いよいよ今年も最後の日を迎えた。 やはりお正月が一番の行事ということもあり、誰もが忙しくしている。 花も、玄徳の妻として、色々と準備をすることも多いのだ。 玄徳の着物や、宴の準備、軍全体の正月準備までをしなければならない。 だが、多くの女官が手伝ってくれるから、バタバタと忙しいというわけではないのだが、気分的に忙しくなるのだ。 花が正月準備の最終的なチェックをしていると、玄徳がやってきた。 花以上に玄徳は忙しいというのに、こうしてきちんと花を気遣っていてくれる。 その優しさが嬉しかった。 「花、すまないな、お前に全部任せっきりにしてしまって」 「玄徳さんこそ、かなりお忙しいんじゃないですか? 無理はされないで下さいね」 花は、玄徳が働き過ぎで、健康状態が気になって仕方がない。 誰よりも大切な玄徳だから、常に健康でいて欲しかった。 「お前こそ、余り無理をするんじゃないぞ。俺こそ細かい仕事をお前に押しつけてしまっているからな」 「気にされないで下さい。大丈夫ですから」 花が明るく言うと、玄徳はそっと抱き寄せてきた。 しっかりと抱き締められると、安心する。 このひとに頼って良いのだと。 このひとに甘えて良いのだと。 守られているのだと。 だから安心出来る。 花は深くそう思わずにはいられなかった。 「…花…」 「玄徳さんにこうして抱き締められているだけで、頑張ろうって思います。癒されるんです。有り難うございます」 花が笑顔で礼を言うと、玄徳は更に抱き締めてくる。 「お前とこうしているだけで、俺も癒されるんだからな…。これは本当のことだからな」 「はい」 花はギュッと玄徳を抱き締めて、残りの準備を頑張ることにした。 お正月の準備が終わったのは、大みそかの夕方だった。 ようやく玄徳とふたりきりで過ごすことが出来る。 それが嬉しかった。 お正月は挨拶や宴で、二人きりになってゆっくりとすることが難しいから、今夜は静かに過ごすことにしたのだ。 紅白歌合戦なんてないから、ただふたりきりで静かに甘い時間を過ごすのだ。 とびきりに甘い癒される時間を。 夕食に花は蕎麦を打った。 やはり年越には蕎麦は欠かせない。 とはいえこちらの蕎麦は、中華そばなのだが。 所謂、ラーメンのようなものだ。 花は心を込めてそれを作る。 「おそばを作りました。私の世界では、大みそかにおそばを食べて、健康や繁栄を祈るんですよ」 「そうなのか。だったら縁起が良いものなのだな」 玄徳は嬉しそうに言うと、笑顔でそばを食べてくれる。 「お前の国ではこの他に正月には何をするんだ?」 「うちの家族は、和気藹々としていたんですよ。おそばを食べたり、色々とテレビを見たりしていましたよ」 「てれび!?」 玄徳は不思議そうに語尾を上げた。 「お芝居や歌を見るものと考えて頂ければ良いかと思います」 「そうなのか。宴をするということか?」 「家族限定の宴と考えて頂ければと思います」 「そうなのか」 玄徳は頷くと、花を見た。 「とにかく、楽しい年越だったんだな」 「はい」 花が素直に頷くと、玄徳は一瞬切なそうな顔をした。 「…懐かしいか?」 「確かに懐かしいですけれど、これからはもっと賑やかなお正月になるんじゃないかと思います」 「そうだな。早速、来年はひとり…だからな」 「はい」 花は笑顔で頷くと、まだまだ小さな膨らみであるお腹を柔らかく何度も撫でた。 「玄徳さん、こうしてふたりでのんびり出来るのは今年だけですから、のんびりしましょうね。明日からは忙しいですから」 「ああ。そうだな。明日から忙しいからな」 「はい」 ふたりで顔を見合わせて、くすりと笑いあった。 