも、幸せそうに笑っている。

「今日は贅沢な日ですね」

「そうだな。やることが多くて、なかなかこうしてゆっくりと出来なかったからな。だが、頑張ったからこそ、こうやってのんびりすることが出来る」

「はい。玄徳さん、ご苦労様です。いつも有り難うございます。玄徳さんが頑張って下さるから、私もお腹の赤ちゃんも、軍の皆も、民の皆さんも元気でいられるんですから…」

 花は穏やかな平和を噛み締めるように言う。

 花はいつも玄徳が欲しい言葉を簡単にくれるのだ。

「…私が一番沢山のものを玄徳さんから貰っているんですけどね」

 花はフフッと愛らしく笑う。

 玄徳は愛し過ぎて、花をギュッと抱き締める。

「…こうして玄徳さんを独り占めにしている時間が、一番幸せなんですよ…」

「…花…」

 花はなんて可愛いことばかりを言うのだろうか。

 玄徳は、日の当たり具合でまだ時間があることを知ると、花を抱き締めたまま組み敷く。

「げ、玄徳さん…っ」

 花の甘い焦りの声を聞きながら、玄徳は甘く深く唇を塞ぐ。

 花の蜂蜜よりも甘い唇を舌先で堪能しながら、熱く煮え滾った欲望を激しく花に伝える。

 花がそばにいるだけで、恋情で理性を保てなくなる。

 玄徳が理性を保つことが出来なくなるのは、花に対してだけだ。

 これだけは本当にどうしようもない。

「…花…」

 玄徳はくぐもった声で愛しい者の名前を呼ぶと、嵐のような情熱で、花を愛し始めた。

 朝だからとかそんなことは関係ない。

 ただ花が欲しい。

 それだけだ。

 玄徳は花を激しく愛しながら、世界で一番幸せな男だと思った。

 

 今日はのんびり出来る日だからと、花とふたりで子供たちが遊んでいるところに向かった。

「玄徳様ー! おねーちゃんっ!」

 子供たちがやってきて、それは幸せな賑やかさを醸し出している。

「おねーちゃんのお腹、随分大きくなってきたねー」

「これからもっとお腹は大きくなるよ。まだ小さいかな」

「そうなんだ。赤ちゃん、楽しみだ」

「ああ。俺も楽しみだよ」

 玄徳は花のお腹を柔らかく撫でる。

 花は幸せな笑みをフッと浮かべていた。

 子供たちも、ふたりの仲睦まじい様子を見て笑っている。

 だが、一部の子供たちは、寂しそうな表情をしていた。

 花はその切ない表情が気になってしかたがない。

「どうしたの?」

 花は子供たちと同じ目線になる。

 するとひとりが目を伏せながらモジモジとした。

「…玄徳様も、おねーちゃんも…、赤ちゃんが生まれたら…僕たちと遊んでくれなくなるんでしょ…?」

 不安そうに言う子供に、花と玄徳はお互いに顔を見合わせた。

 赤ちゃんの世話で忙しくはなるが、子供たちを疎かにしようと思ったことはない。

「赤ちゃんのお世話で忙しくなるかもしれないけれど、皆との時間は大切にするよ。今まで通り」

 花は子供たちに約束をする。

 この子たちが真直ぐ育つように、玄徳とふたりでケアをしてゆくと決めたのだから。

「お前たちも心配しなくて良いから」

 玄徳もまた子供たちの頭をしっかりと撫でるわ

 花は子供たちが安心して微笑むのを確認して笑顔になった。

「花と一緒にお前たちをちゃんと見守っていくから。お腹の赤ん坊はお前たちにとっては弟分みたいなものだからな。安心しろ」

「はいっ!」

「玄徳様。赤ちゃんはもう男の子だって決まっているの?」

 子供のひとりが素朴な疑問を言う。

 確かに。どちらかは分からない。

 健康であれば、どちらでも良いが、正直な気持ちは男の子なのだろう。

「そうだな、まだどちらかは決まってはいないが…、何となく…男の子じゃないかと思っている」

 玄徳の困ったように言う姿が微笑ましくて、花は子供たちに言う。

「たぶん男の子じゃないかな。とっても元気そうだから」

「そうなんだ。私たちも可愛いがるねー」

「うんお願いするね」

 子供たちに囲まれながら、花は玄徳を見つめる。

 これからはもっと幸せになれる。

 そう感じずにはいられなかった。



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