|
とはいえ、こちらには、チョコレートなんてないから、どのように愛していることを伝えようかと、花は思ってしまう。 バレンタインは女の子にとってはチョコレートよりも甘い、とっておきのイベントだ。 花も是非この世界の愛するひとに、同じようにバレンタインをしてみたい。 こういった素敵なイベントがあるということを、大好きなひとに教えてあげたかった。 女の子である以上は、やはりとびきり甘いイベントを、体験したかった。 花は早速、チョコレートの代わりになるようなものを探した。 当然、この時代の東洋に、カカオが存在するわけがないことぐらいは、花も知っている。 ならばとびきりに甘くて美味しいお菓子を作りたいと思った。 思い付くのはやはり胡麻団子だ。 胡麻団子をハート型に作って、揚げるというのはどうだろうか。 それともハート型の中華カステラはどうだろうか。甘い豆も入れたら、とっても美味しいだろう。それともそこに果物を入れたら、とっておきのスウィーツになるのではないだろうか。 そんなことを考えるだけで、つい声を上げてしまうぐらいに幸せな気持ちになった。 大好きなひとは喜んでくれるだろうか。 花はそれだけを考えながら、くすぐったい幸せを感じずにはいられなかった。 大好きなひとは、バレンタインデーには早く帰って来てくれるだろうか。 花は訊いてみるために、室へと向かった。 「玄徳さん、少しお時間はよろしいですか?」 「ああ、構わない」 玄徳の声を聞いて、花は静かに室に入った。 「どうしたんだ、花」 「お仕事中、ごめんなさい」 「お前ならいつでも歓迎だ」 玄徳の優しい言葉が嬉しくて、花はつい笑顔を綻ばせると、いきなり抱き締められた。 「玄徳さん…」 「お前の顔を見るだけで、ついこうして抱き締めてしまいたくなるんだよな」 玄徳は苦笑いを浮かべると、花の頭をゆっくりと柔らかく撫で付けた。 「花、用件はなんだ?」 「…あの…、玄徳さん…、十四日の夜は少しだけ時間が欲しいんです。玄徳さんと一緒に過ごしたいんです…。いけませんか?」 花はおずおずと懇願するように言いながら、上目遣いで玄徳を見た。 すると玄徳は、甘く笑って更に強く花を抱き締めてくれた。 「良いに決まっていれだろう? お前と一緒に過ごしたいと、いつも思っているからな」 「有り難う。その日は、私の世界の女の子にとっては、とても大切な日なんですよ。大好きなひとと過ごすための特別な日だから、玄徳さんと一緒に過ごしたいんです」 花がバレンタインデーのことをほんの少し説明すると、玄徳は興味を持ったようで笑顔で頷いてくれた。 「その日はとても大切な日のようだな。そんな日にお前と一緒にいられるというのが嬉しいな」 「玄徳さん…、だからこそあなたと一緒に過ごしたいと思ったんです。それにバレンタインデーは、女の子から男の子へと恋を告白して良い日ですから」 「それは良い日だな」 玄徳は笑うと、花を更に強く抱き締めてきた。 「その日は甘い物を食べる風習があるので、お菓子を一生懸命作りますから、楽しみにしておいて下さいね」 「ああ。だが、俺はこっちの甘い物の方が好きだけれどな」 玄徳は、ごく自然に、花の唇に自分の唇に押し当ててくる。 本当にチョコレートよりも甘いキスをうけているような気がした。 「有り難うございます。甘いチョコレートよりも素敵でした」 花の言葉に、玄徳が更に抱き締めてくれたのは、嬉しくてしょうがなかった。 バレンタインデーのご馳走は、玄徳に喜んで貰いたい。 花は、朝から張り切って料理の下拵えをする。 特に気合いを入れて作るのは、やはりバレンタインスウィーツだ。 甘く熱い恋心を、スウィーツに閉じ込めたい。 花は結局、ハート型の胡麻団子とハート型の中華カステラの二種類を作ることにした。 夕食は、水餃子や、坦々麺、そして小籠包と、花がこちらに来てから食べた様々な料理を作った。 玄徳に美味しいと言って貰えることが、何よりも嬉しいことだから、花は一生懸命作った。 激務で疲れている玄徳を、せめてこの料理で癒してあげたいと思う。 そして今宵は、自分から愛の言葉を伝えたいと思った。 いつもは沢山の愛の言葉を、玄徳に囁いて貰っているから、自分からも言いたいと思う。 愛の言葉を自分から囁くなんて、かなりドキドキしてしまうが、花にとってはときめく瞬間でもあった。 夕食の準備と、デザートの準備を手早くする。 食事の準備を終えて、花はテーブルをセッティングする。 今日はとっておきの夕餉であるから、出来るだけ素敵にしたかった。 食事の準備の後で、花は念入りに髪を結って、化粧をする。 特別な日だから、いつもよりもうんと綺麗にしたかった。 玄徳から贈られた漢服を着て、お洒落は完成だ。 いつもよりも少し早く、玄徳がこちらに帰ってくる。 足音が聞こえるだけで、花はうっとりとときめいてしまう。 甘い気持ちでいっぱいになりながら、花は大好きなひとを待ち構えた。 「ただいま」 「おかえりなさい、玄徳さん」 花が笑顔で出迎えると、玄徳はフッと甘い笑みを浮かべて、抱き締めてきた。 「こうやってお前を抱き締めると、本当にホッとするな…。仕事の疲れが取れる」 「だったら嬉しいです。私も玄徳さんとこうして一緒にいるだけで、疲れが吹き飛んで、本当に幸せな気分になれますから」 「ああ。俺たちはお互いに支えあっているんだな…」 しみじみと言う玄徳の言葉に、花もまた幸せな気分になる。 温かい気持ちだ。 「玄徳さん、今日は早く帰ってきて下さって有り難うございます」 「お前と一緒に過ごせるのが、俺にとっては、最高の時間だ」 玄徳は甘く微笑むと、もう一度抱き締めてくれた。 「玄徳さん、ご飯が出来ていますよ。一緒に食べましょうか」 「ああ」 ふたりきりで温かな食卓を囲む。 こうしているだけで、本当に幸せだ。 「これ、全部お前が作ってくれたのか。有り難うな」 ふたりは早速温かな食事を食べる。玄徳が何度も「美味い!」と言ってくれるのが、花には嬉しくてしょうがなかった。 いよいよデザートだ。 ハート型の中華カステラと胡麻団子を出す。 これを玄徳は不思議そうに見た。 「何だ…この形は…?」 「ハートっていって、恋する心を表しているものなんですよ」 「そうか…。有り難うな」 玄徳はフッと嬉しそうに微笑むと、花をギュッと抱き締めた。 「頂こう」 「はい」 玄徳は、甘いお菓子をゆっくりと頬張ってくれる。 「美味いな、有り難う」 玄徳が喜んでくれるのが嬉しくて、花はずっと笑顔になった。 甘いお菓子も食べて貰ったから、愛の言葉を伝えなければならない。 世界で一番大好きなひとに。 「…玄徳さん、一番、大好きなです…。愛しています」 いきなりの愛の告白だったからだろうか。玄徳は一瞬、驚いた笑みを浮かべた。 「いきなりで驚いたが、有り難う。嬉しい。俺も愛してる」 玄徳は甘く囁くと、花を抱き寄せてキスをする。 唇が離れた後、花ははにかんだ笑みを向けた。 「今日は女の子が告白をする日ですから…」 「そうか。だったら、お前の愛を確かめないとな」 玄徳は甘く笑うと、花を抱き上げて寝台に連れてゆく。 甘いバレンタインデーは過ぎてゆく。 |