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向こうの世界にいた頃、冬は楽しいイベントが多くて大好きだった。 お正月、大晦日、そしてクリスマス。 大晦日とお正月はこちらでもお祝いをするから、懐かしく恋しく思うのはクリスマス。 花がいた日本では、クリスマスというよりはクリスマスイヴが盛り上がっていたけれども、家族みんなで過ごしたイヴのことは忘れない。 美味しいローストチキン、サラダ、シチューに、甘いクリスマスケーキ、ショートブレッド。 美味しいご馳走と、そして楽しい団欒。 子どもの頃は、サンタクロースがくれるプレゼントが楽しみで、楽しみでしょうがなかったことを思い出す。 セオリー通りに靴下を枕元に置いて、欲しいものを一生懸命願った。 ある日、サンタクロースは両親であることに気が付いて、切ない気分になったのを覚えている。 あんなにも空しい気分はなかった。 がっかりもした。 それから、両親はサンタクロースの真似事を止めて、堂々とプレゼントをくれるようになった。 サンタクロースは信じるひとの心の中にいるからと言われて、それを信じることにした。 だけど優しくて楽しい想い出。 この世界の家族とも、一緒にクリスマスを過ごしたいと思う。 花はそう思いながら、冬の夜空を見上げていた。 「花、どうしたんだ、こんなところで。風邪を引くだろう?」 心配そうに玄徳は駆け寄ってくる。 「夜空を見ていたんです。とっても綺麗だなあって。私が生まれた世界では、ここまでは綺麗な夜空が見えなかったんですよ。本当に綺麗だって思っていたら、生まれた世界のことを思い出して。懐かしいなって思って」 花はあくまで軽い雰囲気で言う。 玄徳がかなり気にすることは、解っていたからだ。 「生まれた世界で、冬にする楽しい行事があったんですよ。本当に楽しくて、こちらでもできないかなって思っていました」 花が笑顔で言うと、玄徳はほんの少しではあるがホッとした表情を見せた。 「どんな行事なんだ?」 「私たちの世界の神様の誕生日をお祝いするんですよ。ご馳走を食べたり、後は贈り物をしたりして」 「そいつは楽しそうだな。お前の所には、沢山の楽しそうな行事があるんだな」 「はい。だから今度はこっちの皆と一緒にお祝いをしたいって思っていますよ」 花はそう言って笑ったが、つい寒くて躰を震わせた。 「こら、寒いんだろう」 玄徳は言うなり、花を背後から優しく抱き締めてくれる。 その温かさに、花は思わず目を閉じてしまう。 なんて温かいのだろうか。 本当にプレゼントを貰ったかのようだ。 「温かいです」 「そうか…。花、お前の世界のその行事がどのようなものなのかを、教えてくれないか?」 「はい」 花は嬉しくて、躰の前に回された玄徳の手を握り締める。 「神様の誕生日は冬で、お祝いをするために、みんなで美味しいご馳走を食べたり、プレゼントを交換します。そして、クリスマスツリーという、モミの木を飾るんですが、これがまた素敵なんですよ」 かなではうっとりとした気分で呟く。 「クリスマスのお祝いがちゃんと出来ると、それだけで願い事が叶うような気分になるんですよ。だから、今年は楽しいクリスマスを皆とお祝いをしたいです」 玄徳と一緒のクリスマスなんてロマンティックだ。 ふたりでいるだけで素敵な気分になるのだから。 「是非」 花が明るく言うと、玄徳は頷いてくれた。 「そのクリスマスとやらは何をすれば良いんだ?」 「飾るのに相応しいずっと緑のままの木を使います。そこに可愛い飾りをいっぱい飾るんです。願い事が叶うようにと」 「だったら、早速、明日にでも飾る木を探しに行こうか」 「有り難う」 ふたりはお互いに頷き合うと、明日の準備が楽しみだと思う。 「飾り付けを手伝ってやるからな」 「はい。子供たちも呼びましょう。それと子供たちには贈り物をするんですよ」 「そうか。それも喜んでくれるかもしれないな」 「はい」 玄徳と一緒にクリスマスを過ごせるなんて、つい踊ってしまいそうになる。 子供たちと楽しんで過ごした後は、やはり大好きなひとと一緒に過ごしたい。 クリスマスを愛するひととロマンティックに過ごしたい。 それは子供の頃からの夢だから。 「玄徳さん、あの…、子供たちとクリスマスした後、私とふたりでクリスマスをして下さい」 花はドキドキしながら頬を真っ赤にして呟く。 「…解った。お前と、クリスマスとやらを一緒に過ごしてやるよ」 見上げると、眩しいぐらいに温かい笑顔とぶつかる。 「有り難うございます。楽しみにしていますね」 「ああ。一緒に楽しもうな」 玄徳は優しく囁いてくれた後、花を更に抱き寄せてくる。 「ずっと外にいたから、躰が随分冷えたな。中に入ろうか。お前も冷えている筈だから、一緒に温まろう」 「…はい…」 玄徳とふたりで抱き合えば、きっと温まる。 玄徳は花の手をしっかりと握り締めると、室へと向かう。 ふたりでたっぷりと温まるために。 モミの木に近い木を使って、クリスマスの飾り付けをする。 子供たちと一緒に、植物や木で飾りをつくり、それを飾る。 「玄徳様、楽しいです!」 「お姉ちゃん、楽しいよ!」 子供たちが無邪気に喜んでくれるものだから、花は嬉しくなってしまう。 こうして子供たちに喜んで貰えるのは本当に嬉しかった。 「喜んでくれているな。良かったな」 「はい」 仕事の合間に、様子を見に来てくれた玄徳に、花は笑顔で頷く。 「お前たちなかなか上手く飾り付けられたな」 玄徳は子供たちの輪の中に入ってゆくと、一緒になって楽しんでくれる。 花は心が温かな気分になった。 子供たちと、ご馳走まではいかないが、美味しい昼食を楽しむ。 その後は細やかではあるが、“玄徳サンタ”から、贈り物が届けられた。 これには子供たちは大喜びで、花は一緒になって笑った。 ほんの細やかなものだったが、それでも喜んでくれたのが嬉しかった。 軍の子供たちを中心にお祝いをした後、いよいよ玄徳との時間だ。 このクリスマスパーティのために、忙しいのにも拘らず玄徳は沢山の時間を作ってくれた。 花はそれだけで最高のクリスマスプレゼントになると思う。 ふたりで、蜀でお馴染みのどちらかと言えば少し辛い料理を食べる。 ふたりだけの時間をこうして過ごせるだけで、なんて幸せなのだろうか。 「お前とこうしてふたりでのんびりと出来る理由があるというのは、良いものだな」 玄徳の言葉に笑顔で頷きながら、花は気付く。 クリスマスというのは、一緒にいたいという想いに理由付けするためにあるのかもしれない。 そう思うと、いつどこでもあっても良いのかもしれない。 「花、お前は贈り物は良かったのか?」 「はい。こうして玄徳さんと一緒に過ごせることが、何よりもの贈り物ですから」 「俺もな」 玄徳はフッと笑みを浮かべると、花の手を取る。 「…それに、お前以上の贈り物というのはないのかもしれないからな」 「有り難うございます。私にとっても玄徳さんは最高の人生からの贈り物ですよ」 「有り難うな」 玄徳は微笑むと、花をふんわりと抱き締めた。 温かな抱擁に、花はうっとりと総てを預ける。 クリスマス。 それは愛するひとと過ごすための時間。 それを花はこれからも重ねてゆこうと思った。 |