ふたりは、年越そばを食べながら、ほのぼのとした年末を過ごす。 こうしていると温かな気持ちになる。 花は幸せで、つい笑顔を浮かべずにはいられなかった。 「…花…。これからもずっと、大みそかは家族で過ごそうな」 「はい。勿論ですよ」 ふたりは笑みを浮かべると、幸せだと心から感じていた。 年越そばを食べ終わり、花と玄徳はのんびりと過ごしていた。 「お前は年越そばを食べた後は何をしていたんだ?」 「初詣でに行くこともありましたが、大概は眠ってしまっていました。大みそかは家中がバタバタとするのが決まっていますたから」 「疲れて眠るということか…」 「はい」 玄徳は頷いた後、花をいきなり抱き寄せる。 「今日も色々と仕事をさせてしまったが、眠くはないか?」 「大丈夫ですよ」 「…そうか…。だが、寝台に行った方が良いような気がするが」 玄徳に官能的なまなざしで見つめられると、花はもう何も考えられなくなる。 「年越の瞬間は、お前をしっかりと抱き締めていたい…」 「…はい…」 玄徳は花を抱き上げて寝台まで連れて行くと、しっかりと抱き締めて、愛し始める。 花もまた玄徳をたっぷりと愛したかった。 年が変わる瞬間には、愛するひとのそばにいたい。 それが今の一番の幸せだからだ。 ふたりで熱い情熱で彩られた肌を重ね合う。 しっとりとした温もりに酔い痴れながら、花は玄徳が与えてくれる愛の世界に溺れていた。 激しく愛し合った後、気怠い幸せにふたりは漂う。 温かな幸せはふたりを甘く和ませてくれる。 玄徳は花を抱き締めて、そのまま髪を柔らかく撫でてくれた。 玄徳が優しいリズムで頭を撫でてくれるものだから、花は気持ちが良くて、つい日向の猫のように気持ちが良くて目を閉じてしまう。 「…気持ちが良いです…」 「俺もこうしていると幸せだ…」 「私、愛するひとの腕の中で大みそかを過ごすのがずっと夢だったんですよ。こうして願いが叶ってとっても嬉しいです」 花は夢にまで見た愛するひととのロマンティックな夜に、つい笑顔になった。 来年にはもう子供がいるか、こういう甘い時間はこれが最後かもしれないから。 「…来年は子供も出来て賑やかで楽しいかもしれないが、もっと温かな時間を過ごそうな。子供がいても、温かくて気持ちが良いふたりの時間を過ごそうな」 「はい!」 玄徳の言葉が嬉しくて、花はしっかりと抱き締めずにはいられない。 なんて幸せな時間なのだろうかと、思わずにはいられなかった。 ふたりは唇を重ね合って、更なる愛を交換しあう。 そろそろ年越しの時間だ。 新しい年がやってくる。 「玄徳さん、今年もお世話になりました。来年も宜しくお願いしますね」 花は改めて愛するひとに挨拶をする。 玄徳は蕩けるように甘い笑みを浮かべて頷いてくれた後、花を抱き寄せる。 「こちらこそ、有り難うな。今年は沢山世話になったな。来年も宜しく頼む」 「はい、勿論です」 ふたりはそっと寄り添って、新年の瞬間を迎える。 新しい年は、去年よりももっともっと素晴らしい年になるだろう。 それは確実だと花は思う。 素晴らしき年を玄徳と迎えられて嬉しい。 ここにはカウントダウンのようなドラマティックなものはないけれども、それでも新年になった瞬間は解るものだ。 空気が清らかに変質するのだ。 花は玄徳にしっかりと抱き着くと、甘く微笑む。 「あけましておめでとうございます、玄徳さん」 「あけましておめでとう、花」 ふたりは新年の瞬間を感じ取ると、どちらからともなく唇を重ね合う。 神聖なキスに、これからの幸いを感じた。 |